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全てはここから始まった……

時は、真神暦1674年――


数多の自然環境が調和し、多種多様な人類が共存する、ここクォージウス大陸――


その中のごく僅かな一部の地点は今、前出の言葉とは程遠い環境と化している――


土は痩せこけ、碌に雨も降らず、僅かな太陽光をも遮る――雷鳴が轟き続けても違和感を覚えさせない黒雲が天空を覆い尽くしている。

こんな劣悪な地に足を踏み入れる者など、最早存在し得る筈が無い。

たった1人の男を除いては――


「ぅっ……ウぅ……ア……あぁァ……お……の、れェ……」


その男は血の海に溺れ掛けながら、怨恨の呻き声を漏らしている。


「……さえ……奴等……さ、え……いな、ければ……全て……が……終わらせ、られた……のに……」


男のすぐ近くには、巨大な盃のような形をした祭壇と思しき物体が鎮座している。

恐らくこの男は、ここで何らかの儀式を行い、不都合な出来事に終止符を打とうとしたのであろう。

しかし、同席していた者に敵が紛れていたのか、あるいは反逆者に奇襲を掛けられたのか、実際のところは定かではないが、どちらにしても、男が重傷を負った事で儀式は中断・失敗に終わったと見て間違いは無い。


「奴等の……奴等の……思い、通りになど……させて……たまるかァ……!」


語気を強めて己を奮い立たせ、男は立ち上がろうとするが、全身に刻まれた数多の傷は、思いの外大きくそして深かった。

身の程知らずが――と嘲笑われているかのように、再びその場に倒れ込む。

それでも男は己の宿命に抗わんと、発揮出来る力を絞り出して這い(つくば)る。


ふと前方に視線を向けると、荒廃した土壌には似つかわしくない、鮮やかな赤色に光り輝く小さな物体が転がっていた。

確認出来るだけでも、その物体は7つ認められる。


「あれだ……あれさえ……あれば……私は、まだ……!」


万全に機能しない身体を、藻掻く様に無我夢中に地面に這わせ、藁にも縋る思いで精一杯左手を光の集団へと伸ばす。


ところが、あと十数ミリ程で手中に収められるところまで腕が伸びた瞬間、7つの物体は突如赤く眩い光を発したかと思うと、男を拒否するかのように、一瞬で天空へと飛び去り、黒雲の中へ姿を晦ましてしまった。

予想だにしなかった物体の動きに、男はそれが消えた黒雲の一点を、ただただ目を見開いて見詰めるほか無かった。


「ここまで、来て……私に……抗うつもりか……? 否、それとも……己の力を引き出す……新たなる者を……求め始めた……とでもいうのか……? ならば……それも、また一興なり……」


そう呟くと、男は荒廃した地に顔を埋め、全てを失った諦めとも、この先への期待とも取れる乾いた笑い声を漏らし始めた。


一頻(ひとしき)り笑い、ふと顔を上げると、男は己の右手に視線を移す。

その中指には、特徴的なデザインが施された1つの指輪が嵌められている。


「お前は……お前、だけは……私と共に……ククククク……やはり……最後に、信じられるは……己の……」


その先の言葉は――気絶してしまったのか、あるいは多量失血により息絶えてしまったのか――目を瞑り、その場に突っ伏した男の口から出て来る事は無かった。


すると、指に嵌められていた指輪が突然青く発光するや否や、行方知らずになった7つの物体を追うかの如く、そこから青い一筋の光が発せられ、(やが)てそれもまた黒雲へと吸い込まれていったのだった――

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