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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者と魔王シリーズ

選択

作者: EternalSnow

練習作





 人生とは選択の連続である。

 こうしていれば、ああしていれば。

 ああしなければ、こうしなければ。


 ああでもない、こうでもないと、少なからず選択している。


「もうじき魔王が復活します」

 予言者は言った。


 勇者の子孫として、僕は強くならなければいけなかったのに。

 僕には剣の才能がなかった。

 槍を持った方がしっくりくるのは理解できた。

 だが、聖剣に選ばれた勇者にそんな泣き言は言えなかった。


 来る日も来る日も、聖剣を振り続ける日々だ。

 血豆がつぶれて、手はもうぐずぐずになった。

 包帯を巻いて、血みどろになって、それでも振り続けた。

 僕にはそれしかなかったと思っていた。



 魔王を倒すことができるのは、聖剣の勇者と選ばれた賢者様たちだけだ。

 だから、僕は聖剣に選ばれた勇者として……。

 必ず聖剣を使いこなさなくてはいけない。



「無理をしてはいけませんよ。今のあなたは見ていて危うさを感じます」


 選ばれた賢者様の一人である姫様に忠告をされた。

 それでも、僕にはこの剣しかない。

 あなたを守るために、僕はこの剣を振るのは止められない。


「肩筋を張るな。お前はよくやっている」


 優しい言葉をかけられても、響かない。

 もう予言の日は近い。

 魔王は復活するんだ。

 そうなったら、僕は矢面に立てるのだろうか?


「あんたはなんでそんなにバカなんだい?

 姫様からも無理するなって言われてるだろ?

 休むのも勇者の仕事だよ」


 休んでる暇なんてないじゃないか。

 僕は……。

 姫様を守らないといけない。


 勇者なんだから。

 勇者の使命として、魔王を討ち果たさなくてはならないのだから。

 絶対に。





「ワレは人を殺すモノ。魔王である」


 魔王が現れた。

 それを僕は勇者として理解できた。

 僕はまだ、聖剣をうまく扱えてない。

 賢者様たちが向かう。当然僕も勇者として、魔王を討ち果たさなくてはいけない。



 勇者は魔王を討ち果たす、人類の救世主なのだから。












「お前は姫様を連れて逃げろ。必ず、魔王を討ち果たせ!」

「キミたちは人類の希望なんだ。こんなところで死ぬな。生きろ!」

「最後くらいさ。かっこつけさせてくれよ。行けよ! 行けったら!!」


 魔王は強かった。

 人知を超え、振る腕は空を割き、踏み込む足で大地を砕いた。

 賢者様は僕と姫様を逃がすために……犠牲になった。

 逃げた先の国はすでに魔王によって滅ぼされ、祖国もまた無事ではすんでいないだろう。


「大丈夫です。必ずあなたは私が守ります!」

 姫様と一緒に僕は走った。

 当てもない。ただひたすらに。


 今までとはくらべものにならないほどの魔物の軍勢が襲い掛かった。

 魔王が生まれたから、魔族たちが活性化しているのだろう。

 ドラゴンの軍勢、ゴーレムの群れ。

 に僕と姫様は襲われ、少なくない傷を負った。




「殺せ! 勇者を殺すんだ!!」

「させません。勇者は殺させません!」


 魔王が追ってきた。

 魔王もまた、勇者を理解でき、勇者を殺そうとするのだろう。

 姫様が僕を守るために、魔王と対峙していた。


 だめだ。

 勇者だけじゃない。賢者様がいなければ伝説は成立しない。

 そもそも、姫様まで失うわけにはいかない!


 魔王と戦って……僕は敗れた。

 手も足もでなかった。

 人知を超えた存在である魔王には、僕の剣は手も足もでなかった。



「死ね、勇者!」

「だめぇええ!!」


 鮮血が舞った。









 姫様だったものが崩れ落ちた。








 あ、ああ。





 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!







「ぐっなんて力だ。勇者め!」


 理解できた。

 そりゃそうだ。

 僕が勇者として目覚めないわけだ。


 勇者が絶望することで、勇者の力が覚醒する。

 その絶望が深ければ深いほど。

 その力は絶大になる。


 戦友たちが死んで、国がいくつも滅んで、なお勇者として目覚めず、親友ひめさまが死んだときに目覚めるとかどんな皮肉だろう。

 姫様を守るために勇者となったのに。


 姫様が死んだことで絶望してやっと勇者になれた。

 なんで今更。

 なんで今頃。

 なんでやっと今なんだよ。


「まだだ、まだ勇者は覚醒し切っていないはずだ! ここで貴様を殺すしかない!!

 死ねえ勇者ぁああ!!」

「邪魔」


 襲い来る魔王を貫いた。

 聖剣は槍となっていて、明らかに僕のために姿を変えたのが理解できた。


 あれほどの苦戦をした。

 打ち合うことすらできない力の差であったのに。


 この力があれば、姫様を、国を、賢者様を、みんなを……守れたのに。

 なんで、今更なんだ。



 僕は間違えたんだ。

 勇者になったときから、今の今まで。

 ずっと間違えてきた。


 涙があふれた。

 聖槍が地面を穿った。

 地面がヒビのように割れても、僕の気は晴れなかった。



『無理をしてはいけませんよ。今のあなたは見ていて危うさを感じます』

『大丈夫です。必ずあなたは私が守ります!』

『肩筋を張るな。お前はよくやっている』

『お前は姫様を連れて逃げろ。必ず、魔王を討ち果たせ!』

『あんたはなんでそんなにバカなんだい?

 姫様からも無理するなって言われてるだろ?

 休むのも勇者の仕事だよ』

『キミたちは人類の希望なんだ。こんなところで死ぬな。生きろ!』

『最後くらいさ。かっこつけさせてくれよ。行けよ! 行けったら!!』



 ああ、なんで僕は勇者としてみんなと一緒に居られないんだ。








 国に戻っても、僕の気は晴れない。

 むしろ、気が重くなった。


 王様は僕をほめたたえた。

 娘が死んでいるのに?


 賢者様たちの両親も、国民たちもすべて僕をほめたたえた。

 僕しか生きて帰れなかったのに?


 思い出がドンドン蘇ってきて、辛くなった。

 国を出ることにした。

 ここに居るのはつらかった。


 隠遁者のような生活を送ろうとした。

 ただただ、疲れた。

 もう剣も振らない、槍も振りたくない。

 一人で僕は生きると決めた。





 なんで僕は、生きているんだろう。

 みんながいないのに、僕はなんで生きているんだろう?

 みんなのために戦って死ぬなら理解できたのに。

 みんなと一緒に生きるなら、楽しめるのに。

 どうして僕は一人で生きているんだろう?



 漠然とただただ、殺意が湧いてくることがある。

 理解できてきた。

 少しずつだけど、継承されて行っている。

 予言? 違うなあれは人じゃないんだ。

 あいつは天使だったんだろう。

 魔王は勇者のなれの果てだ。神々の玩具なんだ。


 勇者は絶望して、強くなって、魔王を討ち果たし、

 勇者は、次の魔王になるんだ。

 僕は魔王になるんだと思うとしっくりくるんだ。

 僕は勇者なんかじゃない。大切なモノをひとつすら守れなかった。


 だけど、姫様が、みんなが守ろうとしたものを殺したくなんかないはずなんだ。


 噛みしめて鉄の味がした。






 

 







「見つけたぞ勇者!

 きさまがいては、必ず災いが起ころう!

 殺しはせんさ。勇者の血筋が途絶えてしまうからな。

 だが、貴様を王族に迎えれば、我が王家は永久に不滅となるであろう!

 さあ、勇者よ我が妃として……」


 王が来た。

 見た瞬間に僕の中で殺意があふれた。

 魔王を討ち果たした勇者に対する仕打ちがコレか?

 どうして、僕を一人にさせてくれない?


 ああ、そうだ。

 殺せば……いい。



「ワレは人を殺すモノ。魔王である」


 僕は高らかにそれを宣言した。

 みんなを殺したこんな世界なんて、滅んでしまえばいい。




 -ー----- --- --------。

 誰かの声が、聞こえた気がした。


 もう何も、わからない。




そして世界はループする。

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