6話
俺は思いっきり声を放った後、深く深呼吸をしてその場に立ち尽くしていた。
何だこの能力は・・・俺には何もないってことか?
それに説明が書いてあるって言ってたけど、書いてないじゃん!
そんなことを考えながら、呆然としていると、レナトゥスが声をかけてきた。
「そこ!何事だやかましいぞ!まだ説明は終わっとらん。最後まで黙って聞かんか無礼者。さもなくば即失格にするぞ。何か質問があるなら最後にせい!」
「すみませんでした」
「うむ。では続けよう」
なんかめちゃくちゃ怒られた・・・
直後、レナトゥスはゴホンッと咳払いをして話を再開する。
「この試験は、輪廻転生希望者と異世界転生者の二人一組でペアを組んで、自身の能力を活かして戦ってもらう。能力の詳細は先ほど説明した通りに確認できる」
えっ!もう説明してたの?しまった聞き逃してた・・・それ一番重要なやつ!
とにかく今は話を聞かなきゃダメだよな
「諸君らにはあらじめここに来るとき、星印が刻印されたペンダントを渡されていると思う」
レナトゥスの隣の席に座っていた審査員が、金色と銀色のペンダントを会場にいる全員に見える形で掲げる。
「金色のペンダントを付けている者が輪廻転生希望者。銀色のペンダントを付けている者が異世界転生希望者だ。諸君らはこれを目印にペアを探してくれたまえ」
俺は首に下げたペンダントを持ち上る。
これはそのためだったのか・・・
「そして、今諸君らに与えた能力は転生後の特典としてのものでもある。だが転生できるのは優勝したペアのみ」
つまりペアを組む相手次第で、自分が生き残れるかがほとんど決まるってことだ。
落ち着け・・・俺の能力がどんなものかがわからない以上、ペアを組んでくれる人が居るかどうか・・・
「では次は勝敗についてだ。諸君らには戦闘開始と同時にゲームでよくあるHPゲージが視界に表示される」
なんか急にゲームっぽいな・・・
「相手チームのHPを先に全損させた方の勝ち。敗北者は魂ごと消えてもらうのでそのつもりでいてくれたまえ」
いや、ほんと容赦ないな・・・
ふと視線をミチエルの方へ移すと、彼女は右手で球状の光を造り、不気味な笑みを浮かべながら、俺たち参加者をまるで、収穫間近の果実を眺めるような目で見つめている。
抹消気満々じゃねーか!
「では諸君らにはこれからペアを探してもらう。その後で、森林、鉱山、市街地、砂漠の四つのステージに分かれて戦ってもらい、各エリアで生き残った者達で再びこのドームで決勝戦を行う流れだ。試験の説明はこれで終了する。質問があるものは居るか?」
そう問われて俺はすぐさま手を挙げる。
聞き逃していた能力の説明を確認するためだ。
「あのー能力の詳細についてなんですけど、もう一度教えていただけませんか?よく聞き取れなかったので」
「お主は先ほど私の話を遮った者だな!それは自業自得であろう。ペアを組んだ者に聞くが良い」
冷てぇーなこのおっさん!神様なんだったら、もっと親切にしてくれても良いじゃないか!
まぁ自業自得と言えばそうなんだけどさ・・・
あともう一つ気になることがあるし・・・
「もう一つだけ聞いても良いですか?」
「何事だ?」
「俺の紙には属性『無』と能力名『虚無』と書かれていたんですが、能力って本当に全員に与えられているんですか?」
「能力は全員に与えられている。それは間違いない。そう書いてあったのなら、そういうことであろう」
「なるほど・・・ありがとうございました」
俺が質問を終えると、レナトゥスはもう一度全員に声をかけ質問がないかを確認した後、質問タイムを終了して話を終えた。
結局。俺の能力については何も手がかりを得られなかった。
しばらくして、参加者たちがペアを決める時間になった。
俺は近くにいる人に声をかけたが、能力の確認どころか「得体の知れないヤツをペアにはしたくない」と全て断られてしまった。
当然といば当然かも知れない・・・このペアの選定には、自分の命と転生できるかどうかが賭かっているのだ。
自分の能力も把握できていないヤツと組むより、有力なヤツと組む方が生き残りやすいと考えるのは普通だろう。
そんなことを考えていると、俺以外の全員がペアを決め終わり一人取り残されていた。
「完全にあぶれちまった・・・」
俺がため息をついていると、レナトゥスが声をかけてくる。
「そろそろ決まったか?では各エリアに転送を・・・」
「待ってください!まだ決まっていません」
俺は慌てて声を挙げる。
「またお主か!まだ決まっておらんのか?誰かさっさと組んでやれ」
すると、人混みの中から人をかき分け一人の女性が現れた。
彼女は黒髪ロングで後ろの髪は腰まであり、前髪は肩まである容姿の整った綺麗な女性だ。
そして首から金色のペンダントを下げている。
輪廻転生希望者の証だ。
お互いにペンダントの色を確認して、暖かいため息が溢れる。
「富永 明里です。私でよかったら・・・」
「和泉 孝です。俺からもよろしくお願いします」
「能力の確認方法は後でお伝えしますね」
「ありがとうございます・・・ってなぜそのことを?」
「目立ってましたから・・・」
「あぁ・・・」
明里は苦笑いを浮かべながら微笑んで、俺はため息にも似たような声を漏らしながら、恥ずかしさのあまり顔をそらしてしまった。
めっちゃ恥ずかしんですけど〜
俺そんなに目立ってた?
次の瞬間レナトゥスが咳払いをして、会場全体に声をかける。
「うむ、これで揃ったな。では各エリアに転送を開始する」
こうして俺にも無事にペアが見つかり、各エリアに転送されるのだった。