18話
俺の目の前には明里が立っている。
俺と明里の手が引き離された隙を突かれて、明里がジャージ男に操られた。
「あかり・・・」
「・・・」
俺の呼びかけに明里は答えない。
明里は無言で無表情だ。
「おいお前!あの男を始末しろ!」
ジャージ男が明里に指示をする。
ジャージ男が指示を出すと、明里は無言のまま頷いて、ゆっくりと俺に近づいてきた。
大丈夫。
たとえ操られたとしても、さっきみたいに手で触れて、明里にかけられた能力を解除すればいい。
そう思って俺は明里に手を伸ばす。
だが、俺が明里に触れようとした瞬間、明里は突然俺の目の前から姿を消した。
「ぐあっ!」
明里が目の前から姿を消すとほぼ同時に、背中に強い衝撃を受けた。
明里に背中を蹴られたのだ。
そして軽く吹っ飛ばされ地面に転がる。
明里は俺が起き上がるよりも先に、瞬間移動を使って距離を詰めて攻撃してきた。
「がっ!」
今度は左頬を拳で殴られた。
俺は殴られて体制を崩した。
明里はそんなのお構いなしに、俺の顔を殴ったり、腹を蹴ったりしてきた。
「よ〜し、最初は効かなかったようだが、今度はちゃんと効いてるようだな」
少し離れたところでジャージ男はそう呟いた。
効いてる?
今のこの明里の状態が・・・?
ということは、この決勝戦が始まってすぐの時、明里の様子がおかしく見えたのは、やはりジャージ男の能力だったということか。
もしそうだとするなら、あのジャージ男が今までに使った能力は、明里の瞬間移動を含めると全部で六つの能力を使った事になる。
いったいどうしたら、複数の能力を使うことができるんだ?
「へへへっやっぱり仲間同士で潰し合うのを見るのは最高だな!おい!クソガキお前もそう思わないか?」
ふと、ジャージ男はドーム会場の端に立っていた少女に話を振った。
「え、あ、あの、わ、私にはわかりません・・・」
「あん?今なんつったお前!」
ジャージ男が、明らかに機嫌が悪くなったのがわかった。
次の瞬間、ジャージ男が少女の前に現れた。
明里の瞬間移動を使ったのだ。
まったく、他人の能力を当然のように使いやがって・・・
ジャージ男は少女の前に立つと、すぐに平手打ちをした。
「きゃっ!」
「さっきのは「私もそう思います」って言うところだろうが!」
ジャージ男は少女に暴力を振るったうえ、大声で怒鳴りつけた。
最低な野郎だ・・・
「誰のおかげでお前はここまで来れたと思ってるんだ?あぁ!」
「あ、あなたのおかげです・・・」
「だろう?そうだろう?だったら俺の言うことに素直に従え!いいな?」
「は、はい、わかりました・・・」
ジャージ男はそれだけ言い終わると、再び瞬間移動を使って俺の近くに戻ってきた。
「おいお前!俺は今気分がいいから、特別に俺のことをを教えてやるよ」
ジャージ男が俺に話しかけてきた。
お前の気分は最高だろうが、俺の気分は今最悪だよ!・・・
俺は明里の攻撃に耐えながら、ジャージ男の話に耳を傾けることにした。
ジャージ男の話はこうだ。
まず、このジャージ男は、生前二十年近い引きこもりニートだったと言うこと。
そして家族に家を追い出され、途方にくれていたところ、トラックに轢かれて今この試験を受けているのだという。
そして話はジャージ男の能力の事に移った。
正直ここで、どうして自分から能力のことを話すのか疑問に思ったが、そのまま聞き続けることにした。
ジャージ男の能力の属性は、無属性。
能力名は「写生」
効果
自分が理解した相手の能力を写し取り、行使することができる。
という能力だった。
なにも無いがゆえに、何者にもなれるということなのだろうか・・・
はっきり言ってチート能力だ。
「なんだよそれ!」
ジャージ男の話が終わって、真っ先に俺から出た言葉がそれだった。
「どうだ!驚いただろ?これが俺の能力だ!」
ジャージ男は腰に手を当てながら、自慢げにそう言った。
最初にこの男を見た時に感じた感覚の正体がようやくわかった。
俺とジャージ男は同じ、無職で引きこもりだったのだ。
おまけに、お互い持っている能力の属性が同じ無属性だった。
境遇が似ると、能力の属性も似たようなものになるのだろうか・・・
正直、こんなヤツと一緒にされたくない。
「ぐあっ!」
考え事をしていたら、明里に殴られてしまった。
俺はまだ明里と戦っていた。
ジャージ男が話している間ずっとだ。
明里を元に戻すには、手で触れればいいだけなのだが、いまだにそれができていない。
手で触れようとすると、瞬間移動で回避されてしまう。
俺は一方的に攻撃を受け続け、今はHPが半分ぐらいまで減少してしまった。
「がはっ!」
今度は背中を殴られて、吹っ飛ばされた。
そして明里の後ろからジャージ男が追撃してきた。
腕から斬撃を出してきたのだ。
俺はその攻撃を回避しきれずに、斬撃を喰らってしまった。
「うぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
この攻撃で右腕が吹き飛ばされた。
また新しい能力か・・・
俺は地面に転がると、すぐに残った左手で体に触れて、今のを「無かった」事にした。
今のは幸運だったな。
両腕が切り落とされていたら、俺は終わっていた。
その様子を見てジャージ男が驚いている。
「お前の能力は、「能力で受けた傷をを無効化する」能力か!」
バレた!?・・・いや、ちょっと違うか・・・
ん?ちょっと待てよ!・・・
これは使えるかもしれない。
「あぁ、そうだ。手の内がバレたら隠しておく必要はないな」
そう言いながら俺はゆっくりと立ち上がる。
そして再び明里が攻撃しようと拳を突き出してくる。
ここだ!・・・
俺はまるで、真剣白刃取りのように明里の手を掴んだ。
よかったこれで元通り・・・
「明里わかるか?」
「・・・」
俺の呼びかけに明里は答えてくれない。
「おい女、一旦こっちへ戻ってこい!」
ジャージ男は慌てて明里に指示を出した。
明里はすぐに瞬間移動でジャージ男の隣に行った。
「明里どうして・・・」
確実に触れて能力は解除したはずなのに・・・
「へへへっ、ギリギリまにあっ・・・ぐあっ!」
まだ喋っている途中で、明里がジャージ男を殴ったのだ。
「え?」
「孝さん、ご迷惑をおかけしました。ここは私に任せてください」
「どう言うことだ?・・・ぐぼっ」
「洗脳は先ほど孝さんに解いてもらいました。さっきはあなたの隙を作るために演技してたんです!」
「なんだと!このクソアマがっ!・・・あぐっ」
しばらくの間、明里とジャージ男の戦闘が続いた。
一人で戦っていたら、また操られるのではないかと心配したが、どうやらそれは大丈夫らしい。
明里がジャージ男と戦闘しながら、大声で俺に教えてくれた。
ジャージ男は、複数の能力を持ってはいるが、同時発動はできないこと。
一回能力を使うと、次に使用するまでに時間がかかること。
その中でも、瞬間移動は比較的早く使えること。
これらのことを、操られている間にテレパシー能力を受けて知ったそうだ。
明里はジャージ男の攻撃を回避しつつ、物理攻撃で攻撃している。
そして、ジャージ男のHPが一割を切った。
「調子乗るな!クソアマが!」
「きゃっ!」
ちょうどその時、明里が風の能力を受けて、勢いよく吹き飛ばされた。
「明里!」
俺は急いで明里のそばに駆け寄った。
すると、明里はHPを三割ほど減らして気絶していた。
ジャージ男はその隙をついて、少女の元に近寄った。
「さっさと手を貸せ!」
「いやっ!やめて!離して!」
嫌がる少女の手を無理やり引っ張って、自分の体に触れさせた。
すると、少女のHPが一割まで減少して、ジャージ男のHPが全回復した。
そして、ジャージ男がニヤリと笑った。




