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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第3章 嫉妬を授かりし者
28/73

大女優の集大成

「ふんんっ!!」

「でやぁー!!」


マリアの短剣とアデラの棒による猛攻撃が【イメルダ】に何度も襲い掛かる。

だが、何処で習得したのだろうか、【イメルダ】は人間業とは思えないような身の(こな)しで、2人の物理攻撃を難無く(かわ)しているではないか。

余裕があるような、嘲りを込めた笑みも浮かべている。


「フフフ……あなた達の武力ってその程度? 退屈する程に止まって見えるわ」

「くっ……! 小癪な……!」

「なら、これを出すまでよ……!」


アデラは棒を強く握り締めながら構えると――


火よ、彼の者を燃やせ(アルディエ・イグニス)!」


先端から灼熱の火を放つが――


「甘いわね……水よ、防げ!」


【イメルダ】の前に間欠泉のような強い水圧を伴った水の壁が出現し、一瞬にして火属性魔法を消滅させてしまった。


「水の使い手……!?」

「その通り。この壁がある限り、どんな攻撃も私には届かないの。うっかり触れようものなら、一瞬にして水圧で潰れてしまう代物よ」

「何て事……! これじゃあ、迂闊に近付けないじゃない……!」

「まだまだ、私はこんなもんじゃないわよ……!」


アデラは再び棒を構え、先端を【イメルダ】へ向ける。


「フフフ……またあれを出すつもり? 火は水に弱いなんて赤ん坊でも――」

「別邸から早々にいなくならなければ、もっと私の事を詳しく知れたのに……!」

「何ですって?」

「私は火だけの使い手じゃないって事よっ! 光よ、彼の者を眩ませ(フルグーレ・ルクス)!」


棒の先端から、今度は白い光の玉を放ち、水の壁に触れる寸前で拡散させて眩い閃光を放つ。


「……っ!?」


【イメルダ】は目を眩ませて身を蹌踉(よろ)めかせる。同時に形成されていた壁が、彼女の心情の揺らぎを表したのように消失してしまった。

その瞬間を見逃さずに――


「隙ありっ!」


棒で【イメルダ】の首筋や二の腕、脇腹に脛等ありとあらゆる箇所を強打し、追い打ちとして、先端で腹部を思いっ切り突く。

連続で強襲を受けて【イメルダ】は足元がふら付いている。


「今よっ!」


そして、アデラの一声が劇場内に響き渡ると――


「イメルダ……これで終わりよっ……!」


止めとして、マリアが短剣で【イメルダ】の胸部を斬り裂く。

斬られた箇所を右手で押さえ、肩で息をしながらその場に跪く【イメルダ】。暫くして、己の死を悟ったかのような穏やかな笑みを浮かべて立ち上がり――


「そう……これでいいのよ……この時を……私はずっと待ち望んでいたから……」


足を引き摺るようにして、徐に2人の許へ歩み寄っていく。


「幾千幾万の、憎悪の刃に貫かれても……悔いは……無い、わ……」


その言葉を最後に【イメルダ】は膝から崩れ落ちて絶命する。


こうして終演の幕が下ろされ、劇場内はスタンディングオベーションに包まれた。


――――――――――――――――――


下ろされた緞帳の裏では、アデラが【イメルダ】の許に身を屈め、彼女が本当に死んだのか、はたまた若干の息が残っているのかを、首に触れて確認する。


「脈が無い……本当に終わった……?」


彼女が絶命している事が分かった、正にその時……

アデラの頭上を、物凄い速さで何かが通過していった。


「えっ?」


何事かと身体を起こすと、マリアが立っている場所の背後の壁に、ナイフと矢が刺さっているではないか。


「チッ……避けられたか」

「まぁいい。ここに()()()()()だけでも良しとしないとな」


更に、アデラの背後の舞台袖から、聞き慣れた声と共に見覚えのある姿の2人の男が、彼女の許へと歩み寄ってきた。


「ショーン……!? ジュノ……!? 何でここに……!?」

「餌にするような形になって済まねぇな、アデラ。だが、あいつに怪しまれないように泳がすには、こうするしかなかったんだ。許してくれ」

「お……泳がすって……な、何の事なの……!?」

「アデラ、落ち着いて聞け……イメルダに復讐を誓う盗賊なんか、最初からいなかったんだ。あの女こそがイメルダ自身なんだからなぁ……!」

「……へっ?」


(にわか)には信じ難い言葉を突き付けられ、アデラはショーンが指差している方へと徐に視線を向ける。


「何を根拠にそんな戯言を……見ての通り、私は――」

「風よ、巻き上げろ!」


指差されたマリアが反駁する最中、突如聞こえた耳馴染みのある女性の声。それと同時に、マリアの全身が風属性魔法の渦に巻き込まれる。

その魔法を繰り出したであろう者が、アデラの背後の舞台袖から現れる。その人物もまた、アデラの良く知る者だ。


「ティアナさん……!? 衣装の担当をしていた筈じゃ……!」

「申し訳御座いません、アデラさん。実はこの大劇場での私の任務は、昨日で既に終了していたんです。今日は別件でここへ赴きました」

「別件……って……?」

「昨夜あなたが休息されている間、真相を知った私達は、今日この場で彼女の【本物】の顔を明らかにする為の作戦を練っていたんです。あなたを除け者扱いするつもりは無かったのですが、お二人に口止めされていた故、御理解と御許しを」

「敵を欺くにはまず味方からじゃねぇけど、そういう事だ」

「もう1度あの女を見てみろ、アデラ」


ショーンに唆され、アデラは改めてマリアの方へ視線を向ける。

するとどうだろう……風属性魔法を受けた彼女の顔の皮膚が所々剥がれ落ちているのだ。しかもそこからは、明らかにマリアとは別人の皮膚が覗いている。


「えっ……? 嘘でしょ……? まさかそんな――」

「アハハハハハハハ……! バレちゃ仕方無いわね」


笑うしか無い程に諦めたのか、【マリア】の被り物を脱ぎ捨てると――


「あなた達の推理通り……私がイメルダよ」


【本物】のイメルダがその姿を露わにする。

余計な手間を取らせるな、と言わんばかりの視線をぶつける3人に対し、アデラは絶望に(ひし)がれた表情を浮かべて後退りながら――


「ちょっと待って……じゃあ……この人は一体……?」


傍らで倒れている【イメルダ】を一瞥する。


「それは私が雇った役者よ。私に忠実且つ信頼を寄せる女……この物語の助演を、最期まで完璧に務め上げてくれたわ。そして……私もマリアを演じた。今日この場に至るまで、ずっと()()()()()()()の」

「演じて、た……?」

「劇場で初めてあなた達を見掛けて会話を交わした時……ものすごい勢いで、全身に熱いものが駆け巡ったの。この人間達からは、言い表せない何か強いものを感じる……私に嘗て無い【糧】を(もたら)してくれるに違いない――そう確信して、私は演じる事を決めたの……遺恨と復讐心だけを【糧】に生きる哀れな女を――あなた達をこの物語へ導く案内人をね」

「……」


【マリア】はイメルダが作り上げた虚像だった――その事実に、アデラは絶句して立ち尽くしている。

だがイメルダには、たった1つだけ納得出来ない事があった。


「でも……どうして【彼女】が私だって分かったの?」

「フンッ、俺達が何も気付いていないと思い上がっていたか……」


見縊(みくび)られていた事に対する怒りとも、己の演技力から来る慢心に対する呆れとも取れる鼻息を漏らすショーン。


「お前がマリアとして俺達に接触してきた時、真っ先に俺達の事を『旅人さん』って言ってただろ? あの場で俺達が旅人だと聞いていた人間は、お前以外の他には存在しない」

「そして別邸において、ジミーさんが息を引き取る直前に取った行動――あれこそが、自分を抱えていたのが、心から愛していたあなたであった事を暗示していました。それで私達の疑惑は確信に変わったんです」

「どういう事ですか、ティアナさん……?」

「ジミーさんは鼻が非常に良く利く方でした。香水や染料のほんの僅かな残り香だけで、誰がそこにいたのかを当ててしまう程に……」

「姿形を変えたところで、まさか身体の匂いで勘付かれるとは思っても見なかっただろうな……正に蔵頭露尾(ぞうとうろび)のしくじりだ。本気で俺達を嵌めようってんなら、団子隠そうより跡隠せを徹底すべきだったな」


ジミーの鼻の良さを知っていたティアナと、彼の死に際の微かな動きを見抜いたショーンとジュノ――確かにその3人がいなければ、真相に辿り着く事は永久に不可能だっただろう。

図らずも、イメルダに信頼を勝ち取ったと思わせるように動いていたアデラ――彼女の存在もまた【本物】の真実に近付く為の鍵だったのかもしれない。

最早言い逃れの出来ない状況に立たされたイメルダは、天を仰いで――


「まさかブローチの御礼としてもらった香水が(あだ)になるなんて……」


今は亡き贈り主のジミーを思うように、遠い目をして呟く。

だが、4人の方へ視線を戻すと「でも……」と、やや厳しい口調で反論する。


「あなた達が私を非難する資格なんてあるのかしら?」

「資格、ですか……?」

「あの時、私はあなた達に問い掛けたわよね? 『本当に自らの眼に映し出されたものを信じるのか』って……それに対して、あなた達は否定しなかった。それって、自分達は虚飾と真実を見分ける事の出来ない、純真無垢な人間だって宣言したも同然だとは思わなかったの?」

「「「「……」」」」


苦し紛れの弁明のような負け惜しみに、4人はただただ苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるのが関の山だ。


「フフフ……この際だから、いい事を教えてあげる。マリアという女は、私の【旧友】なの。互いに互いをよく知っている仲なの。そして、あなた達――特にアデラ(あなた)は【彼女】を最後まで信じ、この物語へ導かれた……どう? 楽しんでくれた?」

「……」


特にアデラは、【本物】を見つけるという信念を、最後の最後まで弄ばれた事に、歯を食い縛って涙目になりながら鋭い目で睨み付ける。

そんな彼女を揶揄(からか)うように、不気味な含み笑いを漏らすイメルダ。

ところが、魂を抜き取られたかのように突然笑いを止めたかと思うと、無表情のまま項垂れる。

すると先程とは打って変わり、身体を震わせて、嗚咽しているようにも恐怖に怯えているようにも聞こえる息遣いをし始め――


「……助けて」

「「「「……?」」」」

「殺……して……早く私を殺してっ!!」


突然錯乱を起こしたかのように、意味不明な言葉を叫んだかと思うと、再度項垂れて心を落ち着かせるように何度も肩で息をし、徐に顔を上げるや否や、またいつもの不敵な笑みを浮かべる。


「見苦しいところを曝してしまったわね……フフフ……気にしないで、吃逆(しゃっくり)みたいなものだから」


そう言った直後、イメルダはふいに真顔になり――


「あなた達を手に掛けるつもりなんて更々無かったんだけど……【旧友】がどうしても言う事を聞いてくれなくて……だから――」


4人を掴もうとするかのように、徐に右手を挙げていく。

その中指には、アデラとは異なるデザインが施された指輪が――


「あっ……!」

「【嫉妬】の力宿りし指輪よ……我の声を届け、真なる姿を……真の【嫉妬】を我に与えたまえ……」


イメルダがそう唱えた瞬間、指輪が赤く発光したかと思うと、彼女の身体が不気味な漆黒のオーラに包まれ、その体積を次第に増大させていく。

そして激しい爆発音と共にオーラが霧散すると、そこにはイメルダの原形を全く留めていない、正視する事とも儘ならない(おぞ)ましい姿をした巨大な化け物が、鋭い牙を剥いて4人を見下ろしていた――

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