魔王を倒して地球に帰ってきたが、呪われてフルフェイス全身黒土下座鎧銃刀法違反住所年齢名前不明妄想癖虚言癖指名手配無職になってしまった俺は今を全力で生きる
異世界に勇者として呼ばれた俺は各地を冒険し、装備を整えて魔王を倒した。
しかし、魔王は最後の力で俺を呪った。
そして俺は呪われた姿のまま地球へと帰還したのだった……
「と、言うわけなんですよ店長」
「うーん、不採用」
そして地球は異世界よりも優しくなかった。
「そんな!? 僕の何がだめだったんですか!? 自信があります!どんな人でも対応できます! 24時間働けます! どんなに薄給でも構いません! 」
俺は必死だった。床も舐める勢いだった。地球は厳しい。特に無職には
「あのねぇ、頭をね、下げられてもね、困るんだよね…… 」
しかし俺の異世界直伝の土下座アタックもこの冷血ハゲ店長には通じない。異世界では魔王を倒した俺は、地球ではハゲ一人倒すことができないのだ。
何か突破口がないか。店長を観察する。相手に悟られないように爪先から頭までつぶさに。
しかし、杜撰な頭だ。この程度では「偽装看破」を使う必要もないほどだ。
というかかズラだった。悲しくなるくらいハゲだった。
「そもそもね、いくらね、娘のね、紹介だってね、いってもね。君みたいなのがね、働けるとね、思うかね?」
「働きたいです!」
「返事はね、いいけどね……」
そして店長は此方を見る。明らかに不審者を見る目だった。
俺は悔しかった。どんなに言葉を尽くしても届かない。
魔王軍四天王「拒絶する活火山 ラースドーラン」の「無益結界」を思い出す。自身にとって利益の有るものでなければ全てを拒絶し、爆破するという恐ろしい結界だった。最終的に魔王を倒したあとの世界の半分を渡すことで突破したが、二度と闘いたくない相手だった。
しかし、俺は学んだ。
「無条件の無敵など存在しない」
「条件を把握することが、突破することに繋がる」
つまり俺の交渉はここからが本番だ。
「いやね、そもそもね、フルフェイス全身黒土下座鎧銃刀法違反住所年齢名前不明妄想癖虚言癖指名手配無職をね、うちでは雇えないよ」
「そこをなんとか!」
誠意は、通じる。不審者でも。人と分かり会える。
「警察ですか……? はい、いつものです 早くお願いします」
だめだった。フルフェイス全身黒土下座鎧銃刀法違反住所年齢名前不明妄想癖虚言癖指名手配無職は人とは分かり会えないのか?
そんなことはない。俺は最終手段を切る。
「店長! 話を聞いてください!」
「警察でね、話そうね」
「貴方だけに話します! とても有益なものです!」
「罪状がね、詐偽もね、追加されるね」
「いいですか!? 取引です! 俺は……!!!!」
相手の弱点を突く。異世界では基本的なことだった。
「ええ、すみません。もうでていきました。 ……はい、もう来ないと。 ……ええ、助かりました」
電話で店長が話している。警察に解決したと連絡しているのだろう。
そう、俺たちは分かり会えたのだ。
フルフェイス全身黒土下座鎧銃刀法違反住所年齢名前不明妄想癖虚言癖指名手配詐偽無職男だったとしても、この世界にいてもいいのだ。
「ふう…… 取り敢えずね、警察にね、話しておいたよ」
相手を観察して、弱点を探し、そこを突く。
「いいかね、まだ君はフルフェイス全身黒土下座鎧銃刀法違反住所年齢名前不明妄想癖虚言癖指名手配のままだ。無職がね、なくなっただけだよ」
拒絶の理由を探し、話し合い、解決する。
「つまりだね、君のね、これからはね、辛くね、険しいね、ものにね、なるかもね、しれないね」
世界が変わろうとも、きっとそこに違いはないのかもしれない。
「でもね、きっとね、ここからだね」
そう、俺は…
異世界の魔法でハゲを治す取引をしたのである。
むき出しの弱点はとても分かりやすかった。