5話
俺は、試験会場前に立っていた。
目の前には大きな門があり、視線を右側に移すと、ミチエルとは違う天使が立っている。
しばらくすると、天使が声をかけてきた。
「こちらは、転生試験参加者受付になります。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「和泉孝です」
「ありがとうございます。和泉様は輪廻転生と異世界転生どちらをご希望ですか?」
「異世界転生です」
「かしこまりました。では、こちらのペンダントを首にかけて、この先の試験会場へお進みください。試験中必要になりますので」
「ありがとうございます」
受付の天使から渡されたペンダントは、銀色で中央に星の印が刻印されている。
俺は、受付の天使に一礼して、試験会場の門をくぐる。
そこには、大勢の試験参加者たちが、ドーム状の広場を埋め尽くすように立っていた。
総勢六百人余りと言ったところだろう。
俺がしばらくその様子を静観していると、ドームの上の方に審査員と書かれたブースに何名か人影が現れ、あらかじめ置かれていた席に座る。
その中には、天界に来て初めて出会った天使ミチエルの姿もあった。
「やっぱりミチエルさん審査員だったんだ!」
ってことはあの事も案外嘘じゃないかもな・・・
喉がゴクリと音を立てると同時に、脳裏にフレミアの言葉がよぎる。
(「あの腹黒天使には気をつけろ、油断してるとあっという間に魂狩とられるからな」)・・・・・・
ふと、そんなことを考えていると審査員席の中央に座った者から、会場全体に響きわたるほどの声量で声が放たれる。
「皆のもの待たせたな!我が名は転生神レナトゥスである。これより転生試験の説明を始める」
レナトゥスの声が発せられて間もなく、新幹線の走行音のように騒がしかった会場の声が、一瞬で静まり返り、参加者全員の視線がレナトゥスに集まる。
「まず諸君らには、私からのプレゼントを送ろう。これは諸君らが待ち望んだ超能力だ!受け取ってくれたまえ」
そう言ってレナトゥスは手に持っていた杖を大きく振りあげ、会場全体を覆う程の巨大な魔法陣を作り上げた。
そして一人一人の目の前にガチャマシンが現れた。
「ガチャ!?」
俺はあまりにも突発的な出来事に驚きを隠せなかった。
なんだこれ!どういうことだ?
「そのガチャを回すと色の付いた飴玉サイズの玉と、能力についての説明が書かれた紙が入っている。確認してくれたまえ」
これでいよいよ俺にも超能力が手に入るのか・・・
「能力は玉を飲み込むと使えるようになる」
よっしゃー!!
そう思った俺は、すかさずガチャを回す。
「来い!」
俺がガチャを回している時、レナトゥスがまだ何か説明していたが、俺の耳には入らなかった。
ゴロゴロと音を立てながら、ガチャマシンの中からカプセルが出てきた。
中を開けると、そこにはレナトゥスが言った通り飴玉サイズの玉と紙が入っていた。
だが、レナトゥスの説明とは少し違っていたのだ。
「何だこれ?玉の色が透明・・・」
レナトゥスの説明と違っていたのは、能力の宿った玉が色付きではなく透明だったこと。
「まぁいいか」
そう言って俺は玉を飲み込んだ。
「そ、そうだ紙!」
俺は慌ててカプセルの中から紙を取り出し、中身を確認する。
そこに書かれていたのは・・・
属性・無
能力名・虚無
とだけ書かれていた。
「何じゃこりゃー」
成人男性、無職の怒号が会場全体に響き渡った。