7話
周りには高層ビルがいくつも立ち並んでいる。
市街地エリアである。
「俺たちは市街地エリアか」
「そうみたいですね」
俺たちは、高層ビルが立ち並ぶ道路の真ん中に立っている。
そして視界には、HPゲージが表示されている。
どうやら各エリアへの転送と同時に、試験が始まったようだ。
自分たちが確認できる範囲に他の参加者の姿は見当たない。
俺と明里から安堵のため息が溢れる。
その時、近くに落雷が落ちたような音が鳴り響いた。
ふと目線を下に移すと、電気をまとったナイフが俺の足元に突き刺さっていたのだ。
「このままここに留まり続けるのは危険だ。早く離れよう」
「そうですね。でしたらここは私に任せてください」
そう言って明里が俺の手を握った瞬間、道路を映していた俺の視界が一瞬でビルの中に切り替わったのだ。
「これは・・・瞬間移動?」
「あっ!わかっちゃいました?そうです。これが私の能力『瞬間移動』です」
明里は自信満々にドヤ顔を決めた後、俺に能力について話してくれた。
「この能力は自身または、自身が触れたものを好きな場所に移動することができます」
「ということはどんな攻撃が来てもすぐに避けられるってことだから、ある意味で無敵だよね!」
「えへへ、ありがとうございます。その・・・能力のことを褒められるのはこれが初めてでして、ペアを決める時は「ただ移動するだけの能力はいらない」と言われ続けていたので嬉しかったです」
そう言うと、明里は照れくさそうに優しく微笑んだ。
守りたいと思わせるほどの最高の笑顔だったが、そう長くは続かなかった。
彼女の表情は瞬く間に真剣なものへと変わった。
「ナイフが飛んできた方向とは別のところに移動したので、しばらくは見つかる心配はないと思います」
「助かったよありがとう」
「どういたしまして」
少し時間もできたので、俺は改めて自己紹介をすることにした。
「改めて自己紹介するね。俺は和泉 孝。二十五歳で生前は無職だったんだ」
「私は富永 明里です。二十歳で一応通信制で大学生やってました。私のことは明里と呼んでください。孝さん」
俺はそのことを了承して一通りの自己紹介が終わると、話題は能力についてのことに移った。
「今のうちに能力の確認方法をお伝えしますね」
「お願いします」
「紙に書いてある能力名の文字を指でなぞるだけです」
「え!それだけ?」
「はい」
明里の返答を聞いて俺は思った。
なぜ、他の奴らはこんなちょっとしたことも教えてくれなかったのだろうか・・・
気を取り直して、明里に言われた通り紙に書いてある文字を指でなぞってみることにした。
すると、すぐ目の前に文字が浮かび上がり、能力の詳細が現れた。
能力名『虚無』
効果
任意で触れたあらゆる物質、事象を消し去ることができる。
っと書いてあった。
もしかしてこれはチート的な最強の能力なんじゃ・・・
自分の顎に手を当てながら考え事をしていると、明里が不思議な表情を浮かべて、横から声をかけてきた。
「どうかしました?」
「あぁ・・・いや、我ながらとんでもない能力だと思って」
「どんな能力だったんですか?」
「任意であらゆるものを消し去る能力だってさ」
俺の返答を聞いた明里が不安そうな声色で聞いてきた。
「生前はどんな人生だったんですか?」
「どうしていきなりそんなことを?」
気づけば俺は明里から質問された側なのに、逆に質問をしていた。
「だって転生神レナトゥス様が言ってたじゃないですか。能力の源になるのは、自身の生い立ちや願望から生まれるって」
どうやら俺はまた話を聞いていなかったらしい・・・初耳だった
「ごめん。それも初めて聞いたんだけど・・・いつ頃話してたの?」
「なんで聞いてないんですか!能力のガチャを回す時ですよ」
「またあの時か!」
それを聞いて明里は顔を風船のように膨らましている。
怒った顔も可愛いと思ってしまう。
「何か思い当たることはありませんか?自分のコンプレックスとか」
明里に聞かれた俺は、フレミアとの会話中に感じたあることを思い出した。
それは生歴書を見ながら、自分の人生を振り返っていた時に感じた「今の俺には何もない」という言葉だった。
「思い当たる節はあるよ。もしかしたら俺が無職だった事と関係しているのかもしれない」
そう答えると同時に、俺も明里の能力について気になったので、聞いてみることにした。
「明里にも何か思い当たる理由があるの?」
すると明里は目線を下に落として口を開いた。
「私は生前心臓が弱かったんです。入退院を繰り返してばかりでどこにも行けなかったので、転生して世界中のいろいろな場所へ行ってみたい!それが理由です」
「ごめん辛いこと思い出させて・・・」
「気にしないでください。今はお互いのために頑張りましょう」
そう言われて俺は静かに頷いた。
会話が終わってしばらくすると、ビルの壁に穴が空き今度は風をまとったナイフが飛んできた。
「もう見つかったのか!一度外に出て迎え撃とう」
「わかりました」
そして俺たちが外に出ると、金髪で首から金色のペンダントをかけた男が、複数のナイフを自分の周りで回転させながら待ち構えていた。
「おーやっと出てきた〜そろそろかくれんぼは飽きたから、僕と一緒に遊ぼうよ」
「あんたか!さっきからナイフを俺たちに飛ばして来たのは?」
「正解〜あっ僕の名前は坂部京也だ。生前はホストやってたんだ」
聞いてもいないのに勝手に喋り始めた・・・
「俺は和泉 孝。生前は無しょ・・・じ、自宅警備員だ」
「ぷはっ!ニートだニート〜」
「うるせぇーニートって言うな!」
俺はここに来て初めて怒りを覚えたかもしれない。
「そちらのお嬢さんは?」
「富永 明里です」
「明里ちゃんか君、綺麗だね。どう僕と一緒に組まない?」
明里が全力で引いているのが伝わってきて「助けて」と目で訴えてくる。
こういうタイプの男は苦手なんだろうな・・・
そう思って俺はすぐさま話題を修正する。
「お前は何のためにこの転生試験を受けてんだよ」
「そんなの愚問だね〜僕はただ生まれ変わっても女の子にモテたいだけなんだ。今度は失敗しないように」
「今度はってお前生前に何があったんだよ」
「いや〜実は七股してたんだけど、一番最初の彼女にバレて包丁でサクっとね!アハッ」
「最低!!」
怒りが混じった声色でそう一言呟いたのは明里だ。
そして京也に対し氷のような冷たい視線を送っている。
いや、それにしても笑いながら言うことじゃないと思うけど・・・てか包丁でサクっとかってまるで揚げ物を揚げるみたいな雰囲気で言うなよ・・・
「まぁそのことが原因なのか、僕の能力はマグマ、炎、雷、風、氷、光、闇の七つの属性を宿したナイフを自在に操れるのさ」
それでさっきから雷や風のナイフが飛んで来てたのか・・・
「そして能力の属性は虹なんだ。七つの属性を操れるなんて僕って最強だと思わない?」
すげぇー自慢しているようだけど、お前に宿ったのは能力じゃなくて、むしろ呪いだろ!・・・
「そうかもな。俺には属性が無いから羨ましいよ」
「属性が無い?もしかして君、最初の説明の時に仲間外れにされていたヤツか・・・」
「だったらなんだよ」
京也は視線を俺から明里の方に移した。
「明里ちゃんやっぱり僕と一緒に組まない?」
「お断りさせていただきます。それにあなたは私と同じ輪廻転生希望者でしょう・・・」
「そっかー残念〜」
そして京也は再び視線を俺の方に戻す。
「仕方ないね。無職には速やかに退場してもらおうか」
そう言うと京也は炎のナイフを俺に向けて飛ばしてきた。
もし属性を色で例えるなら、京也が七色で俺は無色かな・・・
まったく皮肉だよな「無職」には「無色」ってか・・・
そんなことを考えながら俺は、飛んできたナイフを手で掴み取り「消えろ」と念じる。
すると、握っていたナイフが跡形もなく消滅した。