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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第3章 嫉妬を授かりし者
26/73

崩壊を見越したエチュード

「イメルダ、入るぞ」


ジミーが入室したのは、別邸内の稽古場と思しき大部屋。そこでイメルダが、1人で黙々と演技の稽古をしていた。

彼の存在に気付くと、演技を止めて素のイメルダに戻る。


「ジミー……今、次回作の演技の洗練をしているんだけれど、イマイチ納得のいく演技が出来なくて……」

「寸暇を惜しむのはいいが、演劇に支障が出たら元も子もない。少しは息抜きする事も、演者としては大事だぞ?」

「息抜きするより【糧】を探してた方が、私には性に合ってるの」

「……」


聞く耳を持ってくれなさそうな雰囲気に、ジミーは少々辟易していた。


「……で? 私に何か用があるんでしょ?」

「時間が出来たから、久し振りにコリーナに会いに来た」

「そう……あの子にね……」


無表情で顔を背けるイメルダ。コリーナに興味が無いのは本当のようだ。

すると、その時……


「お父様! 見て、見て!」


突然コリーナが、無邪気に大部屋へ入ってきたのだ。


「コリーナ……!」

「さっき庭でね、幸せを運ぶ八つ葉を見つけたの! これ、お父様にあげる!」

「何してる……ここへ来ては駄目だ……!」

「……あっ」


そこで初めてイメルダの存在に気付いたコリーナは、彼女の姿を見るや否や、ジミーの背後に隠れて、彼の脚にしがみ付く。

対してイメルダは、猫撫で声で誘い出そうとする。


「何故すぐに彼の背後に隠れるの? 怖くないから出て来なさい」

「……」


それでも頑なに彼から離れようとしないコリーナ。そんな詰まらない姿に、イメルダは能面のような表情になるなり、大きな溜息を吐く。


「これだから子供は駄目なのよ。第一、子供は人間として不完全な存在よ。私が(そそ)られる、人間本来の心の闇の深さや醜悪さが皆無なんだもの」

「もう分かった、イメルダ。すぐに部屋から追い出す」


ジミーはコリーナの手を引いて、その場を後にしようとしたのだが――


「その必要は無いわ、ジミー」


と、イメルダに制止させられてしまう。


「えっ……?」

「次回作で私が演じようとしているのは、ある哀れな女性――ある日突然、我が子を失う母親の役なんだけど……その悲しみとやらが実感出来ないから、上手く演じられないの」

「……!」

「だから……今この場で、その子を殺してもいい? そうすれば、間違いなく私はその母親の気持ちが分かる……その子は最高の現実味を帯びた演劇の【糧】になれるの……幸せな事この上無いでしょ?」


悪魔の囁きに抗うかのように、ジミーは反射的に身を屈めてコリーナを抱き寄せ、イメルダを睨み付ける。コリーナは、何故彼がこのような行動をとったのかをいまいち把握出来ず、腕の中でぽかんとしている。

その様子を見て、イメルダは「フフフ……」と含み笑いを漏らす。


「本気にしないで……? 冗談よ、ジミー……でもまさか、()()()()()()()()にもちゃんとした父性が――親心があるなんてね……それが分かっただけでも、私には十分な【糧】よ……感謝するわ、フフフ……」

「……行こう、コリーナ」


眉間に皺を寄せ、コリーナの手を引きながら、ガツガツと部屋を後にする。


――――――――――――――――――


それから暫く時間が流れた後――


「イメルダ様、紅茶をお淹れ致しました」


今度はメイドが大部屋へ入室してきた。イメルダは演技を止め、メイドの許へ歩み寄り、差し出された紅茶を受け取る。


「あなた……新しいメイドね」

「然様で御座います、イメルダ様」

「ここではどういう訳か、すぐにメイドが辞めてしまうのよ。だから、あなたの働きぶりには期待しているわ」

「有難いお言葉です。しかし、何故他の方はすぐお辞めに?」

「さぁ? 一身上の都合、とだけしか聞かされてなくて……」

「私はこれまで、様々なお宅で働かせていただきましたが、これ程の厚遇をしてくださる雇い主様は初めてです。どうぞ、何なりとお申し付けくださいませ」


(かしこ)まって挨拶を述べるメイド。


「そう……なら、早速頼みたい事があるんだけど……」


するとイメルダは、メイドに一瞬背を向けると、手に持っている紅茶の香りを嗅ぎ、再びメイドの方へ向き直る。


「この紅茶……蒸らしが足りないのよ。私は、しっかり4分蒸らした紅茶が好みでね……でも、これは1分半くらいしか蒸らしてないわ」

「そ……そうでしたか。申し訳ございません、すぐに淹れ直します」

「いえ、好みを伝えていなかったのだから、分からないのも仕方無いわ。でも、違いを知る為にも、この場で1口飲んで味を確かめてみなさい」


イメルダは紅茶を手渡し、飲むように(そそのか)す。

雇い主の指示という事もあり、メイドは反抗する様子も無く、紅茶に口を付ける。

するとどうだろう……メイドはその場に倒れ込み、目を引ん剥きながら声の無い悲鳴を上げ、首元を押さえて悶え苦しんでいるではないか。

その様子に、イメルダは「フフフ……」と不気味な笑い声を漏らす。


「美味しいでしょ? コルフラの根……私が最も愛する猛毒よ。一瞬にして激しい痛みが全身を駆け巡って絶命させるのだけど、それまでの十数秒間が堪らなく哀れで儚くて……私を唆らせるの」


彼女の説明など耳に入らず、メイドは一瞬にして肌を青白くさせ……絶命した。


「アハハハハハハハ……! 実にいい最期よ……! 生に縋ろうと、必死に掻く汗もまた堪らないわ……!」


部屋中に彼女の高笑いが木霊する。

一頻り笑うと、彼女は余韻に浸るかのように、天を仰ぎながら目を瞑る。


「でも……まだよ。まだ【糧】としては不十分……更なる【糧】が必要ね。それが合わさりさえすれば……」


すると、彼女の耳に、庭で燥ぎ回っていると思しきコリーナの笑い声が微かに聞こえてくる。

徐に目を開き、メイドの亡骸を放置して、稽古場を出ていく。


――――――――――――――――――


一方、アデラ達5人は別邸内を慎重に進んでいた。しかし、その警戒心とは裏腹に、これといった罠等は仕掛けられていないようである。

誰もがとんだ肩透かしを食らった気分になっていたが――


「あっ……あの人……」


アデラが通路の向こう側に、1人の男の姿を捉える。

どうやらそれはジミーのようだが、何故か彼は不安に駆られたような焦燥感漂う表情を露わにして、その辺をうろうろとしている。

何事かと歩み寄っていくと、すぐに向こうもこちらに気付いたようだ。


「君達は……どうやって中に……!? 否、そんな事はどうでもいい……コリーナを見掛けなかったか? 庭で遊んでいた筈なのに、何処にも姿が無いんだ。メイドも見当たらないし……一体何処へ――」

「お父様ぁ……!」


突如コリーナの悲鳴が、通路に響き渡る。


「コリーナ……!? 何処だ!? 何処にいるんだ!?」

「奥の方から聞こえたわ、行きましょう!」


その場にいる全員が、声の出所へ向けて駆け出す。


辿り着いた先は、庭に面している、物置と化している小部屋だった。

そこには、今にも息絶えそうな表情で倒れているコリーナと、その近くに立ち尽くすイメルダの姿が……


「コリーナっ!」


すぐさま娘の許に駆け寄るジミー。


「コリーナ……! どうしたんだ……!? しっかりしろ……!」

「そう慌てないで、ジミー。ほんのちょっとだけ……毒を飲ませただけだから。でも心配いらないわ、ちゃんと解毒薬はあるの。あなたのその胸元に光るブローチの中に1()()()()ね……」

「ど……どういう意味だ?」

「さてね……それじゃあ、余興を始めましょう」


そう言うとイメルダは、懐から小さな錠薬を取り出すと、それを口内に放り込んで飲み込む。


「イメルダ……!? 今、何を飲んだんだ……!?」

「こう言えば分かるでしょ? 【ルキウスのギロチン】よ」

「……!」

「愛する女と娘――どちらかは助かり、どちらかは死ぬ……さぁ……あなたの意思で選びなさい、ジミー……!」


(さなが)ら家族をギロチンに掛けられた罪人の立場に置かれたジミー。突然降って湧いた()()に、言葉を失い足を(すく)ませる。


「何て馬鹿げた事を……! 早くその解毒薬で、娘を助けなさい……! この女は、ただあなたが苦悩し悶える姿を見て悦に入りたいだけよ……! 本気で死ぬ覚悟なんかある訳無い!」

「フフフ……本当にそう思ってるの? 陳腐ね……」


一介の盗賊の説得に耳を貸す必要など無い――彼にそう諭しているかのように、マリアを一蹴するイメルダ。


「現実味を帯びた演技を習得する為なら、己の命の危険も厭わない……そんな彼女となら、私は――」

「……!?」

「何グズグズしてるの? 早く決めないと、両方とも失うわよ?」

「お父様……」


決断を迫る女と弱々しく助けを求める娘――両者の声に板挟みになり、ジミーの心は荒み切ってしまう程に揺れていた。


「本気で死ぬ覚悟があるというのなら、寧ろ好都合よ……! この時を以て終わりにしなさい……! この女の呪縛を断ち切って、娘と2人で暮らすのよ……! それがあなたの本当の幸せなのよ、分かってるでしょ!?」


第三者である盗賊まで介入して、ジミーは益々混乱の渦に飲み込まれていく。


「ジミー……あなたの演技を初めて見た時から、()()()を演じられるのはあなたしかいないと……そう思ったの。だから教えてちょうだい、あなたの答えを……」


言葉では形容し難い強い葛藤に苛まれながらも、彼が出した答えとは……


「……イメルダ」


愛する女を助ける事――

ジミーはイメルダに歩み寄り、ブローチを外す。


「何で……?」

「お父……様……」


2人の訴えは、無情にも退けられたのである。


「済まないが……私にとっては、彼女が――イメルダこそが人生の全てなんだ……彼女を裏切る事なんて出来る訳が無い……」


彼の答えに、イメルダは満足したように北叟(ほくそ)笑む。


「ジミー……私の見込んだ通りだわ……あなたは間違い無く、最高の舞台俳優よ」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ、イメルダ……! 早くこれをっ……!」

「フフフ……有難う、ジミー……でも――」


イメルダは手渡されたブローチを床に落としたかと思うと、あろう事か、それを力強く踏み潰す。

ブローチは真っ二つに割れ、中の解毒薬が虚しく床を汚す。


「こんな物なんか必要無い。だって……解毒薬はもう1つあるんだもの」


冷笑(せせらわら)いながら、イメルダは隠し持っていた解毒薬を見せびらかせ、それを一気に飲み干す。


「なん……だっ、て……」


愛する女が自らを謀った事を知り、ジミーは絶望に満ち溢れた表情を露わにし、膝から崩れ落ちる。


「何やってんだ、枉尺直尋(おうせきちょくじん)因小失大(いんしょうしつだい)を履き違えた大根役者がぁ!!」


下らない余興に付き合わされた事に業を煮やしたジュノが、ジミーを汚い言葉で罵ると、すぐさま倒れているコリーナの許に駆け寄る。


「ちょっと、あんた! 何をしようと――」

「俺は薬師でもある……! さっさと代用の薬で解毒しねぇと……!」


すぐに身を屈めてコリーナの症状を確認し、腰に備え付けている鞄から、複数の薬を取り出して処置を行う。


「時間が経ってて、かなり毒が広がってる……だが治せない量じゃねぇ……!」

「私も手伝うわ……! 少しくらいなら知識はあるから……!」


マリアも解毒の処置を手助けする。


「済まねぇ、助かるぜ……だがまさか、こんな小さな子供が、下らない四流演劇に引っ張り出されるなんてな……いっその事、このままこの子には全部忘れてもらいたいもんだ……父親に見捨てられたという、慷慨憤激(こうがいふんげき)の記憶をな……」

「……父親?」


徐に立ち上がりながら呟くジミー。その声は、これまでの彼からは想像も付かないような、黒く蠢く恐怖すら覚える程に低かった。


「一体誰の事だ?」

「……は? お前、あの時自分の連れ子だって――」

「あぁ、確かに私の連れ子だ。だがな……元を辿れば前妻の連れ子なんだっ!! 私と血縁関係など露程も無いそんな小娘など、ただの乳臭いクソガキだっ!!」

「な……何を、言ってるんですか……?」

「親子愛など微塵も無いっ!! 私はただ同情していただけ――演じていただけなんだよっ!! イメルダに比べたら、そんな腐れジャリガキなど藻屑程の価値すら存在しないっ!! 早世して当然なんだよっ!!」


赤の他人である少女に向けて、聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせ続け、遂には精神崩壊を起こして高笑いを繰り返す。

そんな彼と共鳴するような、イメルダの笑い声も室内に響き渡る。


「アハハハハハハハ……! そうよ、そうよ……! それよ、ジミー……! 私はあなたの、その壊れた姿をずっと見たかったのよ……! やっぱりあなたを、最高の【糧】を与えてくれるパートナーとして選んで正解だったわ……!」


一頻り笑うと、ジミーは乾いた笑い声を漏らしながら項垂れる。その姿に、イメルダは満足気な表情を浮かべている。


「さて……下客の皆さん、余興は楽しんでいただけたかしら? それじゃ、最高の演技構成が出来上がったから……私はこれでお(いとま)するわ」

「あんた……まさか最初からこれが目的で、この別邸に……!?」

「劇場で待っているわ……御機嫌よう!」

「おい、待てっ!」

「まだ話は終わってませんよ!?」


アデラとショーンとティアナが追い掛けようとするが――


巫山戯(ふざけ)るなっ!!」


ジミーが目を血走らせて、3人の前に立ち塞がる。


「あんた、自分が何を仕出かしてるのか分かってるの!? 【本物】の自分を見失ってんじゃないわよ!」

「見失う? これこそが【本物】の私だっ!! イメルダの存在こそが、私の【本物】の人生そのものなんだっ!! 彼女の為なら、私は何だって喜んで捨ててやるよっ!! 大体貴様等、イメルダの邪魔をする気なんだろ? 彼女の敵は私の敵だっ!! この場で貴様等全員黒炭にしてくれるぅっ!!」


そう叫んで高笑いをするジミーの両手からは、憎しみを纏った炎が上がっていた。


「アデラ、ショーン、ティアナ……済まねぇが、俺はこいつと、この子の解毒を続ける。3人でそいつを止めてくれ!」

「こいつの精神が崩壊した時点で、そのつもりだったからな……お前は安心して治療に集中しておけ!」

「聞く耳を持つつもりが無いなら、血の海に溺れさせてでも、身を以て【本物】を分からせるまで!」

「ここを戦場にしたくはなかったのですが……最悪の事態に陥ってしまった以上、最早仕方ありません……! 風の精霊よ、集え(レゴ・シルフ)!」


3人は各々の武器を手にジミーを迎え撃つ。


「女だろうがガキだろうが関係無いっ!! イメルダの邪魔をする奴等は、全員骨の髄まで黒く染めてやるぅっ!!」


叫びながら無数の炎を、ブーメランの如く投げ付けてくる。


「風よ、翻せ!」


それをティアナが、風の属性魔法を駆使して、全て掻き消す。


「うおぉー!!」

「はあぁー!!」


炎が全て無くなったタイミングで、ショーンとアデラが短剣と棒を振り被って、ジミーとの距離を一気に詰める。


「消え失せろおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


しかし、ジミーの耳を(つんざ)く程の叫び声と共に、彼の両手から、先程とは比べ物にならないような巨大な炎の玉が発せられる。


「「「……!?」」」


寸のところで躱したものの、炎が当たった後方の扉や壁の一部は、一瞬にして燃え尽きていた。否、溶かされていた。


「木を一瞬で溶かす程の炎を操っているなんて……!」

「近くを掠めただけで、途轍も無い熱波に襲われる……!」

「迂闊に近付いたら、私達もあれと同じにされちゃう……!」


これまでとは勝手が違う魔法攻撃に、3人は若干たじろぐ。


「そうだっ!! 貴様等は私に触れる事も、近付く事さえも出来はしないっ!! イメルダを敵に回したのが運の尽きっ!! 彼女の逆鱗に触れた貴様等に、迎えられる朝日は無いのさっ!! アハハハハハハハハハ!!」


ワンサイドゲームになる事を確信しているのか、ジミーは再び壊れたからくり人形のように高笑いを発する。

その時、アデラが何かを閃いたようで――


「そう……じゃあ、近付かずに封じ込めればいい訳ね?」


逆に挑発するように呟き――


「……何!?」

光よ、彼の者を眩ませ(フルグーレ・ルクス)!」


棒の先端から白い光の玉を放ち、ジミーの眼前で拡散させ、眩い閃光を放つ。


「なぁっ!?」


アデラの思惑通り、ジミーが目を眩ませると同時に、彼の手に纏われていた炎が、感情の揺らぎを表したのように急速に弱まる。

その瞬間を見逃さずに――


「風よ、引き裂け!」


ティアナが風を操り、鎌鼬の如く彼の身体を切り刻み――


「これで最後だっ!」


止めとして、ショーンが2つの短剣を鳩尾辺りに突き刺す。


「ぐふぅっ!」


ジミーは口から血を吐くと――


「済まない、イメルダ……何の役にも、立てなかった……」


と呟き、後方へ倒れる。そんな彼を、マリアが素早く駆け寄って抱き抱える。


「ほんの1度だけ……ほんの一瞬で良かったんだ……私を……心の奥底から、愛してほしかった……」


意識が朦朧とする中、金輪際会う事の無い愛しき者に向けて、決して叶わぬ願望を弱々しく漏らす。


「最期に、あなたの娘に言い残す事は無いの?」

「あんなのは……娘なんかじゃ……あっ……あぁ……」


マリアを絞め殺さんとばかりに、右手を震わせながら彼女へと伸ばすが、過呼吸を引き起こして全身を痙攣させたかと思うと、そのまま糸が切れたマリオネットのように事絶えた。


「イメルダの犠牲者が、また増えてしまった……こんな所で……でも、私には理解出来ない。自らの命も、そして自分の連れ子をも捨てる事を厭わない程、あの女に何があるっていうの?」


マリアが大きな疑念を抱く中、アデラはもう1つの重大案件を思い出す。


「そうだ……! ジュノ、その子の容体は?」

「あぁ、何とか間に合った……今は気を失ってるだけだ」

「良かった……でも、これからその子はどうなるの……?」

「身寄りがいない以上、孤児院に引き取ってもらうしかないわね……」

「私が連れて行きます……」


ティアナが名乗り出て、静かに目を瞑っているコリーナに歩み寄る。


「ティアナさん……?」

「孤児院は聖炎教会の管轄下にある施設です。直属の神官である私が、交渉には最適かと……」

「分かった……お願いするわ」


ティアナはコリーナを優しく背負うと、この部屋の隠し扉から庭へ出られる事をマリアに教えてもらい、そこから単身孤児院へと向かって行った。

それを見送った後、マリアはジミーの亡骸を庭に埋め、3人に向けて口を開く。


「あなた達も、これを機に関わりを絶つべきよ」

「「「……?」」」

「今のではっきり分かったでしょ? あの女に関わる事が、如何程の不幸を吸い寄せてしまうのかを……」


心酔して命を散らした男も然り、天涯孤独となった少女も然り、そして、復讐の為に舞台女優の卵から盗賊へ転落した女もまた……

3人に反駁の余地などある筈が無かった。


「『劇場で待っている』……そう言ってたわね。ならお望み通り、私がそこをあの女の墓場にしてやるまでよ……!」


拳を握り締めながら語気を強めるマリア。今度こそ目的を果たさんと改めて決意を表し、足早にその場から去って行く。

アデラも立ち去ろうとしたのだが、ふと振り返ると、ショーンとジュノが、ジミーが埋められた辺りを、ぼんやりと見詰めて立ち尽くしている。


「ショーン? ジュノ? どうしたの?」


彼女の呼び掛けに、2人はハッと我に返る。


「あっ……否、何でも無い。目まぐるしく動いたから、少し疲れてるのかもな」

「よしっ……じゃあ街に戻って、仕切り直しも兼ねて、宿屋に泊まるか」

「相変わらず切り替えが早いわねぇ……まっ、確かにこのまま引き摺ってても仕方無いものね」


庭から漂う微かな異臭にも気を留めず、3人は別邸を後にした――

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