17話
目の前には全身が炎に包まれたジャージ男が立っている。
「炎の能力!?一体どういうことだ・・・?」
俺はとっさにそう口にしていた。
「おぉ〜驚いたか!そうだとも、これは見ての通り炎の能力だ」
ジャージ男は、まるでそれが当然かのように言った。
いや、まぁ、確かにあれは見ての通り炎の能力なのだが、俺が言いたいのはそう言うことではない。
俺が言いたいのは・・・
「なんで能力を二つ持ってるんだ!?・・・」
予想していたこととはいえ、実際に目の当たりにするとやっぱり驚くものだ。
「さっきは氷の能力を使っていたじゃないか!」
「いいね〜いいね〜その顔!今の流れを見たヤツらはみんなその顔をするんだよ〜まったく最高だぜ!」
なんだと!この男かなり歪んでやがる!・・・
しかし、いまだにわからない。
どうして複数の能力を持つことができるんだ?
この試験の説明の時、転生神レナトゥスは与えられる能力は一人一つと言っていた。
それが本当だとするなら、ジャージ男が複数能力を持っている事の説明がつかない。
「おかしいだろ!一人が複数の能力を持っているなんて!」
「そりゃあひでぇ言い方だな。たまたま炎と氷を使える能力だったってことだろ?」
ジャージ男はニヤニヤと笑いながらそう言った。
おかしい。
この男はまだ何か隠している。
そう思えてならない。
普通なら自分の能力を看破されたら、少しは動揺したりするものじゃないのか?・・・
しかも、ついさっき氷の能力を消されたのを見ていたはずだ。
少なくとも今までの相手なら、能力が無効化された事に驚いて、動揺したりパニックになったりしていた。
だが、このジャージ男は眉ひとつ動かさずに冷静さを保っている。
もしかしたら、少しは驚いてはいるかもしれないが、今のジャージ男の雰囲気からは、まだまだ余裕があるように感じ取れる。
「へへっ、くらえ!」
考え事をしていると、男が炎の球を作って攻撃してきた。
俺はその球を手で触れて無効化する。
「あ?・・・へへっ」
俺が炎の球を無効化したのを見て、ジャージ男が驚いた。
そして、その後すぐに小さく笑ったのがわかった。
どうして、自分の能力を無効化されて笑うんだ?
ジャージ男の反応が、今まで戦ってきた人たちと違いすぎる。
本当に不気味だ・・・
「へへへっこの攻撃もダメか〜こいりゃこの能力でもダメそうだな・・・」
ジャージ男はさっきから、小さな声でブツブツと何かを言っている。
そして、ジャージ男の体を包んでいた炎が消えた。
「だったらこれならどうだ!」
さっきまでブツブツ呟いてると思ったら、今度はいきなり大声で叫んだ。
そして次の瞬間、空中に無数の剣が現れた。
空中に浮かんでいる剣は、パッと見ただけでは数えきれないほどある。
しばらくすると、目の前が剣の大群で埋め尽くされた。
「こ、これは・・・」
「ひぃっ!」
剣の大群を目の当たりにした途端に、明里が俺の手がぎゅっと今までよりさらに強く握ってきた。
炎を操る能力、氷を操る能力と来て、今度は無数の剣を召喚して操る能力だろうか・・・
それにしても、あのジャージ男はいったい、いくつ能力を持っているんだ?
ますますジャージ男の能力がわからなくなってきた。
今わかっていることは、複数の能力を持っているということだけだ。
本当に油断ならない相手だ。
油断ならないといえば、あの少女のこともだ。
彼女はこの決勝戦が始まって以降、一度も戦闘に参加していない。
注意しないとな・・・
「あ、あの孝さん・・・さすがにこの数は私の瞬間移動でも回避しきれません・・・」
明里は不安そうにそう言った。
そして足がブルブルと震えていた。
「大丈夫。俺の手を絶対に離さないで!」
明里は俺の言葉に無言で頷いてくれた。
「あばよ〜あの世でよろしくやってくれ。お二人さん」
そして、空中に浮かんでいる剣の剣先が全て俺たちの方向へと向けられた。
「くらえ!!」
ジャージ男の叫びと共に、無数の剣が勢いよく俺たちに向かってきた。
俺は目を閉じて、手を繋いでいないもう片方の手を自分の胸に当てる。
そして「消えろ」と念じる。
すると、無数にあった剣が一瞬にして、一斉に全て消滅した。
剣の大群が消滅して目を開けると、ジャージ男が口をパックリと開けたまま固まっていた。
「う、うそ、嘘だろ・・・この能力も効かないのかよ・・・ありえねぇ・・・」
ジャージ男は、今度こそ本当に驚いているようだった。
「だったら!・・・」
ジャージ男がそ言うと、今度は俺たちの目の前に黒い玉が出てきた。
そして次の瞬間、その黒い玉が爆発した。
すぐに明里の瞬間移動で、爆発に巻き込まれないところまで移動した。
「へへっまぁ、そうなるよな」
しばらくすると、さっきの黒い玉が三つ出てきた。
「孝さん、ここは私に任せてください」
明里はそう言って、黒い玉の爆発を瞬間移動で、次々と回避していった。
その後もいくつか黒い玉が出てきた。
十発ほど黒い玉の爆発を回避したところで、ジャージ男の攻撃がパッタリとやんだ。
なんで急に攻撃をやめたんだ?・・・
俺は素直にそう疑問を抱いた。
普通なら今の攻撃も効かないと知って、諦めたと思うかもしれない。
だが、俺にはとてもそうには思えなかった。
なぜなら、ジャージ男が攻撃をやめた時、奴は笑っていたからだ。
「へへっ、なるほどなぁ〜こんな感じか?」
ジャージ男がポツリと何かを呟いた。
次の瞬間、俺たちの目の前にジャージ男が現れた。
「っ!」
「きゃっ!」
そして反撃する暇もなく、俺はジャージ男に殴られて吹っ飛んだ。
今のは明里の瞬間移動か?・・・
どうして、あのジャージ男が明里の能力を使えるんだ!?・・・
俺は今まで一番明里の瞬間移動を見てきたから、今更能力を見間違えたりはしない。
それに、殴られて吹っ飛ばされたということは、今のは能力ではなく、普通の物理攻撃だったのだろう。
今のは俺が「能力を無効化する」と念じていたから、普通の能力を使わない攻撃を受けた。
もしここで、「能力を含む全ての攻撃を無効化する」と念じていれば、俺は明里と引き離されることはなかったかもしれない。
そうだ!明里だ!こんな事を考えてる場合じゃなかった!・・・
明里が俺と離れるということは、能力無効化の効果を受けられないことを意味している。
まずい!・・・
俺は地面に転がった後、すぐに起き上がった。
すると、目の前には明里が立っていた。
よく見ると、明里の目にダイヤのマークが浮かんでいた。
これは、まさか!・・・
俺は明里のその姿を見てすぐに悟った。
明里がジャージ男に操られたのだ。




