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旧士との邂逅

シモアンティを後にしたアデラとショーンは、高低差のある山道を、アデラが手にしている地図を頼りに進んでいる。道の両端に多くの岩が点在し、整備された歩道に敷き詰められている小石が、2人が踏み締める度にコロコロと山肌を転がっていく。時折ひんやりとした風も吹いていて、肌の露出の多いアデラを「寒くないのか?」と心配するショーンだが、彼女は「小さい頃からこういう環境には慣れてるから」と、特に苦にしている様子も無いようだ。


「それで……これから何処へ向かうんだ、俺達は?」

「この先を行くと、ゲオンバートっていう街に出るみたいね……」

「ゲオンバート……山間の街か」


彼の言うところによると、ゲオンバートは建築の街として知られているようだ。

大陸中に存在する建物の(ほとん)どは、ゲオンバートから派遣された建築士達によって建てられたのだそうだ。

また、街の近くの洞窟には、建築に適した石材や、薬の調合に使われる植物等があり、それを求めて態々(わざわざ)遠方から採取に来る者も多いらしい。


「良く知ってるわね……」

「余所の街の特徴は常に更新して網羅する……義賊として必要不可欠な能力だ」


彼の自慢とも取れそうな話を聞きながらも、2人はもう数百メートル程歩を進めればゲオンバートに到着出来る地点まで来ていた。


「――!?」


その時、ショーンが何処からか殺気を感じ――


「伏せろっ!」


アデラに向けて叫びながら身を屈める。言われた彼女も、状況が飲み込めないながらも、指示に従って体勢を低くする。

その直後、2人の頭上を数本の矢が勢いよく通過していった。更に続けて、後方から不気味な呻き声と何かが倒れたような鈍い音が聞こえた。

2人が音のした方を向くと、矢が刺さったまま倒れている山羊を模した魔物の姿があった。どうやらある程度の距離を保ちながら2人の後を付け、機を待っていたのだろう。


「俺達を狙ってた訳じゃなかったのか……?」

「逆に助けてくれたって事……?」


益々状況が分からなくなり、呆然とする2人。


「危ないところだったな……」


すると、その場にいる誰のものでも無い声が聞こえたかと思うと、近くの岩陰から狩人のような容姿をした1人の男が姿を現す。

彼はショーンより若干背が高く、金髪の癖毛と藍色の瞳が特徴的だ。周りの風景に紛れ込ませる為か、灰色のマントを羽織っている。

手には弓を持ち、腰には大小2つの斧が備わっており、背中には数多の矢が収納された筒と槍を背負っている。


「ジュノ……!?」


するとショーンが、驚いた表情を露わにして声を上げる。


「ん? ショーン……なのか?」


【ジュノ】と呼ばれたその男も、ショーンの名前を口にして目を見開く。


「えっ? 知り合いなの?」


顔見知りだという感じの2人の反応に、アデラも疑問を隠せない。


「1年くらい前、ジュノとは()()()()一時(いっとき)共闘した事があるんだ」

「へぇ~、ショーンって意外と人脈広いのねぇ」

「おい、ショーン……」


横槍を入れるかのように、ジュノがアデラを指差しながらショーンに尋ねる。


「その女は誰だ? まさか娼館で買った訳じゃないよな?」

「むぅ~、私は娼婦じゃ……ないっ!」


心外な見方をされ、地団駄を踏みながら反論するアデラ。

そんな彼女を宥めるように、ショーンは肩に手を乗せて――


「こいつはアデラ。クォージウスに存在する【本物】を求める、旅人の棒術師だ」


と、簡潔に紹介する。


「アデラ? 棒術師? まさか……モハディウスの自警団に引けを取らない戦績を上げた、異国出身ながら大陸一の棒術師としてその名を轟かせているアデラって女は……お前さんだったのか」


そう言うとジュノは、持っている弓を背中に掛けて、改めて挨拶する。


「初めましてだよな? 俺はジュノ。本職は狩人だが、薬師も兼務している」

「棒術師のアデラよ。【本物】を探して、モハディウスから旅をしてるの。ショーンとはシモアンティで出会って、今は私の旅に同行してもらってるわ」

旧士(ショーン)が世話になるな」


口角を僅かに上げて微笑み、右手を差し出すジュノ。

一方アデラは、出会った時のショーンには無かった、彼のフレンドリーさに若干の戸惑いを覚え、気恥ずかしいながらも徐に右手を出して「……どうも」と呟き握手を交わす。


「ところで、ジュノ……」


挨拶を終えたのを見計らい、ショーンが改めて声を掛ける。


「何故お前がここにいる? まさか、この界隈で魔物が大量発生して、その討伐の依頼でもあったのか?」


モハディウスにいた頃のアデラも、そのような依頼を少なからず受けていた。()して、それが魔物狩りを生業にしていると言ってもいい狩人のジュノであれば尚更であり、そのような疑問が出るのも自然であろう。

しかし、ジュノは徐に首を横に振り「実はな……」と一言漏らすと、ゲオンバートへと続く道の向こう側を見据えながら、再び口を開く。


「ゲオンバートで不穏な動きが見られるって密告があってな……その調査に来た」

「不穏な動き? 何だそれは?」

「詳しくは俺もまだ分からない。だが狩人としての勘が正しければ、それのせいで【本物】のゲオンバートが失われてしまう可能性が高い……」

「……!」

「3人寄れば文殊の知恵じゃないが、お前達が加わってくれれば、きっと調査も兎の登り坂だ。協力してくれないか?」

「断る理由が無いだろう。アデラ、お前もそうだろ?」

「勿論よ。【本物】を求める者として、それを見過ごす手は無いわ」

「感謝する。じゃあ、善は急げだ……行くぞ」


ジュノの一声により、3人は【本物】が失われかねない危機に直面していると思われるゲオンバートへ、足早に向かっていった――

次話より【第2章 憤怒を授かりし者】スタートです

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