9話
俺と明里が道路を歩いていると、正面のビルの影にバンダナを額に巻いた男と、作業服を着た男二人が待ち伏しているのが見えた。
「そこのビルに隠れてるヤツ出てこい。バレバレだぞ」
「へっ?」
明里はどうやら気づいていなかったらしく、小さく驚いて身構えた。
「お!今度獲物は男と女か。今まではお前に助けてもらっていたが、今度は俺に任せてくれ」
そうバンダナ男が言うと、作業服の男も続けて口を開いた。
「構いませんよ。今回のメインはあなたに任せます。私は好きなタイミングで入りますので」
「あんたら名前は?」
「あー?イチイチ名前なんて名乗ってられるかよっ」
「そうですね。毎回名乗っていてはキリがありませんので、私ことは芸術家と呼んでください」
名前すら名乗らないのかよ!コイツら・・・
なんかコイツらヤバそうな気がする・・・
「明里、俺をアイツらの目の前に飛ばしてくれ!すぐ終わらせる」
俺が明里と手を繋ぎ、男たちのふところに飛び込もうとした瞬間、ボンッと突然爆発が起きて、瞬間移動ができなかった。
「な、なんだ!?」
「きゃっ!」
俺と明里は同時に大きく体制を崩し、数メートル後方に吹き飛ばされた。
俺はすぐに立ち上がり、体制を立て直してから考え込む。
今、何が起きた?
手を繋ごうとした瞬間に手元が爆発した?
さっきの戦いでは何事もなく瞬間移動できていたから、今の爆発はさっきの会話からして、バンダナ男の能力で間違いないだろう・・・
次からは能力で爆発ごと消せば問題ないか・・・
「明里、立てる?」
俺は吹っ飛ばされた明里の元へ駆け寄り、立ち上がるのを手伝うために手を取ろうとした瞬間、ボンッと再び爆発が起きた。
「く、またか!」
ダメだ爆発を消そうにも、その前に爆風で吹き飛ばされてしまう・・・
さっきよりは小さい爆発だったが、俺は再び体制を崩し片膝をついた。
そのタイミングでバンダナ男が話かけてくる。
「おい!さっきからイチャイチャしてんじゃねーぞ〜コラッ!」
イチャイチャってなんだよ!こっちは手を繋ごうとしただけだぞ・・・
「ただ手を繋ごうとしただけで、そんなに怒ることないと思うけど」
「テヲツナゴウトシタダケ?」
「はっ?」
なんでカタコトなんだよ・・・
そしてなんでキレてんの!?
理不尽にも程があるだろ・・・
「男女が手を繋いだ時点で、それはもうリア充だろうが!」
「だから手は繋いでないって!それはお前の偏見だろ!」
コイツ非リアか?よし、これから非リア男と呼ぶことにしよう・・・
「うるさい!リア充は爆発しろ!」
そんな、メチャクチャだ!コイツだいぶ頭がイカれてやがる・・・
それから、何度か俺は明里と手を繋いで相手のふところに飛び込もうとしたが、すべて手元で爆発が起き近づくことができなかった。
「やっぱりダメか・・・」
「キャハハハ!どうした?少しは近づいて攻撃してみろよ〜じゃないと脱落しちまうぞ!」
俺と明里のHPはお互い二割ほど削られた。
このままじゃまずいな・・・
今まで手に触れようとした瞬間に爆発が起きているから、何か条件があるはずだ・・・
俺は非リア男の発言を思い返して一つの仮説を立てた。
そして明里のそばに寄り、手を繋がずに相手に聞こえない程度の声量で話しかける。
「この場で待機してて、俺が一度あの非リア男に単身で乗り込もうと思う。もし爆発が来たら瞬時に避けて」
「わかりました。でも、どうして?」
「非リア男の能力は少し面倒臭い条件がありそうな気がするんだ」
「面倒臭い条件?」
「俺の予想が正しければ、俺が単身で乗り込めばアイツの能力は発動しないはずなんだ」
「気をつけてくださいね」
「ありがとう」
俺たちが会話を終えると、非リア男が不機嫌そうに声をかけてくる。
「お話中すいませんけど〜今は試験中で〜す。イチャつくなら他でやってくれませんかね?」
「イチャついてなんかないわ!作戦会議だよ!」
「へ〜どんな作戦なのかな?」
俺はニヤッと少し笑ってから、全力で非リア男目掛けて走った。
「はぁー」
俺が近づいていくと、非リア男が急に怯えだし身構えた。
「く、来るな〜」
そして非リア男に手が届く距離まで来た。
この距離は先ほど明里との間で爆発が起こった距離だ。
よし、やっぱり発動しないな。
そうなると、コイツの能力の発動条件は・・・
非リア男の能力について確信した直後、俺の目の前に大きな白い虎の彫刻が現れて、その彫刻が爆発して俺は明里の居るあたりまで吹き飛ばされて戻ってしまった。
「うわぁっ」
虎の彫刻!?あの芸術家の能力か・・・
「助かったぜ」
「礼には及びません。それよりあなたの能力はどうやら彼に見破られたようですね」
俺は明里の横でうつ伏せに横たわっていた。
「孝さん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。それより俺に触れちゃダメだ。非リア男の能力が発動してしまう」
「え?」
俺はゆっくりと立ち上がってから、非リア男に話しかける。
「おい非リア男!お前の能力は「男女がある程度近づくとその間で爆発が起こる」ものなんじゃないのか?」
「誰が非リア男だ!ちっバレちまったら仕方ねーな」
「やっぱりな」
「えっとどういうことですか」
「簡単に言うと俺たちが初戦で取った戦法は今回は使えないってこと」
「そんな!一体どうすれば・・・」
「それは考えがある。今回は二手に別れよう」
「二手に分かれるんですか?・・・」
「俺があの芸術家の相手をする。明里はあの非リア男の相手をお願いしてもいいかな?」
「わかりました。でも私には避けることはできても、攻撃はできませんよ?」
「大丈夫。攻撃する必要はないよ。明里は非リア男に近づくだけでいいから」
「近づくだけ・・・?」
「大丈夫俺を信じて!」
明里は、俺の言葉を聞いて完全に理解していなかったようだが、俺たちはさっき決めた通り、明里は非リア男の前に行き、俺は芸術家の前に行ってそれぞれ配置についた。
「だからイチャイチャすんなって言ってんだろうが!」
「イチャイチャなんてしてねぇーって!」
ほんと面倒臭いなコイツ・・・
「お互い一騎打ちか面白れぇな。受けて立とうじゃねぇか!」
「いいでしょう。こちらもその方がフェアですしね」
芸術家の方は、非リア男に比べて少しはまともそうだな・・・
そして俺は芸術家目掛けて走り、明里は瞬間移動で非リア男の目の前に飛んだ。
「わっ俺の目の前に綺麗な女の子が!夢見てるみたいだ〜」
非リア男が嬉しそうに言った瞬間、ボンっと爆発が起こり、非リア男が数メートル後方に吹き飛ばされた。
「ゲフッ」
非リア男は自分自身の能力でダメージを負ったのだ。
明里はというと、瞬間移動で爆発の被害から逃れている。
先ほどから何度も爆発を経験したことで慣れてきたようだった。
一方の俺はというと、召喚された動物の彫刻を爆発する前に能力で消していた。
「私の彫刻が爆発する前に消えた・・・だと?」
まぁ最初は驚くよな・・・
「貴様っ!私の作品を爆発する前に消すとは何を考えているんだ!」
「いや、消すに決まってんだろ!爆発するんだからっ!」
「真の芸術は爆発なのだ!」
「はっ?」
「芸術は爆発だ」
「んっ?」
何言ってんだ?コイツ・・・
そして今、なんでわざわざ二回も言った?
真の芸術が何かは知らないけど、多分絶対意味違う気がする・・・
「嘘つけ!」
「何てことを言うんだ!私の芸術家としての信念を侮辱するな!」
芸術家は怒りに満ちた声を上げると同時に、十二体の動物の彫刻を召喚した。
それは干支を連想させるものだった。
「消せるものなら消して見せろ」
俺は十二体の爆発する彫刻の群れに真正面から向かっていった。