コスモの咲く夜
昔、夜空には無数の星が散らばっていました。
キラキラとした光のつぶが綺麗に並んで
太陽が沈めば代わりに現れた星たちが、地上を真昼のごとく明るく照らしていたのです。
人々はその姿を「秩序、整列」を意味するギリシャ語のkosmosという言葉からとって、
コスモ(cosmos)と呼びました。
朝や昼は太陽に照らされ、夜は星々に照らされていたので、人々は暗い夜を知りませんでした。
ある時、コスモの中で、小さな星が産まれました。
産まれたての小さな星は、初めて見る世界に興味津々。
あの星は、どんな星かな。
こっちの星は、どんなところだろう。
来る日も来る日も、広い宇宙のあちこちを見て回っていました。
そんなある日、幼い星は、青く光る美しい星を見つけました。
『わあ!なんて綺麗な星だろう。』
蒼く煌めく、不思議な星。
夢中になって見つめていた幼い星は、うっかり近づきすぎてしまい、重力に引っ張られて、青い星へと真っ逆さまに落ちてしまいました。
いつまで経っても帰ってこない末っ子の星を心配したコスモのお兄さん達は、広い宇宙のあちこちへ探しに出掛けて行きました。
そして夜空から多くの星が居なくなると、地上には初めて『暗い夜』が訪れたのです。
人々は、幼い星に言いました。
「小さなお星様。あなたのお兄さん達が、あなたを探してみんな居なくなってしまいました。どうかお空へ戻って頂けないでしょうか?」
しかし、幼い星は言いました。
『僕もお空へ帰りたいよ。でも、体が重くって、帰れないんだ。ここはどうしてこんなに体が重くなるの?』
宇宙ではあんなに軽やかにふわふわと浮いていられたのに、まるで根が生えたように、ちっとも浮くことができないのです。
困り果てた人々は、夜空を捜しまわるお兄さん星達が地球へ来てくれることを、ただ願うことしか出来ません。
それから暗い夜を幾つも越えて。
願いが通じたのか、お兄さん星達は、末っ子の星が地球へ落ちてしまったことに、やっと気がつきました。
『ああ!なんてことだろう。連れて帰ってあげたいけれど、僕達も地球へ落ちてしまったら、宇宙へ帰ることはできないだろう。』
『でも、ひとりぼっちで置いていくなんて、そんなことできやしない。僕達もみんなで地球へ行こう。そしていつか、お空へ帰る方法を、みんなで探そう。』
ながい時を過ごした宇宙より、大切な家族のそばにいることを選んだ星たちは、手を取り合って、みんなで地球へ降りてきました。
幾千もの星が降ったその夜は、これまでのどんな夜よりも眩く、美しく、見上げる人々は星たちの愛に心を打たれ、涙を流しました。
人々の流した涙は、輝く夜空を反射して、まるで流星群のようにキラキラと輝いていたのでした。
それからどれだけの時が流れたでしょう。
地球へと降り立ったコスモの星たちは、長い月日を経て、可愛らしい花へと姿を変えました。
秋頃、お月様が大きく見える夜に、一斉に芽生えてお空へと手を伸ばすのです。
人々は地上で咲く星たちを、宇宙にいた時と同じように秋桜と呼び、いつか星たちがお空へ帰れるその日まで、大切に世話をすることにしました。
そして秋になればコスモスと一緒に月を見上げ、遠い宇宙へと想いを馳せるようになったのでした。
おしまい
秋に咲くコスモスの真ん中の黄色い部分は、筒状花といって、5枚の花弁が筒状になって1個の小花を成しているそうです。
コスモスの筒状花をよく見てみるとお星様のような形をしていて、コスモス畑はまるで地上の星空のようです。
コスモスという名前の由来は、宇宙のコスモと同じギリシャ語のkosmosから来ているということを知って、このお話を思いつきました。