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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第4章 傲慢を授かりし者
37/73

最後の希望

アデラ達は高台近くの洞窟に一旦身を潜め、ジュノが負傷して横たわっているエルベルトの治療を試みている。


「ジュノ……エルベルトの容体は……?」

「幸い急所は免れてるようだ。でも、危険な状態だって事に変わりは無ぇ。峠を越えられるかどうかは……エルベルト次第だ」

「エルベルトさん……」


ティアナがエルベルトの手を握り、祈るように瞑想する。


「戻って来い、エルベルト……!」


そんな彼女を気遣いながら、ショーンも喝を入れるような声を絞り出す。


「こんな所でくたばってる場合じゃないだろ……?」

「あなたまでいなくなったら……それこそ父親(トラヴィス)の思う壺よ……?」

「タレス陛下との約束を果たないと……エルベルト君……!」


クレオ・ウルスラ・アイザックの3人も必死に呼び掛ける。


――――――――――――――――――


「はぁ……はぁ……」


深く暗い微かな意識の中で、エルベルトは虫の息となっていた。

すると――


「エルベルト……何故お前は苦しみ、涙を流している?」


彼の傍らに亡き兄・ガルシアが姿を現した。


「兄さん……?」

「さぁ、立ち上がるんだ。泣き喚いていても、何も解決はしまい」

「兄さん……僕は兄さんの遺志を継いで、ここまで仲間の皆と必死に足掻いてきたんだ……でもどうやら……僕は兄さんみたいに強くなれないまま……全てを終える事になりそうだ……」


己の非力さを嘆く(エルベルト)に、(ガルシア)はそっと歩み寄る。


「何故そんなに卑屈になる? 自信を持て。お前は十分強くなっている」

「……えっ?」

「いいか、エルベルト……私はいつだってお前の傍にいる――それを忘れるな」

「兄、さん……」

「私の遺志を継いでくれるのだろう? ならば、全て終わりなどと匙を投げるな。お前なら――否、お前とマーガレットなら必ず成し遂げられる。だから……立ち上がれ、エルベルト……!」


――――――――――――――――――


「う……うぅん……」


頭の中で聞こえたガルシアの声に呼応するように、微かな呻き声を漏らしながら、エルベルトは徐に目を開ける。


「エルベルト……!」

「エルベルトさん……!」


それに気付いたショーンとティアナが、歓喜の声を上げる。同時にハルマンが駆け寄ってきて、エルベルトの許に跪き顔を覗き見る。


「エルベルト様……! お気付きになられましたか……!」

「ハルマン……? ここは……?」


目だけを動かして周囲を確認しようとするエルベルト。


「先程の場所から程近い洞窟です。ここでこの者が療治しておりました」


そう言って、傍らにいるジュノの肩に手を添える。


「エルベルト……よく戻ってきた……!」

「皆、本当に心配したんだから……!」


ジュノとアデラも安堵の表情を露わにする。特にアデラに至っては、目に(うっす)らと涙を浮かべている。

彼女達にこれ以上心配を掛けられまいと、エルベルトは矢が刺さった辺りを庇うようにして、徐に上体を起こす。


「皆さん……多大なるご迷惑をお掛けし、申し訳御座いません……あっ……そういえば、タレス陛下は?」

「彼なら軍を率いる為に、既に戦地に赴いたよ」

「無論、あなたの容体を随分気に掛けてたけどね……」

「全くあんたって人は、(つくづく)世話の焼ける子だねぇ」


タレスにまで迷惑を掛けてしまった事を詫びるように小さく頭を下げ、徐に立ち上がろうとしたが――


「うぅっ……!」


一瞬激痛が走ったのだろうか、短く呻き声を上げ、矢が刺さった辺りを押さえながらその場に跪いてしまう。


「エルベルト様……! 今はまだ安静にしていなければ……!」

「済まない、ハルマン……でも、タレス陛下が戦地に向かっている以上、僕達も行かなければ……逸早く父を止める為にも……!」


痛みを堪えて前へと進もうとするエルベルトを気遣いながら、アデラ達はタレスとの合流の為に先を急ぐ。

だが合流出来たところで、大陸一の兵力を誇るポスマーニ軍の前には焼け石に水――多勢に無勢である。いくら足掻こうと、連合軍の勝機は望み薄であろう。

しかし、それでも9人はクォージウスの未来を賭け、希望を胸に戦地へと足を運んでいくのであった。


――――――――――――――――――


その頃、城の前には多くの兵達が集められていた。彼等の指揮を取るのは、王命により正式に主将の座に就いたアルフォンスだ。


「陛下……兵の準備が整いました」


戦地へ赴く手筈を踏んだ事をトラヴィスへ報告する。


「……来たようだ」


タレス率いるマームスト軍の兵達とポスマーニの民兵達が、崖道から城へ向けて進軍してきているのを目視したトラヴィスは――


「アルフォンス主将よ……連合軍とは即ち、名ばかりの民兵と敗残兵の寄せ集め――我が軍の足元にも及ばぬ子羊の群衆に他ならぬ……まさかその程度の者達に後れを取る、という事はあるまいな……?」

「主将の名に懸けて……断じてありませぬ」


月夜に釜を抜かれる事の無いように釘を刺す。


「いざ、出陣!」

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


そしてアルフォンスは、己が信じる誇りを胸に、兵達の士気を高め、戦地へと赴いていった。


――――――――――――――――――


「この先の跳ね橋を渡れば、城はもうすぐです……!」


アデラ達はハルマンの先導の下、ウィーグム城へ向けてポスマーニの街を駆け抜けている。

戦況やエルベルトの容体など気になる事は山程あったが、今はタレス率いる連合軍と合流する事が最優先である。

そして、目と鼻の先にある跳ね橋に到着する。ここを渡れば合流を果たす事が出来る――筈だった。


「こ……これは、何と……!?」

「跳ね橋が……上がってる……!?」


だが何という事だろう、城へと通ずる橋が上がっており、道が途切れていたのだ。

想像だにしていなかった事態に、誰もが困惑の色を隠せない。


「チッ……! これじゃ城に辿り着けねぇじゃねぇか……!?」

「籠城する訳でも無いというのに、何故橋が……!?」


ジュノもティアナも、もどかしさと焦りが()い交ぜになった感情を露わにする。


「……っ!」


その時、何かの殺気を感じたのだろうか――


「不味い事になったぞ……!」


ショーンが警戒心を強めて周囲に目を向ける。

次の瞬間、物陰に潜んでいたポスマーニ軍の兵士が、矢を(つが)えた弓を引きながら姿を現し、アデラ達に狙いを定める。


「まさか……これが目的だったって訳……!?」

「どうすれば……! これ程の数では、避け切る事も防ぎ切る事も……!」


アデラ達に切り抜ける機会を考える暇も与えず――


「放てぇっ!」


1人の兵士の掛け声と共に、一斉に大量の矢が放たれる。


「ていっ!」

「ふんっ……!」


しかしクレオが鞭のような斬糸を、ウルスラが鉄扇を大きく振るい、放たれた矢を全て()ね退ける。

だがその直後――


「掛かれぇっ!」

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


近くの物陰に潜んでいた別のポスマーニ軍の兵士が、大勢で一斉に襲い掛かる。

その中でアイザックは、冷静に魔導書を開き――


「水龍よ、押し流せ!」


3体の水龍を操り、周囲の兵達を(ことごと)く押し返していく。

しかし後方で待機していた別の軍隊が、間髪入れずに次々と押し寄せてくる。


「こんな所で足止め食らってる場合じゃないのに……!」


この場から離れようにも、袋の鼠に等しい状況に置かれているアデラ達には、兵の群衆を掻い潜る隙すら見出せない。

最早一掃するしかないと意を決し、他の6人も各々の武器を手にしようとする。

だがその時、アイザックが突然「待ちたまえ」と制止する。


「ここは私とクレオ君とウルスラ君で出来る限り戦力を削いでおく……! アデラ君達は別のルートから迂回して城へ向かいたまえ……!」


3人でこの場を凌ぐという言葉に、アデラは当然不安を覚える。


「アイザックさん……でもあまりにも数が――」

「心配無用だ……! 私達は君達の【本物】の力と【正義】を信じている……! だから、ここは私達に任せて先に行くんだ……! さぁ……!」


彼に同調するようにウルスラは微笑みながら頷き、クレオも「さっさと行きな」と言わんばかりに首を振る。


「クレオさん……ウルスラさん……アイザックさん……有難う御座います……!」

「この借りは必ず返すからな……!」

「俺達に弔い合戦させんじゃねぇぞ……!?」

「御三方に聖炎の御加護があらん事を……!」

「僕達も信じています……必ず合流してくれると……!」

「では皆さん、私に付いて来てください……!」


どうやらハルマンは、城へと通ずる他の道を知っているようだ。彼の先導の下、アデラ達5人は足早にその場から立ち去る。

残った3人は、迫り来る軍隊を見据え、再び戦闘態勢に入る。


「さて、そろそろ彼等を迎え撃つとしよう……!」

「ウフフ……見掛け倒しだと思って甘く見てると、痛い目見るわよ……?」

「サポーターの意地、無礼(なめ)んじゃないよ……!」


威勢のいい掛け声と共に、ポスマーニ軍兵の群衆が3人を取り囲んでいった。


――――――――――――――――――


アデラ達が進む道の先では、アルフォンス率いる兵士達がマームスト軍の兵士を次々と薙ぎ倒していた。

あまりにも役不足だと感じたのか、アルフォンスは「歯応えが無い……」と言わんばかりにフンッと鼻を鳴らす。


「アルフォンス主将……」


剣を振るその姿を捉え、アデラ達は一旦立ち止まる。

程無くして、アルフォンスは一行の姿を目視すると、そちらへと歩み寄る。


「戻られたようですな、エルベルト様」


向けられたその目付きは、恐怖を覚える程に殺伐としている。


「陛下より命を受けております。戦場であなた様を見たならば……有無を言わさず殺せ、と」


トラヴィスに対する忠誠もあるのであろう、彼の言葉からして、今回ばかりは以前のように逃がすつもりは毛頭無いようだ。


「父上と共に、覇道を歩むつもりですか?」

「如何にも……」


静かにそう宣言し、徐に剣を構えると――


「私は陛下に心からの忠誠を誓い、この剣を捧げた。これが……これこそが、騎士としての我が生き様……故に、(おの)が信じる剣を貫くまでっ!」


自らを鼓舞するように叫びながら、エルベルト目掛けて剣を振り下ろす。

対抗する為にすぐ剣を引き抜いたエルベルトだったが、それよりも先にアルフォンスの剣が何者かによって防がれた。


「くぅ……! 小娘ぇ……!」


彼の屈強さに負けじと、棒を駆使して抵抗する女――アデラだ。


「あんたがそう言うのなら、私達も自分が信じる【本物】の力を使って捻じ伏せるまでよ!」

「小癪なぁ……! 兵よ!」

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


アルフォンスの号令で、周囲にいたポスマーニ軍の兵士達が続々と加勢してくる。

しかし……


「風よ、吹き飛ばせ!」


ティアナの風属性魔法により、皆近付く事が出来ない。

それでもすぐに態勢を立て直し、再び向かおうとするが……


「しつこいぞっ!」

「そのままくたばってろよっ!」


ショーンが短剣を、ジュノが斧を両手に持って応戦する。


「はあぁっ!」

「でやあぁっ!」

「ちぃっ!」


3人が時間稼ぎをする中、アデラとエルベルトはアルフォンスとの激しい剣戟(けんげき)を繰り広げていた。


「そろそろ雌雄を決させてもらうぞ……!」

「流石は主将です……付け入る隙がまるで無い……!」

「これじゃあ、合流する前に皆疲弊しかねないわ……! 真面(まとも)にやって隙が出来ないのなら、こっちから作るしかないわね……!」


アデラは改めて棒を構え――


光よ、彼の者を眩ませ(フルグーレ・ルクス)!」


先端から白い光の玉を放出し、それを拡散して閃光を放つ。


「フンッ、光の使い手か……だが、俺の目に眩ましなど効かぬ……!」


蔑むように呟いたアルフォンスは、己の剣に雷属性魔法を宿らせると――


「雷鳴よ、轟き響け!」


地面目掛けて思い切り振り下ろす。

次の瞬間、放たれた雷光が地面を裂きながらアデラ達の足元へ襲い掛かる。


「危ないっ!」


間一髪のところで躱せたものの、地面は大きく抉れ、彼の攻撃力の強さが如何程かを思い知る事になった。


「平伏せ。貴様等若造如きが俺に楯突こうなど、蟷螂之斧(とうろうのおの)もいいところだ」

「確かに……幾多の戦を切り抜けてきて、主将の座にまで上り詰めたあんたと比べれば、私達の経験なんて雀の涙にもならないでしょうね……」

「堂々と敗北宣言か? だが、俺の耳には命乞いなど――」

「でもね……そんな若造でも、裏を掻く隠し球を持っている事があるのよ……!」

「……何だと?」


アデラは立ち上がるや否や、再び棒を構えて――


雷よ、彼の者を封じよ(シジルム・トニトルス)!」


先端から格子状の巨大な黄色い光の球体を放ち、アルフォンスの全身を包み込んで彼の自由を制限する。


「な……何……!? 貴様、雷の使い手でもあったのか……!?」

「エルベルト、今よ!」

「アルフォンス主将……悪く思わないでください……!」


エルベルトは両手で剣を構え、己の持つ光属性魔法を宿らせると――


「光よ、我に征する力を!」


鎧を砕かんばかりに、斜めに大きく振り下ろす。

避ける事も防ぐ事も出来ず、強烈な一撃を受けたアルフォンスは――


「があぁっ! ぐうぅ……!」


苦悶の表情を浮かべ、荒い呼吸を繰り返しながらその場に跪く。


「くっ……! まさか、これ程までの力が……!」


そんな彼の許に、エルベルトは情けを掛けるかのようにそっと歩み寄る。


「アルフォンス主将……あなたは僕が城を出る前に教えてくれましたよね? 兄さんは七光りを鼻に掛ける事を極端に嫌っていたと……」

「……」

「きっと兄さんは、父に代わって手本になろうとしていたんだと思います。その為に己を殺し、迷いや雑念を取り払い、国と民を第一に思って戦っていた。だから兄さんは、あそこまで強くなれたんだと……僕はそう信じたいです」


するとアルフォンスは、何かを悟ったのか、あるいは己の憐みを自嘲しているのか、小さく笑い声を漏らしながら口を開く。


「以前から、ずっと迷いがあった……一体何の為に剣を振るっているのか……だが、いくら自問自答を繰り返しても答えは出ず……拾ってもらった陛下に……あの暴君に従い、付和雷同し続けていた……俺は……俺、は……」


そのまま倒れ込んでしまい、続く言葉は発せられなかった。


「アデラ! エルベルト!」

「こっちは全員終わったぜ!」

「御二人だけで大丈夫でしたか?」


兵士の討伐を終えた3人が、その報告の為に駆け寄って来た。


「こっちも何とか治まったわ……!」

「なかなか手強かったです……」

「……」


その時、戦況を見守っていたハルマンが、倒れているアルフォンスの許へ歩み寄り跪くと――


「気絶しているだけのようです。如何致しましょうか、皆様?」


彼の首筋に手を置き、生きている事を確認した上で、5人に問い質す。

それに対してエルベルトは――


「生かしておきましょう……もう僕達に刃を向ける事は無いでしょうし……彼は今後、この国には不可欠な存在となる筈ですから」


と、情けを掛ける。

他の4人も「エルベルトが言うのなら」と小さく頷いて同調する。


「では、先を急ぎましょう」


6人は足早にその場を立ち去った。


――――――――――――――――――


その頃、一部のマームスト軍の兵士は、城の屋上まで攻め入っていた。だがそこで待ち伏せていたポスマーニ軍の壁に、悉く返り討ちに遭ってしまう。


「フンッ……脆い」


トラヴィスもまた鼻で笑いながら、次々と上がって来るマームスト軍の兵士を、己の剣で完膚無きまでに斬り殺していく。


「連合軍の結束とやらは、最早その程度のものか……笑止千万極まりない……兵達よっ! 今こそ勝利の時ぞ! その命、余に捧げよ!」

「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」


兵達を再度鼓舞して士気を高めると、トラヴィスは下界を見下ろし、アデラ達連合軍の動向を、蔑むような冷ややかな目で見詰める。


「さぁ、非力な子羊共よ……這い上がれるのなら這い上がって見せよ……余の力に抗い、足掻いて見せよ……爪を隠しているというのならな……」


――――――――――――――――――


一方、タレス率いるマームスト軍と合流を果たしたアデラ達6人は、行く手を阻むポスマーニ軍兵の集団を相手に苦戦を強いられていた。

1人の兵を始末しても、後から2人3人と兵が湧いて出てきている為だ。


「陛下、お下がりください!」

「馬鹿を言え! この状況下で、退ける訳無かろう!」

「ですが、このままではっ……!」


終わりの見えない攻防で、マームスト軍の兵士達は皆疲弊している。一瞬でも隙を見せようものなら、(たちま)ちポスマーニ軍に押されてしまう。

圧倒的不利な状況に、その場にいる誰もが奥歯を噛み締める。


「どんなに無勢でも、希望だけは捨てるな……! 絶対にだ……! 【本物】の光は、必ずある……!」


苦し紛れながらも、断じて後退をしてはならぬと奮い立たせる。


と、その時……

アデラ達が通って来た方向から、複数の人影がこちらへ近付いてくるではないか。

タレスがその存在に気付くと――


「……っ! あれは?」

「行けえええぇぇぇ!!」


女性の大きな声が聞こえ、ポスマーニ軍でもマームスト軍でも無い、武装した十数人の男女がその場に駆け付ける。そして各々の武器で、ポスマーニ軍の兵士を次々と薙ぎ倒していく。


「何、あの人達?」

「一体何が起きたというのですか?」


降って湧いたような援軍に、アデラもティアナも目を丸くするばかりだ。

その時、一際目立つ青い服を着た女性が、剣を携えて姿を現す。


「お待たせ、エルベルト」

「姉さん……!? どうしてここに……!?」


何とそれは、マームストで別れたエルベルトの双子の姉・マーガレットだった。


「旅で出逢った()()()に聞いたの。『双子の弟が全てを(なげう)って、大陸の未来の為に、同志達と決死の覚悟で戦ってる最中だけど、私達はどうする?』って……見ての通り、反対する人は誰もいなかった!」

「「「エルベルト様!」」」


心強い者達が味方に付く事になり、その感動のあまり、エルベルトは目に涙を浮かべている。


「姉さん……僕達の為に……」

「なるほどな……これがあの時言ってた、やり残した事……か」

「その仲間もやらも、打てば響く叩けば鳴る当たれば砕く、だな」

「私達も全員、守るべき未来の為に全力で戦う! 一緒にお父様を討ちましょう、エルベルト!」

「……うん、勿論だよ!」


ショーンとジュノは感心し、エルベルトは涙を拭いながら快諾する。

すると、マーガレットの仲間の1人と思しき男が、城の方から駆け付ける。


「マーガレットさん、城へと続く跳ね橋を下ろしました!」

「有難う。それじゃあ、正面から一気に攻めていきましょう!」


ポスマーニ軍兵の残党を蹴散らすと、マーガレットは仲間達を連れて、下ろされた跳ね橋を渡っていく。


「私達も後に続かないと……!」

「でも待ってください。あの御三方を置いていく訳には……!」

「あそこの跳ね橋はまだ上がったままだ……どうする? また来た道を戻るか?」

「いえ……橋を下ろした方が間違いなく早いかと……!」

「私もエルベルト様の意見に賛成です」

「なら下ろしに行くか。善は急げだ……!」


アデラ達はすぐに跳ね橋の許へ行き、上がっている橋を下ろす。

そこには、ポスマーニ軍の兵士の屍の山の中で、威風堂々と佇む3人の姿が……やはり彼等に任せて間違い無かったようだ。

合流後3人はエルベルトからマーガレットの事を聞き、ならば自分達もと駆け足で城へと向かう。

その途中、城の前にいるタレスの姿を捉える。


「陛下……!」

「皆の者……全員無事で何よりだ……!」

「今し方エルベルトから聞いたけど、マーガレットが加勢してくれたんだって?」

「如何にも。マーガレット王女は、既に仲間と共に城内へ先発している」

「何故あなたは一緒に行かなかったの……?」

「私は部隊を再編してから突入するつもりだ。皆の者、どうか頼んだぞ……!」

「分かりました……皆、行こう……!」


アデラ達は意を決し、ウィーグム城内へと進入していった。


――――――――――――――――――


城の中には両軍の兵士の屍が其処彼処に転がっていた。

トラヴィスが屋上にいると踏んだアデラ達は、入り組んだ城内の廊下を、時折迷いながらも確実に進んでいく。

途中、待ち伏せや奇襲を掛けるポスマーニ軍の兵士と何度か出会(でくわ)したものの、冷静に全て蹴散らしていった。


やや時間を費やしたものの、アデラ達は漸く開けた屋上へと辿り着いた。

そこには、多くのポスマーニ軍の兵士の屍と、満身創痍で項垂れながら座り込むマーガレットの仲間達の姿が……


「皆さん……!」


叫びながら駆け寄っていくエルベルト。アデラ達も後に続く。


「エルベルト様……! それに他の皆様も、御無事で何より……!」

「だが、君達のその様子を見る限りだと……やはり――」

「はい……勇戦したのですが、あと1歩及びませんでした……」

「そう……でも、命あっての物種よ……」

「ハッキリ申し上げます……彼奴(きゃつ)の力は、皆様の想像を遥かに超える程強大です。どうかお気を付けて……!」

「マーガレット達の力を以てしても、か……こりゃ厳しいね」


その時エルベルトは、仲間達に紛れて、左腿から大量の血を流して苦悶の表情を浮かべているマーガレットを見つけ、すぐさま彼女の許へ駆け寄る。


「姉さん……! 大丈夫……!? しっかりして……!」

「エルベルト……無事に辿り着けたみたいね。私、お父様の許に辿り着く前にポカ仕出かしちゃったみたいで……引率者として情けないわ……」

「そんなに出血して……それだと真面に歩く事も――」

「心配しないで、本当に大した事無いから。少し休んで血が止まりさえすればすぐ戦える。だから、エルベルトは先に行ってて」

「……」


エルベルトは一瞬だけ逡巡すると、徐に振り返りジュノへ視線を向ける。


「ジュノさん……止血の薬と包帯は持ってますか?」

「えっ? あぁ、とりあえず一通りの道具や薬は常備してるが……」

「貸してもらえませんか?」


そう言われたジュノは、戸惑いながらも薬と包帯を手渡す。

エルベルトはそれを受け取り、マーガレットの許に跪く。


「エルベルト様……?」

「エルベルト……? 早く行って、お父様を――」

「さっき2人で約束したじゃないか、一緒に父を討つって……だから僕には、姉さんを王の間に連れて行く義務がある。姉さんが怪我ですぐに戦えないなら、弟の僕が治療してあげるのが筋でしょ?」

「エルベルト……」

「皆さん……我儘を言うようで申し訳ないですが、先に父の許へ行っていてもらえませんか? 後で姉さんやハルマンと必ずそちらに向かいますので……」


申し訳無さそうな表情を浮かべて懇願するエルベルト。そんな彼に対して、7人の答えは既に決まっていた。


「我儘だなんてとんでもないよ」

「えぇ……弟が姉を思いやるのは当然の事……」

「とりあえず、暫くはあたし達に任せな」

「御二人に聖炎の御慈悲があらん事を……」

「本当にお前は老婆心の権化だよな。まぁ、それが良いところなんだけどさ」

「お前は今出来る事を優先しろ。焦る必要は無い」

「私達皆で【正義】を貫いて、【本物】を取り戻すわ……!」


アデラ達の言葉に、エルベルトは「有難う御座います」と頭を下げ、ハルマンと共にマーガレットの治療を始める。


「トラヴィスは、この先の王の間にいます。後は頼みましたよ、皆さん……!」


全てを託された7人は、気持ちを改めて更に奥へと進む。

そして長い階段を上り切った先にある重厚な扉を開け、王の間へ入室する。


クォージウスの未来が懸かった天王山の火蓋が、今正に切られようとしていた――

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