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あなたに微笑む

作者: ISTORIA
掲載日:2021/08/24



 私は桜が好きだ。綺麗で、儚い美しさが心を奪う。

 恋の終わりを告げる花でもあると言うけれど、それは人それぞれだ。


「別れよう」


 卒業式を終えて、高校進学も、あと少し。

 五分咲きに満たない桜の下で、恋人が切り出した。


「え……何で……」

「お前ってさ、恋人っつうよりダチみたいな感じじゃん。大人しそうに見えんのに、ガサツっていうか……」


 彼とは去年の初夏からの付き合いだ。告白も、彼からされた。

 まさか、そんなことを思っていたなんて……。

 でも、確かに男友達な感じがした。友達のようで、恋愛的な感情は芽生えなかった。

 ただ楽しかったという感想しか湧かない。


「……そっか」


 だから、別れを切り出されても何も感じなかった。


 友達と挨拶するとき、元恋人に呼び出されたことを聞かれた。

 正直に別れたと言うと、かなり驚かれた。


「ええっ!? あんなに仲良かったのに!?」

真咲(まさき)、大丈夫?」


 すごく心配されてしまった。

 思わず苦笑して「大丈夫」と(なだ)めようとしたが、別れた理由に友達は憤慨(ふんがい)した。


「ガサツって……! 真咲は明るくて優しくて気配り上手なのに!」

「笑った顔も可愛くて、こっちまで楽しくなるのに!」


 心の底から怒ってくれる友達。

 嬉しくて「ありがとう」と言うと、友達は「別れて正解!」と力強く言う。


「何の話?」


 ふと、馴染みのある声が聞こえた。

 顔を向ければ、クラスで人気者だった男子がいた。

 私の幼馴染、京介(きょうすけ)


「聞いてよ! 真咲の恋人……や、元恋人がさぁ! 真咲をガサツって言ってフったの!」


 有り余った勢いのまま友達が叫ぶように教える。

 聞いた京介は目を見開き、眉をひそめた。


「は? ガサツ……だって?」

「そう! あんなに真咲に構ってたのに!」

「ふざけんなっての。真咲の魅力に気付かないなんて馬鹿じゃないの?」


 友達の罵詈雑言(ばりぞうごん)に思わず引き攣る。

 ど、どうやって宥めよう……。


「い、言いすぎじゃない?」

「真咲はもっと怒りなよ!」

「そうそう。あんな奴に遠慮しないでいいから。ていうか優しくしなくていい!」


 火に油を注いでしまったようで、般若のような形相(ぎょうそう)で私に説教した。

 乾いた声で苦笑いしてしまうと、京介に肩を叩かれた。


「文句ならいっぱい聞く。早く帰らないと真咲のお母さんに心配されるぞ」

「あ……そうだね。二人とも、また今度」

「うん」

「今度は一緒にカフェに行こうね。愚痴、いっぱい聞くから!」


 頼もしい言葉に「ありがとう」と笑って、手を振って別れた。


「落ち着いてるけど、悲しくないのか?」


 帰り道、京介が(たず)ねてきた。

 確かに、普通なら悲しい気持ちになるだろう。

 けど、私はそんな感情を持っていない。


「悲しくない、かな。彼とは男友達みたいな感覚だったし、友達として好きだったみたい。ガサツって言われたのは、ちょっとショックだったけど……本当のことだし」

「……そうか」


 短く、京介は吐息混じりに相槌を打つ。

 どこか安堵したような声音に、少し嬉しくなった。


「心配してくれてありがとう」

「え……?」

「本当に全然気にしてないの。だから大丈夫だよ」


 心配してくれているのだと思って、お礼と安心させる言葉を続ける。

 目を丸くした京介は、やや目を細めた。


「違う。確かに心配したけど、そうじゃない」


 急に固い声で言った京介は私の手を握って、ある場所へ向かった。

 そこは、町全体を見渡せる高台。

 ソメイヨシノの他に山桜も植えられていて、町の中では一番のお気に入りの場所。

 学校のソメイヨシノと違って、山桜は八分咲き。満開まで、あと少し。

 京介はその桜の下で立ち止まると、私に向き直って――


「好きだ」


 簡潔に、熱を込めた声で告げる。

 突然の告白に、じわりじわりと目を見開く。


「幼馴染じゃない。一人の女性として好きなんだ」


 真剣な眼差しを向けられて、余計に混乱する。


「え……え? いつ、から……?」


 今までそんな素振りを見せたことがなかったのに。むしろ、中学校に上がってから素っ気なかった。

 恋人ができてからは更に冷たくなったのに、どうして?

 困惑する私に、京介は眉を下げた。


「初めて出会った時、覚えてるか?」

「……うん。桜が満開で、すごく綺麗で……ころんじゃった私を慰めてくれたよね」


 桜の森みたいな公園で、お花見をしていた時だった。

 雨のように降る花びらが綺麗で、くるくる回って、つい転んでしまった。

 怪我はしなかったけど泣いちゃって、その時に京介がハンカチをくれた。

 それからほどなくして小学校に上がった時、もう一度会えて、そこから友達になって、幼馴染に発展したのだ。


「あの時、真咲に見惚れた。桜の精みたいで、綺麗だって」


 知らなかった京介の思い出に、私は息を呑む。

 まさか、その時から……?


「もう一度会えた時、すごく嬉しかった。友達になれて幸せだった。けど、このままじゃ男として見てくれないと思って、距離を置こうとしたんだ。……そのせいで誰かにとられるなんて、思いもしなかった」


 後悔した顔に歪めて、苦しげに心の内を明かした。

 だから冷たくしたのだと、今になって気付くなんて……。


「真咲」


 熱を孕んだ声で名前を呼ばれた。

 途端に心臓が締めつけられて、じわりじわり熱くなった。

 こんな感覚、今までなかったのに……。

 自分の変化に戸惑っていると、京介は私の手を持ち上げて、手のひらに唇を寄せた。

 今までにない京介の行動に、ドキリと心臓が跳ねる。


「俺と恋人になって」


 私の手を自分の(ほお)に当てて願う。その切ない表情に、私まで切なくなった。

 頬まで熱くなって……気付いた。

 今まで、彼に冷たくされて悲しかった理由は、彼に嫌われたと思ったからだけじゃなかった。

 京介の傍にいられなかったのがつらかった。その理由を、今になって理解した。


「……私、ガサツって言われたよ? 女の子って言うより、男友達みたいだって……」


 でも、元恋人で自信がなくなった。私の全てを知った時、私から離れていくんじゃないかって。

 不安から言うと、京介は少し険しい顔になる。


「真咲は誰よりも可愛い。だからあいつの言葉なんて忘れてしまえ」


 ストレートな言葉に、一瞬で赤面してしまう。

 口を引き結んだ私に京介は小さく笑って、両手で私の頬を包み込んだ。


「不安になるなら何度でも言ってやるし、言えなかった分まで言わせて」


 京介の手のひらが、すごく熱い。目元も、ほんのり赤い。

 緊張感が込み上げてきて、どうしても目が熱くなって、潤んでしまう。

 そんな私に京介は、ふっと笑って「可愛い」と言った。

 京介って……こんなに甘かったの? 色気もすごいし……。

 耐えきれなくなって、衝動的に京介の胸に飛び込むように顔を押しつけてしまう。すると、京介の心臓が強く脈打ったのを感じた。うるさいくらい心音が聞こえる。

 ――私の、心臓も。


「真咲っ?」

「……あーもーっ」


 もう無理。これも全部、京介のせいだ。


「だいすき」


 声が震えてしまった。それでも心からの想いを伝えた。

 頭を押し付けて熱を冷まそうとしていると、京介が肩を掴んで強引に剥がす。

 見上げると、京介の頬が真っ赤になっていて……どちらともなく笑った。


「ふはっ! あー……可愛すぎだろ」

「京介だって……かっこよすぎ」


 かっこいいし、可愛い。特に今の照れた顔が。

 思わず笑ってしまうと、京介の表情が固まった。


「……かっこいい? 本気で言ってんの?」

「うん。ずっと思ってるけど、いけなかった?」


 首を小さく傾げると、京介は口に手を当てて私を凝視する。


「あ゛ー……っ」


 濁音(だくおん)がつく声で(うめ)いた京介は、私を引っ張って抱きしめた。


「煽るなよ。我慢できないだろ」

「え? 我慢って……?」


 どういう意味だろう?

 不思議に思っていると、京介は少し体を離して、顔を近づけた。

 京介の口が、私の口を塞ぐ。軽く食んで、吸いついて、そっと離れた。


「……ぇ? ぁ……え?」


 混乱から目を白黒させる。

 私の反応に、京介はきょとんとした。


「まさか……キスしたことないのか?」

「きっ……! う……うん」


 元恋人にされなかったから、これがファーストキス。したといっても、手をつなぐだけだった。

 息が詰まりそうになりながら頷けば、京介は「ハハッ」と笑った。


「前言撤回していいか?」

「え? ……なに?」


 きょとんとすると、京介は甘く微笑んだ。


「――愛してる」


 そして、二度目のキスを落とした。


 私は桜が好きだ。

 人によって恋の終わりもあるけど、人によっては恋の始まりもある。

 山桜が咲き誇るこの日、私の本当の恋が始まった。


 山桜をお題にした恋愛小説です。初めての短編で少し不安もありますが、読みやすいよう工夫できたかなぁと思っています。

 ちなみに山桜には素敵な花言葉があります。――そう。この作品の題名です。

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