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保育士の異世界事情は反乱の灯と共に  作者: レン.S
第4章 やるべき事
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17話 報告


 シスター・ペルフェの屋敷から戻り、ロンド、アルク、クロ、そしてゴブリンの子ども達に私が孤児院の管理者に任命された事を伝えた。

 盛り上がるロンドとアルクとクロとは対照に、三つ子はなんの事やらといった表情で座ったままだったので、「……私は今よりもっとお仕事が忙しくなります」と伝えたところ、


「やだ────!!」


 と、オルレリが屋敷中に響き渡る大声でそれを拒絶し、エルはショックのあまり微動だにしなくなり、カントはおろおろと所在なさげにしている。キルンはオルレリの声に驚いて泣き始めた。


「……そう、なるよねぇ」


 予想はしていたが、この反応はやっぱり心苦しい。怒られても泣かれても恨まれても「やる」と決めたのは私だし、後悔は無いつもりだが……私だって釣られて泣きそうだ。


「お、オルレリ……」


 私は一番分かりやすく暴れている彼女にそっと声を掛けようとしたが、肩に触れようとした手は無情にも払い落とされる。


「ママのバカ! 大っ嫌い!!」

「え……」

「こらっ、オルレリ! サクラさんに何て事言うんだ!」

「う~~っ! アル兄もバカ!」


 オルレリは憎まれ口を叩くと、扉を勢いよく閉めて部屋から出て行ってしまった。屋敷の外へ出てしまうといけないので、ミィノに付いて行くよう頼む。

 ちらちらと扉の先に視線をやるアルクが、「気にしなくていいっすよ!」と仄かに怒りを露わにした。小さく頷いてはみたが、やっぱり落ち込むものだ。


「エル、カント、キルン……ごめんね」


 私はその場からまだ動いていないエルを抱きしめてそう言った。カントとキルンもこちらに歩いてくる。

 ちなみにキルンは歩くのがスムーズになり、言葉もよく出ている。姉や兄の後ろをちょこまか付いて行く姿は微笑ましい。


「なるべく皆と遊べる時間も作るから。ロンドやアルクとお留守番していてね」

「……ママは、エル達よりおしごとの方が大事なの……?」


 悲壮感に包まれた声色でエルがぽつりと呟いたので、私は大袈裟かと思われても致し方ないほどに首を横に振った。


「違う! ママはこの家の子達が一番大事だよ! ……でも、お仕事も大事。困ってるお友達にご飯や寝る場所を用意してあげないといけないの」

「……」


 エルは私の胸元を、カントは左腹部の服をぎゅっと握った。二人ともそれから口を開かずに、石のように動かなくなってしまった。キルンだけが、「まんま~」と言いながら笑っている。




 エルとカントの緘黙は夜まで続き、寝かしつけの時も一人で布団を被って寝息を立て始めてしまった。昼に出て行ったオルレリはあの後ミィノに抱きかかえられながら戻ってきたのだが、それから私と目を合わせようともしない。彼女は夕食後から不貞寝をしてそのままだ。

 今でさえ朝から夕方まで外に出ている事の多い私がこれ以上忙しくなると言えば、多少なり抵抗やぐずりはあるだろうと予想できていたのだが、ここまではっきりと反発されるとは思わなかった。明日の朝には機嫌が良くなっていると信じたいが、三つ子も成長と共に一筋縄ではいかない部分も増えたのでしばらくこのままの可能性もある。


「だったら……しんどい」

「ま、まぁまぁ。きっとすぐに慣れてくれますってぇ……」

「そうかなぁ……」


 私が居間でぐすぐすと鼻を鳴らしながら愚痴を零すのを、ロンドが付き合ってくれている。酒でもあおりたい心境だが、クロに酒気が送られてしまうので我慢である。


「あいつらが我儘なんすよ。今までが甘え放題だったんで調子乗ってるんす!」


 長男は妹達の態度が大層気に食わないらしい。食事中も「ちゃんと挨拶をする!」「目を見て話せ!」と珍しく声を荒げていた。

 彼の気持ちはとてもありがたいのだが、こればかりはあの子達を責めないでやって欲しい。


「アルク……オルレリ達の事、これ以上叱らないであげてね」

「……俺は、ここまで面倒見てくれたサクラさんにあんな態度でいるのが許せないだけっす」

「分かってる。でもやっぱり、あの子達の気持ちも分かるから……なるべく、早めに帰れる日は帰ってくるし、休みも取る。短い時間でもそうやって時間見つけて一緒に過ごす事ぐらいしか、誠意を示す方法は無いと思うし」

「……」


 納得がいかないのか、アルクまでむっすりと表情を硬くしてしまった。私が「アルクまでそんな態度だと流石に悲しくなっちゃうな」と頭を撫でると、


「そっ、そんな! ……チビ達と違うんで……」


 と顔を真っ赤にして俯いた。

 その横でロンドが壁掛け時計を確認する。


「サクラさん、そろそろ定時連絡の時間ですぅ」

「もうそんな時間かぁ」


 孤児院の管理者になる事にしたと報告しなければならない。それを考えると少し胃が痛む。


「ん? あれ、どこ行くの?」

「えぇっ? いえそのぉ、ミィノちゃんのお手伝いでもと思いましてぇ……アルク君と」

「俺もっすか!?」

「……そんな気を使わなくても……むしろ今日はいてくれた方がいいんだけど」

「いえいえ」


 なんだ「いえいえ」って。そのままロンドはアルクの手を引いたまま、居間から出て行ってしまったのだった。


 私は通信機の電源を入れる。そう言えばネフカロン地区で使っていた通信機は手動だが充電機能も付いていたらしい。しかし固定タイプなのでここに持っては来れなかったとか。ソマランのドワーフ達に頼んで、この屋敷にも取り付けて貰えないだろうか。


 しばらく待っていると、通信機から機械音が鳴り始める。どうやら連絡が入った様だ。


「はい、こちらサク――」

『だからッ! 今は無理だって言ってんでしょ!!』

「わっ!」


 通信機から聞こえてきたのは、イオーラの怒号だった。

 一瞬私に何か言ってるのかと思い、背筋が伸びる。


『あっ、ごめ……。後ろがうるさくって……』

「いや、大丈夫だよ」


 確かに、話しているイオーラの背後から男達の声がひっきりなしに聞こえてくるので、また何か紛糾しているのだろう。顧問役が三日もたなかったと言うのも分かる気がする。彼らと渡り合うには、先程のイオーラのような威勢の良さが必要不可欠に違いない。


『リーダーはちょっと手が離せなくて……こっちは今日もバタバタしてたけど、タヅ姫無しでもなんとか指示には従う様になってきたわね。それと、明日が即位式だから、打ち合わせが長引いてて……』

「そっか、とうとう明日だったね。イオーラも何か任されてるの?」

『私は一応警備。リーダーもね。……そっちは? 今日はシスター長に呼び出されてたんでしょ?』


 ソマラン王国組も毎日忙しくやっているらしい。こうやってイオーラの声が聞けただけでも良かった。


「新しい孤児院の管理者にって誘われて……やるって答えて来た」

『えっ! そうなの!?』

「……ちょっとしばらく忙しくなると思う。定時連絡もロンドかアルクがする事が増えるかも。ドンにも、そう伝えてくれる?」

『分かった。でもまぁ……ふーん。いいんじゃない? チビ達は寂しがるかもしれないけど』

「……うん、すでにもう……すごく怒っちゃってて」

『そりゃそうよね』

「うん……」


 イオーラの背後から漏れ聞こえるドワーフ達の威勢の良い声とは反対に、私の声は自然と暗くなってしまう。

 するとイオーラは『平気よ』と軽やかに口にした。


「え?」

『あと二週間したら私もそっちに行くんだから。そしたら、サクラの代わりは私がする。チビ達の面倒は私が見る……だから、思う存分やればいいのよ』

「い、イオーラ……」


 私は感激のあまり何と言葉を続けたものか分からなくなってしまった。そんな気配を察知したのか、イオーラは機械を通すと尚一層キンキンと鳴る声を荒げて、


『アンタに出来る事なら、私に出来ないわけないでしょって事よ! 勘違いしないで!』


 と、まだ何も聞いていないのに主張し始めた。

 誰かが見ているわけでも無いのだが私は潤んだ目元を手の甲で拭って、通信機の向こうにいる少女に対し、「ありがとう」と呟く。

 恐らく耳まで真っ赤にした不貞腐れた様な表情を作っている事だろう。


「もう明日から打ち合わせがあるみたいなの。色々提案してくるね」

『……勝手にしたら』

「ふふ、そうする。イオーラも、明日の即位式頑張ってね。怪我はしないように」

『フンッ。別に、心配されるような事は無いわよ』


 それからもいくつか言葉を交わしたが、心が段々と温まっていくのを感じた。イオーラの言葉はどれもこれも表面上は全く素直じゃないのに不思議なものだなぁと考えていると、『ちゃんと聞いてなさいよね!!』とまた怒鳴られてしまった。

 しかし同じ怒鳴り声でも、アンルニルとは違って天使の声に聞こえるのだから謎である。





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