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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第2章 憤怒を授かりし者
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贖うべき者

「グウゥゥギャアアァァアァアアァ!!」


断末魔のような奇声が木霊した瞬間、巨大な悪魔は煙のように消失し、本来の人間としてのカーティスの姿に戻った。その際彼の指から、赤い光を発する指輪が外れて、アデラの足元へと転がっていく。


「ぐぅ……指輪が……」


彼女がそれを拾い上げると「カーティス(あいつ)はもう終わりだ」と言わんばかりに、指輪はその光を鎮める。


「何故だ……俺は……異民族を退けた……救世主なんだ……俺の力を……凌駕する異民族など……っ!」


そこまで言い掛けて、カーティスは「がふっ!」と大量の血を吐く。

ジュノが放った矢によって身体を貫かれた事も関係しているだろうが、最もな原因として、やはり磐薬による侵食である事は間違いない。

するとその時、隠れていたアーサーが徐にカーティスの許へと歩み寄っていき、彼の目の前で足を止める。その表情は、彼への憐みが滲み出ているようでもある。


「その身体では、最早磐薬に耐えられはしないでしょう……」

「アーサー……産廃の中の産廃がぁ……! 貴様は……死んでも許さんっ……!」


アーサーを睨み付けながら恨み言を漏らすと、カーティスは己の力を振り絞って長剣を手にし、目の前の憎き男を一瞬で斬り裂く。

斬られたアーサーは、斜めに刻まれた深い傷跡から大量の血を流しながら、何も言わずにその場に倒れ込んだ。


「ちょっと!」

「おいっ! お前っ!」

「な、何で!?」


3人は倒れたアーサーの許に駆け寄る。


「……チッ」


何が気に入らなかったのか、小さく舌打ちをした直後に、カーティスはその場に倒れ事絶えた。


「おいっ! しっかりしろっ!」


ジュノがアーサーの身体を徐に起こし、手を真っ赤に染めながら止血を試みている。片やアーサーは、己の死期を悟ったかのように、上の空で呟き始める。


「これで本当に……全てが終わる……()()()()()()()は……皆いなくなる……旅人の皆さんには……何と御詫びと御礼を申したら……」

「何よ、藪から棒に……縁起でも無い事言わないで!」

「僕の罪は……未来永劫語り継がれるでしょうけど……その元凶だけは……カーティスだけは……遂に討ち取る事が出来ました……」

「お前まさか……最初からこうなるつもりでここに……!?」

「最期に1つだけ……お願いがあります……」

「な、何だ?」

「僕の家の書斎に……機漿の製法の詳細を記した紙を遺してあります……それを使って……この街を【本物】の姿に戻してください……僕と同じ薬師であるあなたなら……きっと……」

「分かった……分かったから……! 今はお前の治療が優先――」

「いいえ……もういいんです……分かるんですよ……僕はもう助からないって……大罪には……それ相応の罰が絶対不可欠なんです……だから僕は……その罰を……謹んで受け入れます……」


それがアーサーの最後の言葉となった。

その死に顔は、苦悩から解放されたかのように穏やかだった。


――――――――――――――――――


それから2日程が過ぎた――


アーサーが遺した機漿の製法に(のっと)って、ジュノが製作した機漿により、(くだん)の事件は一気に収束した。

しかしアーサーは、同時に己が犯した大罪を告白する文章も書き遺していた。

これにより、アーサーこそが事件の首謀者であると世間に公表され、カーティスは悲劇の救世主として、ゲオンバートの中心街に慰霊碑が建立された。

アデラ達にとっては不本意な形となったが、一先ずゲオンバートは【本物】の姿を復活させたのである。


慰霊碑に花を手向けにやって来る多くの人々が成している列。その様子を、アデラ達は遠目に静かに見詰めていた。


常磐之理(ときわのことわり)は壊滅したけど、あれ程の人達が参拝に来てるって事は、やっぱりそれだけカーティスを敬っている人がいるって事なのよね?」

「隠れ信者が一定数いる事は間違い無いだろうが……まぁ、とは言え、殆どは形式だけって感じだろうな」

「それに、住民にとって大変なのはこれからだ。領主がいなくなってしまった訳だから、統制が取れる新たな領主を早急に迎え入れないといけない訳だが……それに関しては、俺達がしゃしゃり出て首を突っ込むべきじゃないだろう」


ジュノの言葉に、2人も小さく頷いて賛同する。


「でも……きっと大丈夫よ。街の人達、カーティスがいた時と比べて、心做(こころな)しか表情が穏やかになって微笑(わら)ってるように見えるもの」

「確かに、初めてこの街へ来た時の張り詰めた空気がかなり柔らかくなっているのは、俺も直に感じている。まぁ、先見の明があるアデラが言っているんだ。大丈夫なのは十中八九間違い無いだろう」

「馬を崋山(かざん)(みなみ)()し、牛を桃林の()に放つとは、正にこの事だな」


3人がゲオンバートの平穏さに感心していると、街中を微風が吹き抜けていく。

ゲオンバートの一労永逸を願うかのように……

その後ジュノは、己の中のモヤモヤを払拭させるかのように、ウーンと伸びをしながら「さてと……」と呟く。


「俺はそろそろ発つとするかな……おっと、だがその前に……ショーン達には礼を言っとかないとな」

「礼だと?」

「今回の件は、お前達が偶然この地域を通り掛かってくれたから協力を仰げた。もし俺1人だけだったら、間違いなく――」

「フフ……」

「何がおかしいんだ、ショーン?」

「ジュノ……偶然なんかじゃないぞ。俺達は邂逅するように導かれたんだ。彼女の指輪によってな」


「そうだろ?」と同意を求めるように、アデラへ視線を向けるショーン。

それに気付いた彼女は、何故か頬を(あか)らめて外方(そっぽ)を向き――


「……まぁ、半分はそうかもしれないわね」


2人に指輪を見せ付けるようにしながら――気恥ずかしそうに、右手で髪を弄る。


「そこでだ、別にお前に見返りを求める訳では無いが……ジュノ、お前も俺と同じように、彼女の【本物】探しの旅に同行してくれないか?」

「ちょ、ちょっとショーン!?」


思っても見なかった提案に、アデラは困惑の声を上げて彼を制止しようとする。


「勝手に決めないでよ、ジュノの事情も鑑みないで!」

「何だ、アデラ? という事は、あの時お前が言っていた言葉は嘘だったのか? 指輪に導かれ、一蓮托生の覚悟を持ち、自分に協調してくれる奴なら、誰一人として拒まず受け入れるって……」

「う、嘘っていうか……あの時はカーティスに侮蔑されてカッとなって、つい本心を口走っちゃっただけで、つまりその――」

「ハハハハハハハハ!」


2人の掛け合いを傍らで見ていた――普段は冷静沈着でニヒルな笑みを浮かべる事の多いジュノが、珍しく大口を開けて腹を抱えながら笑う。


「ジュノ……お前他人(ひと)の事言えないぞ。何がおかしい?」

「いやなぁ……水は方円の器に(したが)うってよく言うが、お前の場合は麻の中の(よもぎ)だなって。あんな堅物だったショーンが、アデラと出逢った事で随分といい意味で変わったんだなって思ったら、何だか嬉しくなってなぁ」


一頻(ひとしき)り笑うと、ジュノは自慢気な顔をしながらショーンと距離を詰め――


「そうだな……昔の(よしみ)だし、俺も【本物】には大なり小なり興味がある。断る理由は何一つ存在しねぇ」


彼と肩を組みながら提案に乗る。


「決まりだな」

「ちょっとぉ……! 飽くまでも【本物】探しの旅の主は私なのよ……!? 私を差し置いて、同伴者達だけで勝手に色々と話を進めないでくれる……!?」


除け者扱いされたように感じたアデラは、2人に向けて不満を漏らす。

そんな彼女を見て、2人は苦笑いを浮かべながら、組んでいた肩を離す。


「済まない、アデラ……だが、お前さっき『同伴者達』って言わなかったか? それはつまり――」

「えぇ、そうよ。あの時の言葉に偽りは無いわ。来る者は拒まず……これが私の本心よ。いいわね?」

「……そういう事らしい、ジュノ」


嬉しそうなショーンの言葉に、ジュノの表情も綻ぶ。


「感謝するぜ、アデラ! それに、またショーンと共闘出来るなんて……これぞ正に有卦(うけ)()るってやつだ!」


アデラとは程々に、ショーンと激しい握手と抱擁を交わすジュノ。その姿にアデラは呆れるように溜息を()くが、微笑ましい光景と捉えたのか、すぐに頬を緩める。


「じゃっ、この3人で行きますか」

「そうだな」

「おぉよ」


3人は次なる【本物】を求めて、ゲオンバートを後にする。

街を流れる川の(せせらぎ)に耳を傾けて――

これにて【第2章 憤怒を授かりし者】終了です

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