16話
俺たちの戦いが終わると、ドーム会場を二つに分けていた魔法の壁が消滅した。
そして、あたりを見渡すと、俺と明里の他に男女が一人ずつしか残っていなかった。
決勝トーナメントが始まった時には全部で八人いたが、今ではその半分の四人しか残っていない。
言うまでもなく、この転生試験も終わりが近いと言うことなのだろう。
思えばここにくるまであっという間だったかもしれない。
過ぎてしまえば早いものだ。
明里を含めた三人の表情は真剣そのものだ。
決勝トーナメントが始まった時も真剣だったが、今はみんなその時よりもさらに真剣さが増して険しくなっている。
それは俺も当然だ。
何でも無効化できる能力があるとはいえ、過信しすぎるのは良くない。
だいたいそういうものが油断に繋がるのだ。
ここに残っている他の二人は、これまでで最も強いペアだ。
今まで以上に気を引き締めていこう。
「今ここに立っている諸君らは、この試験において最も強い者たちだ。次の戦いを勝ち抜けば、望み通り転生する権利が与えられる。この戦いを勝ち抜き転生し、新たな人生を手にするのは君たちだ!!健闘を祈る!」
レナトゥスはまるで、ヒーロー番組のナレーションような演説を披露した。
その演説が終わり、俺を含めた四人がドーム会場の中心に集められた。
「決勝戦はこの会場全体を使って行う。存分に力を発揮して戦ってくれたまえ」
俺の目の前には、赤いジャージを着て、メガネをかけた太ったおっさんが一人と、学校の制服を着た少女が一人立っている。
少女は見た目からして高校生ぐらいだろうか。
そして先ほどから、何かに怯えるように体がブルブルと震えている。
赤いジャージを着たおっさんの方は、見た目からして三十代から四十代といったところだろう。
このおっさんを見ていると、何故だかわからないがどこか親近感を感じる。
この感覚は一体なんだろう・・・
「それでは決勝戦、開始!」
「おい、ガキ!てめーは俺が呼ぶまでここで大人しく待っとけ!いいな?」
「は、はい・・・わかりました」
決勝戦の合図がかかると、おっさんが少女をその場に残して、一人で俺たちに近づいてきた。
男の隣にいた少女は震えた声で返事をした。
「俺は和泉 孝。あんた名前・・・」
「あぁ?名前なんざもう何十年も名乗ってねーから忘れちまったよ。別に名前なんざどうでもいいじゃねーか!これから転生して新しい人生が手に入るんだからよぉ」
俺の言葉を遮って、ジャージ男はそう言った。
まるで自分が転生するのが当たり前かのような口ぶりだ。
よほど自分の能力に自信があるのだろう。
・・・それも当然か
今は決勝戦だ。
ここまで勝ち上がってくれば、自然と自信も湧いてくるか。
それにしても、自分の名前も忘れるって、生前どんな生活をしてきたらそうなるんだよ・・・
「おい、何してんだよ!さっさと来いよ!先手はお前らに譲ってやるよ!ほら、ほら〜」
ジャージ男は手招きをして俺たちを誘ってくる。
いや、どう見ても怪しすぎだろ!こんな見え見えの挑発に乗っかる奴なんているわけないだろ!・・・
俺はジャージ男の言葉に疑問を感じて、右手を自分の胸に当てる。
こうしていれば、たとえどんな攻撃が来ても無力化できる。
そう思って俺は安心した。
ふと、隣を見ると明里が一歩ずつゆっくりとジャージ男に近づいていくのがわかった。
まるで誰かに操られているかのように。
まさか・・・
「明里ちょっと待って!」
俺はすぐさま明里の手をとって引き止める。
「えっ!」
俺が引き止めると、明里はまるで夢から覚めたように驚いて、チラチラと首を横に振りながら周りを見渡している。
「明里・・・大丈夫?」
「え?あっ、はい。大丈夫です。ありがとうございます・・・あの私何か変でしたか?」
「あのジャージ男に近づいていこうとしてたんだよ!」
「え?私がですか?」
「そうだよ!」
「はぁ?・・・」
はぁ・・・ってもしかしてこの感じ、気付いてないのか?
まぁいいか、とりあえず正気に戻ってくれたから、よしとしよう・・・
「チッ釣れたのは一匹だけか・・・」
ジャージ男がポツリと一言呟いた。
ジャージ男の口ぶりからすると、さっき明里が操られたように見えたのは、あの男の能力なのだろうか・・・
「おいお前!無視するんじゃねーよ!お前に言ってんだよ!男!」
「あぁ俺に言ってんのか?」
「そうだって言ってんだろ!お前さっきの俺の攻撃が効かなかったよな。お前どんな能力持ってんだ?」
「言うわけないだろ!」
「あ〜そうか。まぁいいや〜」
ジャージ男はそう言って俺から視線を外して、明里の方へと向けた。
「おい、姉ーちゃんアンタの能力は何だ?」
「言うわけありません!」
ジャージ男の質問に対して明里はキッパリと断った。
明里が断ると、ジャージ男は驚いたような顔をした。
「お前も効いてないのか!」
あ?効いてない?何が?・・・
ジャージ男の話の流れが全くわからない。
そもそも、なんで直接相手の能力を聞くんだ?
さっき明里を操ろうとしたことと、何か関係があるのか?
「はぁ〜さすがに決勝戦ともなると、そんな簡単には行かないかぁ〜」
ジャージ男はそう言って大きなため息をついた。
「仕方ねーな。できるだけさっきの攻撃で決着つけたかったってのになぁ。くっそメンドクセーっ」
攻撃?もしかして明里を操ろうとしたことか?
もしそうだとするなら、ジャージ男の能力はマインドコントロールってことか?
「できるだけこれ以上能力は使いたくなかったんだがなぁ〜」
ジャージ男がニヤリと笑った。
その直後、ジャージ男の足元から氷が広がって、一直線に俺たちの方向に向かってきた。
「これは氷!」
「きゃっ!」
氷は一瞬で俺たちの足元に到達したが、俺の能力で即座に氷を消滅させた。
そして、俺たちは慌てて明里の瞬間移動を使って、氷が届かないところまで移動した。
どういうことだ?
ジャージ男は氷の能力なのか?・・・
「あ?なんだ〜なんだ〜随分と面白そうな能力を持ってるじゃねーか!」
ジャージ男が軽い口調で言ってくる。
「で、今の氷を消したのはどっちの能力だ?」
「何度も言わせるな。聞かれても自分から能力を言うわけないだろ!」
なんなんだ?
さっきからあの男の言っている意味がわからない。
どうして能力者を特定しようとするのだろうか・・・
嫌な予感がする。
この男にはどうあっても、能力を明かしてはならないと、俺の直感がそう告げている。
「明里!何があっても俺の手を離さないで!」
「わ、わかりました・・・」
手を繋いで、明里の瞬間移動の能力以外を「無効化する」と念じていれば、俺の能力はその効果ごと、明里にも適応される。
ここで重要なのは、明里の瞬間移動以外を無効化することだ。
「全ての能力を無効化する」と念じてしまえば、明里の能力まで無効化してしまうからだ。
このことは、前回の仁美さんとの戦いの終盤で確認している。
手を繋いでいること。
この状態が俺たち二人にとって、最強の形だという事に今になって気がついた。
そして気づいたことがもう一つある。
ジャージ男のさっきの口調から察するに、おそらく複数の能力を持っている可能性が高いことだ。
「はぁ〜どうやら、めんどくせー能力持ちみてーだな。こりゃ全力だすしかねーか」
そう言ってジャージ男は再び大きなため息をついた。
次の瞬間に、ジャージ男の全身が炎に包まれた。
「もっと楽しもうぜ!本番はここからだ!ぐへへッ」
俺はそれを見た瞬間に、ジャージ男が複数能力を持っていることが、推測から確信へと変わった。




