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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第2章 憤怒を授かりし者
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張り詰めた閉塞街

【第2章 憤怒を授かりし者】スタートです

「ここね……」


緩やかな傾斜の山道を延々と下ってきた3人は、小さな渓谷に架かる橋の前までやって来ていた。これを渡った先にゲオンバートがある。


「橋の向こう側……何と言うか……空気が淀んでると言うか……」

「全体的に張り詰めた雰囲気が漂ってるな……」

「恐怖が街を支配している……って感じも否めないわね……」


ゲオンバートの街全体から覇気が全く感じられず、重苦しい空気が覆い()し掛かっているのが、遠目に見ている3人にもすぐに感じ取られた。

しかし、不穏な動きの調査という名目で来た以上、嫌な感じがするからと言って、このまま退散する訳にもいかず、3人は意を決して橋を渡る。

ところが、橋の中腹辺りまで渡り終えた時――


「おい、お前達!」

「ひぇっ……!」


突然傍らに立っていた兵士に怒声を浴びせられ、アデラは小さく悲鳴を上げる。


「街に入りたいのなら列に並べ!」

「れ……列、ですか……? わ、分かりました……」


正面を見ると、多くの人が列を成している。彼等もまた、アデラ達と同じようにどやされて並んでいるのだろう。


「あんな鬼の形相で言わなくてもいいのに……」


兵士を流し目で睨み付けて、ブツブツと文句を呟きながら、アデラは渋々列に並び、ショーンとジュノも後に続く。


「おや?」


すると、前に並んでいた行商人と思しき男性が振り返って、後ろに並んだ3人を――特にアデラの姿をまじまじと見て声を掛けてくる。


「これはかなり身形(みなり)の良い別嬪(べっぴん)な踊子さんだ。この街には営業で?」

「私は踊子じゃなくて――!」

「俺達はただの旅人で、ここへは人捜しに来た」


助け舟のように横から入ってきたショーンは、そう言いながら、足でジュノを小突いてアイコンタクトを取る。


「……あぁ、そうなんだ」

「そうでしたか。皆さん、この街には初めて来られたのですか?」


3人は無言で首を縦に振る。


「ならば、門番の兵士にお金を渡して下さいね」

「お金を? それはつまり、通行料って事ですか?」

「いえ、この街の――」

「ちょっと待て!」


突然前方から、動揺しているような男の叫び声が聞こえた。


「俺はそんな物を入れた覚えは無い!」

「入れた覚えの無い物が手荷物に混じるか!? この【粉】は何だ!?」

「だから、それは俺の物じゃないんだって! 信じてくれよ!」

「フンッ、どうだかな……! 後でみっちり油を絞ってやる……連れて行け!」

「はっ!」


もう1人の門番の兵士が、男を強制的に連行していく。その間も男は「止めろ、離してくれ!」だの「全部本当の事なんだよ!」だのと叫びながら抵抗するが、成す術も無くその場から消えていった。


「ああいった事が、度々起こるんですよ……」

「――って事は、まさか……!」

「えぇ。察しての通り、この街では兵士達が絶対的な権力を持っています。恐らく先程の【粉】とやらも、所謂(いわゆる)濡れ衣でしょう……彼等に逆らえば最後、有無を言わさず投獄され、一時たりとも弁明の機会を与えられません」

「そんな事が、(まか)り通っていいのか……!?」

「この街では罷り通るのです。いえ……寧ろそれが普通です。なので皆さん、例え納得出来なくても、兵士の命令には必ず従って下さい。さもなくば、罪が無くとも大罪人と見做(みな)され、厳しい処罰が課せられます」

「……」


納得出来なくても指示に従わざるを得ない――それはつまり、兵士による権力の濫用に他ならず、偽りの秩序が支配しているという証明だ。

【本物】を求めるアデラにとって、断じて承認しかねる規則なのは相違ない。


「処罰を免れる唯一の方法は、賄賂だけです。兵士達もそれが目的ですから」


そう言うと男性は、後方を一瞥して――


「さっき連行されていった人も、素直に賄賂を渡していれば無事に済んだというのに……あの人は生きて帰って来られませんね、ほぼ間違いなく……」


と、目を付けられた男を憐れむかのように呟く。


「領主はそれを黙認しているんですか?」

「ですから、これはその領主が定めた方針なんですよ。名前は確か……カーティス様だったかと――」

「何……!?」


男性の口から出たその名前に、真っ先に反応したジュノ。


「どういう事だ……!? もっと詳しく――」

「次! さっさとしろ!」

「はい、ただいま!」


カーティスという名の人物について更に聞き出そうとしたジュノだったが、門番の急かす怒声に遮られ、失敗に終わってしまった。


「すみません、順番が来てしまったようなので、私はこれで……」

「いろいろと教えていただき有難う御座います」


アデラがお礼を述べると、男性も会釈をして、門番の兵士の許へと歩いていく。


「ジュノ……突然血相を変えて、一体どうした?」

「知っているの? そのカーティスっていう人を……」

「知ってるも何も……十数年程前にゲオンバートに侵攻してきた国を退けて、逆に滅亡に追いやったと、一部で英雄扱いされている傭兵団の長だった男だ……! でも、何で元傭兵団長が領主なんて務めてるんだ?」

「大した出世ではあるが、急に伸し上がったというのも確かにおかしな話だ」

「何か裏がありそうね、そのカーティスって男は……」


まだ顔も姿も分からぬカーティスという男に疑念を抱いていると――


「次!」


順番が来た事を知らせる門番の声が聞こえたので、とりあえず3人は通行の許可を得る為に、彼の許へと足を運ぶ。


「ふむ……3人か。お前達全員旅の者といったところか?」

「はい、そうです」

「なるほど……では先ず、手荷物を調べさせてもらおう」


兵士にそう言われるなり、3人は揃って所持金の一部を差し出す。

彼等の行動に、兵士は一瞬戸惑いの表情を見せたが、街の方針という事もあるのだろう、すぐに平常心を取り戻す。


「ほぅ……世間知らずの放浪者かと思っていたが、随分と物分かりの良い連中のようだな。そうだ、この街ではそういう心構えと態度が肝心だ」


感心したように言葉を発すると、兵士は金銭をまとめて受け取る。


「1つ聞きたい」


ジュノが改まった様子で口を開く。


「カーティスという男の事なんだが……」

「なっ!?」


すると兵士は、先程とは打って変わり、目を見開き顔を強張らせる。


「カ……カ、カ……カ、カーティス様が……な、な……何だというんだ!?」

「いや……どういう人柄なのか――人物像を聞きたくてな」

「す……す、素晴らしい御方に、き、決まってるだろ!? こ、この街に……な、なくてはならない……い、言わばぁ……え、え、英雄だ!」


(ども)った喋り方と引き攣った表情――兵士の挙動は明らかに不自然である。

間違いなく心の中では、口から出た言葉と同じ事を思っている筈が無い――3人はそう確信した。


「も、もう話は終わったか!? とっとと行け! ほ、ほらっ!」

「あぁ……」

「フンッ……」

「有難う御座います……」


ジュノは素っ気無く一言だけ漏らし、ショーンは蔑むように鼻息を鳴らし、アデラは恐る恐ると言った感じでお礼を述べて門を通過する。


――――――――――――――――――


ゲオンバートは、ショーンからの事前情報とは全く掛け離れた街と化していた。

建築に携わっていると思しき住民の姿が何処にも無いのだ。とは言え、家々の灯りが見える事から、街からいなくなったのではなく、何らかの事情で家の中に籠っているのかもしれない。

しかし、それでも全体的に静寂が支配しており、一瞬【廃村】と勘違いしてしまいかねない雰囲気が漂っている。

だが3人には、それ以前に気になる事があった。


「あの異常な程の怯えようは何なんだ?」


門番の兵士が、カーティスの名を出しただけで、しどろもどろになっていた事だ。


「行商人は、兵士が絶対的な権力を握っていると言っていたが……」

「それ等を牛耳っているのが、カーティスって人みたいね」

「……」


彼が兵士達を恐怖で支配している、という事なのだろうか。そして、この街の張り詰めた空気も、彼の恐怖による圧政によって(もたら)されたものなのだろうか。

(いず)れにしろ、カーティスという男がゲオンバートの絶対的主権者であり、彼の存在が【本物】のゲオンバートが失われる危険を孕んでいる可能性は極めて高い。

そんな考えが3人の頭を(よぎ)った、正にその時――


「ウウウゥゥゥアアアァァァッ!!」


何処からとも無く、唸るような男の大きな声が3人の耳に入る。


「今の声は!?」

「あっちからだ!」

「行くぞっ!」


3人は声のした方へ一斉に駆け出す。


――――――――――――――――――


辿り着いた先は、街外れの近くにある噴水広場だった。

だがそこには、アデラ達以外の人の姿は全く無い。


「おかしい……誰もいないぞ?」

「方向や距離的にも、ここで間違いない筈なんだが……」


言いようの無い凶兆に焦りを覚えながら、3人は周辺を注意深く見回す。


「あっ……!」


その時、アデラが気付いてしまった。

ショーンの背後から、禍々しいオーラを纏った黒い影が近付いている事に――


「ショーン、後ろ!」

「グゥゥガアアアァァァ!!」


彼女が叫び終わるのと同時に、得体の知れない何者かが、不気味な呻き声を上げながらショーンに襲い掛かる。しかしショーンは振り向くや否や、咄嗟に腕を振り払ってその者を退ける。


「ギ……ギギギギ……」


振り払われたのは、暴漢と化したであろう1人の男。身の毛が弥立(よだ)つような唸り声を上げながら、再び襲い掛かろうとしている。


「おいっ、お前! 見ず知らずの人間にいきなり襲い掛かるとか――!」

「待て、ショーン! こいつ何か様子がおかしいぞ!」


よく見ると、男の肌は土気色になっていて、目も赤黒く光っている。

最早普通の人間ではない事は明らかである。


「魔物に取り憑かれたか、あるいは人を模した魔物か……!?」

「どっちにしても転ばぬ先の杖……ここで対処するしか無ぇな……!」

「そのようね……来るわよ、用心して……!」


男の暴走を阻止すべく、3人はすぐさま武器を構えた――

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