19話
俺とジャージ男が向かい合っている。
「ダメージが入れ替わった?」
どういう事だ?・・・
「へへへっ、驚いたか!そりゃあ、このガキの能力だ!」
「なにっ!」
そう言って、ジャージ男は手を掴んでいる少女へと視線を向ける。
「このガキは、自分と相手のダメージを入れ替える能力なのさ。まったく、自己犠牲さまさまだよな〜」
自己犠牲!・・・
ジャージ男の言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中に二つのことが思い浮かんだ。
一つは、少女が戦闘に参加してこなかった理由がわかったこと。
二つ目は、少女の能力を自己犠牲と評して、馬鹿にしたところを見て、怒りの感情が湧いてきたことだった。
俺がそんなことを思っていると、ジャージ男が少女を地面に投げつけた。
まるで、物を投げつけるように。
「うぐっ・・・」
「ちょっ、なんてことするんだ!」
俺はその様子を見て思わず叫んだ。
「あ〜?こんなガキなんざ、どうだっていいだろ!ここに来るまで、コイツは何もできねぇ、ただのお荷物だったんだからよ〜」
「なんだと!」
俺はジャージ男のその言葉を聞いて、拳を強く握りしめる。
コイツ!今の言葉、本気で言ってんのか?・・・
ふざけんな!調子に乗るのもいい加減にしろ!・・・
この男は、いや、コイツは絶対に転生させてはいけない。
こんな人の心を持たないようなクズは、ここでくい止めなければいけない。
俺は素直にそう思った。
「このガキを生かしておいたのは、いざって時のための保険だよ〜」
ジャージ男の言葉を聞くたびに、俺の中で怒りの感情が膨れ上がっていくのを感じる。
もう、とてもじゃないが、これ以上聞いてられない!・・・
「用済みの道具を捨てるのは、どんなゲームでも同じことだろ!」
道具!?
コイツ今、人間のことを道具って言ったか!・・・
「なぁ〜お前もそう思わないか?」
「思わねーよ!ちっとも思わない!」
俺はジャージ男の問いかけに対して、キッパリと断った。
「はぁ〜〜〜っ」
すると、ジャージ男は今までに無いほど大きく、深いため息をついた。
「残念だ〜ほんとに残念だよ〜お前とは分かり合えそうな気がしてたのにな〜」
「ふざけるな!お前みたいなクズと一緒にするな!」
「はぁ〜〜〜っ」
ジャージ男が再び大きなため息をついた。
「へへへっ」
そして不気味な笑みを浮かべた。
「さてと!楽しいおしゃべりもここまでだな」
ジャージ男がそう言った瞬間、雰囲気が一変した。
それは一眼でわかった。
この感じは本気だ・・・
「時間稼ぎに付き合ってくれてありがとな!」
「は?それはいったいどういう・・・」
時間稼ぎ?・・・
なんのことだ!?・・・
俺は、ジャージ男の時間稼ぎという言葉を聞いて少しの間考え込む。
まさか!・・・
しばらくして俺は一つの答えに辿り着いた。
「能力の再使用か!」
「ようやく気づいたか!ほんと馬鹿だなお前!へへへっ」
しまった!・・・
さっき明里が言っていたことを思い出した。
やられた・・・
今思えば男これまでの行動にも納得できる。
例えば、明里を操って俺と戦わせたこと。
俺と明里が戦っている最中に、自分の身の上話や能力について説明をしたこと。
そして、今の少女の能力についての説明もそうだ。
このジャージ男は、最初から俺たちと戦いながら、使用済みの能力を再び使用するための時間を作るように行動していたのだ。
まぁ、他にもマインドコントロールを使って、あわよくば俺たちの能力も盗もうとしていたかもしれない。
いや、実際に明里の能力は盗まれたか・・・
「なんで、こんなことにも気づかないんだよお前!大事なお仲間さんが、親切に教えてくれてたのによ〜」
言われてみればそうだ。
俺は明里がくれた情報をうまく活かせなかった。
「へへへっ、ちょうどいい、決着をつけようぜ!」
ジャージ男がそう言い放った直後、頭上から隕石の大群が降り注いできた。
まだ能力を持ってたのか!・・・
俺はすぐさま、降り注いでくる隕石の大群を消滅させる。
「これもダメか!」
ジャージ男は一瞬固まってから、また動き出した。
「まだまだ!次は神獣召喚だ!」
その言葉の通りに、青龍、朱雀、玄武、白虎の四体の神獣が出現した。
神獣たちは、四体同時に襲いかかってきたが、すべて一瞬で消滅させた。
「な!これもダメなのかよ!くそがっ!」
次は糸を操る能力を使ってきた。
もちろんこれもすぐに無効化した。
ただ、地面のところどころがえぐれて、地形がかなり変化した。
「くそ。このチート野郎が!」
「それはお互い様だろ!」
この後、しばらくの間戦闘が続いた。
その間に、ジャージ男はいろいろな能力を使ってきた。
雷を出す能力、岩を操る能力、植物を操る能力、音を操る能力、影を操る能力、口に出した言葉を実体化する能力、など本当にさまざまだった。
そしてある時を境に、ジャージ男の攻撃が止まった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ジャージ男は能力を使いすぎて息を切らしている。
「持ってる能力が全部消されちまった・・・だと!」
どうやら戦っているうちに、ジャージ男の能力が再び使えるようになる時間より、俺が能力を無効化する時間の方が早かったようだ。
「どうした、もう終わりか?」
「くっ!・・・」
俺はジャージ男を捕まえるために全力で走った。
ジャージ男が能力を使えない今が決着をつけるチャンスだからだ。
俺が走り出すと、ジャージ男も走り始めた。
あいつは同じ、無職、ひきこもり、ニートだ。
だが、俺はこれでも元運動部出身だ。
足の速さにはそれなりに自信がある。
俺はあっという間に追いついて、ジャージ男の腕を掴もうとした。
その瞬間だった。
突然俺の目の前に少女が現れた。
「なっ!」
ジャージ男が、瞬間移動を使って少女を連れてきたのだ。
コイツこの子を盾にしやがった!・・・
「え!なに!?」
少女は、何が起こったのかわからず困惑している。
俺はそのままの勢いで、少女の手に触れた。
すると少女の残り少なかったHPが底を尽きた。
「HPが消滅した!?なんでだ!クソが!」
その直後、HPが尽きた少女をジャージ男が投げ飛ばした。
「お前なんてことを!」
「うるせぇー」
俺はすぐにジャージ男を取り押さえた。
「お前の負けだよ・・・」
「いやだ・・・まだ・・・まだ・・・俺は・・・負けてない!」
「いや、もう決着はついた。俺がお前の手を掴んだ時点でな」
「はぁ〜何いつてんだよ!ただ手を掴んだぐらいで勝った気になるなよ!」
ジャージ男は大声で怒鳴り始めた。
「だいたいお前の能力は、「能力で受けた傷をを無効化する」能力だろうが!」
「お前は俺の能力を誤解している」
「なんだと!」
「俺の能力は「任意で触れたあらゆる物質、事象を消し去ることができる」能力だ」
「はぁ?」
「つまり、触れた相手のHPを消し去ることができるんだよ。こんなふうにな」
俺はそう言ってジャージ男のHPを消し去った。
「な?」
「そこまで!」
俺がジャージ男のHPを消し去ると、レナトゥスから戦闘終了が宣言された。
こうして、転生試験は俺たちの優勝で幕を閉じた。
次回最終回です




