8話
「お、お前 な、何をした?」
京也は何が起きたのか分からず、困惑している。
「見ての通りナイフを消したんだよ」
「はーっ?」
「炎のナイフって言っても野球のピッチャーが投げるボールよりは遅いからさ」
明里は口に手を当てながら驚いている。
「す、すごい。これが孝さんの能力・・・」
俺は明里を見て軽く笑ってみせる。
再び京也に向き直り言葉を続ける。
「二人称は君じゃなかったのか?さっきまでの余裕が無くなってるぞ」
「黙れ!どうせ卑怯な手を使ったんだろ?」
「そんなわけ無いだろ。これが俺の能力『虚無』だ」
京也は悔しそうな表情を浮かべている。
「だったら・・・」
今度は明里に向かって風のナイフを投げる。
だが、明里は動揺することなく、自身の能力であっという間に避けてみせた。
「ちっ」
「俺に攻撃が当たらないからって、女性に容赦なく刃物を向けるなんて最低だなお前!」
「うるせぇー女なんて全員ただのオモチャなんだよ!」
バチンっと周囲に大きな音が鳴り響いた。
一瞬、俺には何が起こったのか、まったくわからなかった。
気がつくと、明里が京也の頬に平手打ちしていたのだ。
「がはっ」
握り潰されたスポンジのように、大きく顔を歪ませながら地面に沈んでいく京也だった。
「あなたは今、この瞬間、すべての女性を敵に回した」
距離が離れていて明里の表情は確認できないが、京也に向けて発せられる言葉一つ一つに怒りの感情が込められているのが感じ取れる。
そして余計なことかもしれないが、今の平手打ちで京也のHPが二割ほど減少した。
女性のビンタって他のどんな能力よりも強力な攻撃なんじゃ・・・
「孝さん」
明里がこちらを向いて俺に話かけてくる。
「早くこの人倒しちゃいましょう・・・ね?」
明里本人は百点満点の笑顔だが、心の奥底から黒い何かを感じる。
「りょ、了解であります。長官」
ふと、気づいた時には思わずそう答えてしまっていた。
「長官?」
明里がコクリと首を傾げて聞いてくる。
「あぁ・・・気にしないで今のは口が滑っただけだから・・・」
「そ、そうですか・・・」
「と言うことで坂部京也、俺はお前を全力で相手をする。だからお前も全力を出せ」
「言われなくてもそのつもりさ」
そう言いながら京也が立ち上がる。
「明里ちゃんさっきのビンタ気持ちよかったよ、ありがとう。アハッ」
「うぅっ・・・」
横に明里がすぐ戻ってきて、俺の服の袖を掴んでくる。
やっぱりあのタイプ男は苦手なんだろうな・・・
そして明里は可愛いな〜
コイツMなのか?でも七股するくらいの色男だしSか、う〜んでも包丁で刺された時のことを思い返すと、笑ってたしやっぱりMなのかな・・・
「孝さんどうしました?」
「なんでもないよ」
余計なことを考えてしまった・・・
「明里、俺がナイフを全部消したら、俺を京也の目の前まで飛ばしてくれる?」
「わかりました」
「じゃぁこっちから行くよ」
その言葉と同時に、京也が六本すべてのナイフを俺に向けて投げてきた。
「うおっーーー」
俺は腹の底から声をあげ、全力で走りながら一本一本ナイフを消していく。
まず一、二、三、四、五、六本目これで最後!
「明里!」
「はい!」
明里の能力で京也の目の前に飛んだ。
「ひぃっ」
「お前の女性に対する発言だが、俺もさすがに腹が立ったよ。だからこのくらいはね」
そう言って俺は拳にすべての力を込めて、京也の顔面に向けて放った。
鈍い音を立てながら、遠くのビルまで飛んでいく。
「ゴフッ」
そして京也が飛んで行った場所まで瞬間移動する。
京也のHPは残り一割を切っている。
「最後に聞いておきたい事がある」
「なにかな?」
「お前のペアはどこにいる?」
「あぁ彼ならビルの上で待たせているよ」
「なに!」
「彼は戦える能力ではないからね・・・・」
「ここは俺に任せてくれ。明里はもう一人を探してきてくれる?」
「はい」
明里は一瞬で消えた。
「優しいんだね君は」
「これからトドメを刺すところなんて、女の子に見せるわけにはいかないだろ」
「お手柔らかに頼むよ」
俺は無言で頷いた。
京也の体に触れて、対象を京也のHPに設定して念じる。
すると京也のHPだけが消滅した。
そしてどこから来たのか、ミチエルさんが現れた。
「HPの全損を確認しました。坂部京也さん残念ですが、あなたはここでゲームオーバーです」
「ははっ」
会話を終えると、ミチエルの体が純白の白から漆黒の黒へと変化した。
そして右手で球状の黒い光を造り、それを京也に向け放った。
その攻撃を受け京也はチリも残らず消滅した。
「あなたはこうならないように頑張ってくださいね」
「わ、わかりました」
「では私はこれで失礼します」
マジで容赦ないんですけど!怖いわ・・・
明里がこの場に居なくてよかった・・・
会話を終えてミチエルが去った直後、明里が現れた。
「孝さんもう一人を見つけました」
「ありがとう、すぐ向かおう」
俺たちは明里の瞬間移動で、もう一人がのいるビルへと向かった。
「ここです」
目的地に着くと、そこには黒縁眼鏡をかけたぽっちゃりした男性が、あぐらを組んで座り込んでいた。
「はぁ〜ついに見つかってしまったか・・・」
「俺は和泉 孝だ。あんた名前は?」
「我の名は風間 真司だ」
「一応言っておくが、お前の仲間は脱落したぞ」
「ああ、知っているよ。「観ていた」からね」
観ていた?どういうことだ?・・・
この場所はさっきいた所のビルの最上階は見えるが、ビルのふもとまでは見えないぞ・・・
「それにしてもお主はすごいな、開幕と同時に七本のナイフで三組のペアを一撃で仕留めた、あの京也氏をあんなにあっさりと倒してしまうなんて・・・」
アイツそんなにすごかったのか・・・
てか「我」とか「お主」ってなんだよ、話し方が独特すぎてものすごくやりずらいな・・・
「お主は一体どんな能力を・・・」
「俺は任意であらゆるものを消す能力だ」
「なるほど「アレ」はそう言うことか・・・」
コイツ、もしかしなくても俺が京也のHPだけを消したことに気づいてるよな?
「京也はあんたの能力を戦いには向かないって言ってたけど、どんな能力なんだ?」
「我の能力は『千里眼』だ。あらゆるものを見通すことができるのだ」
あらゆるものを見通せるってことは、コイツまさか・・・
「もしかして、俺たちの隠れていたビルにナイフが飛んできたのって」
「それは我が視認して京也氏がナイフを飛ばしていたのだよ」
「なるほどな」
「ついでに言うなら、お前たちに最初飛ばしたナイフは初撃の余りだったのだよ」
あの雷のナイフはそうだったのか・・・
「最後にあんたに聞いておきたい。転生後の夢はなんだ?」
「ふむ、愚問だな。異世界に転生してケモ耳少女たちのハーレムパーティーを作って、温泉に入りそれを遠くからのぞっ・・・」
「はーいストップ!もういいよ、わかったから」
「まだ話は終わっておらんぞ」
聞いた俺がバカだった・・・これはアレだ「犯罪者予備軍」と言うやつだ!
今までのシリアス展開返せよ・・・
「ケモミミショウジョ?あ、あのなんですかそれ・・・」
「あー!明里は気にしなくて大丈夫だから!」
よかった伝わってない・・・
「我の能力ではお主らとは戦えない。負けだ降参しよう」
「え!でもこの試験に降参は敗北条件には無かったですよね?」
明里が俺と真司を交互に見ながら質問してくる。
「その心配はいらんよ。お主ならできるだろう?」
「ああ、任せてくれ」
「どうするんですか?」
頭の上にハテナマークを浮かべている明里を横目に見ながら、俺は真司に触れて、京也の時と同じようにHPゲージだけを消滅させた。
するとさっきと同じように、ミチエルさんが現れた。
「風間 真司さん、HPの全損を確認しました。残念ですがあなたはここでゲームオーバーです」
この後の光景を明里に見せるわけにはいかないな・・・
「決着がついたから、もう行こうか」
「は、はい」
俺たちはビルの上から道路に移動した。
さっきまでいたビルへ振り返ると、そこにはミチエルの姿だけが残っていた。
俺たちはこれから、これを繰り返していかなければならないんだと改めて感じた。
そして俺と明里は、一歩、また一歩と次なる戦いへ向けて踏み出すのだった。