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外伝④ あの頃(4章22話と23話の間)

 桜子視点ではありますが、ロンドとドンの過去に触れる外伝……と言うより、小話です。




 暗い居間の中央で蝋燭の炎が揺らめく夜更けに、私とロンドは子ども達の夏服を縫っていた。洗い替えがたくさん必要になる子ども五人分の夏服を全て買えば、お金がいくらあっても足りない。三つ子は大体サイズも似たり寄ったりなので量産しやすく、型紙一枚でたくさん服が作れるので、ロンドと二人で作業する分にはあまり苦にならなかった。


「今日はこのくらいにしよっか」

「私、明日進めておきますからぁ、布はそこに出して置いてくださぁい」

「いいの? ごめんね、私明日も仕事で……」

「だからこそじゃないですかぁ。今のうちにやれる事はやっておかないとぉ」


 笑いながらロンドは言ったが、今の言葉の頭には『半年の遠征で自分は屋敷にいないだろうから』とくっついている気がして、私は少し寂しさを覚えた。

 彼女とは年が同じで女同士で、こちらの世界に来てからは孤児院の引継ぎをした関係から、かなり親しくしている。何か相談事があればまずロンドに聞きに行くし、彼女も何かあると私に気を掛けてくれている。のほほんとした雰囲気とは違い、とても頼りになる女性なのだ。

 


 だから、やはり何度でも思ってしまう。疑っているわけではないし、ただの好奇心と言うわけでも無い。それでも、知っておかなくては気持ちが悪いのだ。ドンと一応の恋人同士になった今、“彼女の立ち位置とは一体何なのか”。野次馬と言われても仕方ないとは思うが、実に気になってしまう。


 

「……あのさ、前に聞いたんだけど……」

「はいぃ?」

「ロンドはさ、ドンの事……『恋愛対象としては絶対に見れない』って言ってたけど……あれって、本当なんだよね……? そーゆーの、ほんっっっっとに無いんだよね?」

「……またそれですかぁ……?」


 彼女が心底不快そうな表情で私の事を見てくるのは、この話題を振った時だけな気がする。いつも穏やかなロンドをこんな不機嫌にさせてしまうなんて、『やっぱり二人の間には何かあったのだろうか?』 と、自分でもそんな事あるわけないのにと突っ込みそうになるような思考回路に陥ってしまっているのを自覚していた。


 ただ、間違っても大切な友人を困らせるつもりでは無い。

 聞くべきでは無かった――と、二度目の後悔を抱いて、私は「やっぱり、いいや。ごめんね!」と首を振った。しかし彼女はしばらく考え込んだ後に、意を決したように口を開く。



「……いえ。確かに、お二人がそういう間柄になったのでしたらぁ……誤解を招く前に教えた方が良いかもしれないですぅ」



 ロンドはテーブルの上に置きっぱなしになっていた紙ナプキンを出鱈目に畳みながら、ぽつぽつと話し始めた。



「あれは……多分六年くらい前の事だと思うのですが……リーダーがイオーラちゃんを拾い、私や他にも何人か引き連れて義賊みたいな活動をしていた頃ですぅ……私達と言うか、リーダーとニーナさんと当時の仲間は、悪名高い貴族の屋敷から盗んだお金や宝石なんかを庶民にばらまいていたりしましたぁ……」

「ず、随分派手にやってたんだね」

「はいぃ。……それでぇ、当時多分リーダーは18歳くらいだったんですがぁ……まぁ、あんな感じで容姿が派手ですからぁ、飲み屋のお姉ちゃんなんかには人気が高くてですねぇ。――ああ、ちなみに普通の町娘さん達にはとぉっても怖がられていましたよぉ」

「あー……」


 確かに分からなくは無い……と言うか、なんだか目に浮かぶ様だ。手を伸ばす民衆の頭上から金をばらまいて高らかに笑う彼の姿が。あまり良い想像では無いなと、私は半笑いでそのイメージを頭から消す事にした。


「飲み屋のお姉ちゃん達はリーダーにあれこれと声をかけてお店に誘ったりしてたんですがぁ、本人はあまりそういう気が無くてですねぇ。……まぁ、ちょっと腹が立ったんでしょうねぇ……それで、なんと言いますかそのぉ……怒りの矛先が何故か私に向いてしまったんですよぉ……」

「え、なんで……!?」

「あぁー……『いつも一緒にいるあの女は何なのよ!』って感じだったみたいですぅ」

「イオーラやニーナさんだって一緒だったんでしょ?」

「……あの二人は、容姿端麗ですし気も強いので、ターゲットにならなかったんでしょうねぇ」


 それに同意すべきかどうか一瞬戸惑いもしたが、ここで否定するのも彼女に失礼だろうと判断して私は浅く浅く頷いた。勿論ロンドの容姿だって愛らしくて私は大好きなのだが、イオーラとニーナの人目を引くルックスとはまた違った魅力なのである。


 ロンドの語るところによると、『ドンと一緒にいる』と言う理由だけで、彼女は当時滞在していた町にいる間、陰湿ないじめにあい続けていたらしい。

 足を掛けられて転ばされるところから始まったらしいのだが、所持品が盗まれたり、とっていた宿に侵入されて荒らされたり、一番酷かったのは彼女達の取り巻きの男を利用しての強姦未遂だったと言う事だった。


「ごっ……強姦!? 大丈夫だったの、それ……」


 私は彼女に思い出させるべきでない過去を話させてしまったようだと酷く後悔し、「ごめん……」と、頭を下げた。しかしロンドは慌てたように両手を振った。


「みみみ未遂ですからぁ! やっぱりその頃になると仲間達も怪しいって気づいてくれましてぇ……それこそ、ニーナさんやイオーラちゃんが……。私の事一生懸命に探してくれてぇ、事なきを得ましたぁ……ただ」


 ロンドはそこで言葉を切ると、おずおずと自分の服の袖を捲りあげた。それにしても、確かに夜は涼しいのだが彼女は夏だと言うのに半袖を着るつもりはないのだろうか。

 私は目の前に現れたロンドの柔い肌を見る。すると次第にぷつぷつと鳥肌が浮かんできて、場所によっては赤い湿疹の様なものまで見えはじめた。


「やっぱりこの話題を思い出すと、当時の嫌な思い出が蘇るんでしょうねぇ……ほら、段々鳥肌が……そして今日は赤くもなっちゃいましたぁ……」

「あーあーあー。本当にごめん、そうだったそうだった。話させてごめん!」


 以前もその様に言っていたはずなのに、すっかり忘れていた私はまたしても頭を下げた。今度は何度も。

 ロンドの「気にしないでくださぁい」と言う言葉が今は胸に刺さる。これ以上彼女を傷つけたくは無かった。


「いっ、今も辛い? 思い出したくもない?」

「いいえ。ただこれは反射みたいなものですからぁ、お気になさらず!」

「気にするよぉ……! あぁそうだ、私何か飲み水かお茶か持ってくるから、それでも飲んで一回落ち着けよう、待ってて!」


 晴れやかに笑う彼女に、私は飲み物を持ってくるためにその場を立った。ミィノはもう寝てしまっていると思うが、彼女に頼んで夜食用に簡単なお茶セットは用意して貰っている。私は調理場へと向かう事にした。


「ごめんね、ロンド」

「す、すいませんサクラさぁん……」


 今度こそ、私はもうロンドにドンの事で探りを入れようとするのは止める事にした。よくよく考えてみれば、ドンに直接聞けば良い事なのである。嫌がるロンドから教えて貰うのは、彼女に対してもドンに対しても申し訳無いし卑怯な気がした。



 夜の廊下に響かないよう、私はそっと調理場へ歩いて行く。




 私のいなくなった居間でロンドはぼそぼそと何かを呟いていた様だが、詳しい事は私は聞こえなかった。きっと、だれかに伝えるつもりで口にしたのではなかったのだろう。









「……確かに、今の話は事実なのですがぁ……この鳥肌の理由は、それだけじゃないんですよぉ……」







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