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保育士の異世界事情は反乱の灯と共に  作者: レン.S
第4章 やるべき事
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11話 女の園③


 保育園では、同学年の子ども達別に分けて保育をする事を「横割り保育」、異年齢の子ども達で行う保育を「縦割り保育」と呼んでいる。

 どちらにも数々のメリット、デメリットが存在するが、大きなメリットとして挙げるならば、「横割り保育」では子ども達の発達に合わせて無理のない生活を送る事が可能。「縦割り保育」では年齢が上の子どもが下の子どもの世話をして思いやりや優しさを育てる事が出来たり、年齢が下の子どもは自然と上の子どもの行いから学習する事が出来る――と言った点であろうか。


 『不滅の灯』拠点村での孤児院は、子どもの数が少なく、また発達の状態も様々。年長者のアルクとイオーラに至ってはほとんど大人同然の扱いを受けていた為、自然と縦割り保育……と言うか、大きな「家族」の様な感じになっていたのだが。


 対してこの孤児院には様々な種族の子どもが四十二人過ごしているのだが、横割りも縦割りもあったものでは無い。食事の際は補助の必要な小さな子どものみ別のテーブルで過ごしてはいるが、その他の時間は全てごちゃまぜで生活している。シスター達が彼らの発達の違いを考慮して保育を行えているのならばそれでも構わないと思うが、残念ながらそうでは無い。


 アンルニルが声を枯らして恐怖政治……もとい、恐怖保育を行っているからこそ、これまでなんとか大きな事故も無く過ごせて来ているだけ。彼女が目を離せば、どうなってしまうかはお察しだ。




「シスター・アンルニルはしばらく休養が必要だそうです。彼女の代打として私が泊まり込みで入りますのでよろしくお願い致します」

「は、はい……」


 子ども達の食事中に、私はシスター達に手早く事を説明した。

 猿の獣人シスター・アモネ、小人のシスター・リリーン、エルフのシスター・ドゥパラ……彼女達は戸惑いを隠しきれない様子だったが、とにかく今は従わざるを得ないと判断したのだろう、互いに目配せをし合いながらも受け入れてくれた。

 しかし安心するのは早い。私が調子に乗って何もかも独断で指示をし始めれば、彼女達がボイコットを行う可能性だってあるのだ。二日間では、彼女達と信頼関係を築くには短すぎた。

 ――ならば。


「――正直、パナエス先生に紹介した頂いたから……と言う理由だけでの抜擢ですから、私も不安で……至らない所も多々あるとは思うのですが……その、色々教えて頂けると嬉しいです。ただ、シスター・アンルニルからも“試験的”に違う事をやる許可を頂いているので、そこは協力して貰いたいのですが……」


 私が代打になったのは政治家の力があったからと自分から言う事で、私が彼女達より能力が上だとかそう言う事では無いとアピールした上で、助力を乞う姿勢は忘れない。そして私はあくまで新参者で、仕方無しにこの仕事をしているんだ……と伝える。その上で、これから私が行う事は、アンルニルにも許可を得た上だと聞けば彼女達も渋々ながら従う……そういう作戦だ。


「わかりました……やってみましょう」

「ありがとうございます、シスター・ドゥパラ」


 また離れた所でクロが私を指さして笑っているが、見えていない事にしよう。私だって本当は口先で人を動かす事はしたく無いのに。そして人を指さすのはやめなさいと口を酸っぱくして言っているのだが、全く聞かないのは……誰かさんに似たせいだろうか。


「ではまず、子ども達を三つの班に分けたいと思います」

「三つの班……?」


 シスター・アモネが茶色の太めの眉を寄せつつ私に聞き返してきたので、私は大きく頷きつつ手元の紙に三つの大きな四角を描く。この中に子ども達の名前を書いていくのだ。

 私は子ども達の様子を見つつ、シスター達に質問をしていく。彼女達の答えから、子ども達を一旦の発達順に分ける。どうせ種族が違えば年齢と発達の目安もバラバラだ、とりあえずは大体で良い。

 発達別に分けてから、三つ全てが大体同じような発達の子ども達が混ざるように縦割りの班を作っていく。このシスター達が一人につき十四人も見るのは、なかなか難しいだろうから、発達が上の子どもが下の子どもの面倒を見る様に仕向けていくのが無難だ。


「一人は全体を監督し、どこかトラブルがあれば駆けつける様にしましょう。本来であればシスター・アンルニルの役割ですが、今回は私が担当します。今日からしばらくはこの班で過ごして貰います。子ども達には食事終了後に説明しましょう」

「ええ……」


 不安そうな面持ちで私を見上げてくるのはシスター・リリーンだ。背格好の小さな彼女は、金髪のセミロングや童顔も相まってお人形の様に愛くるしい姿をしている。彼女にしてみれば、一人で十四人を担当する、と言うのはプレッシャーかもしれない。四十二人を四人で見るのとは、責任の大きさが違う。


「――大丈夫ですよ、シスター・リリーン。子ども達は普段から皆さんと過ごしています。きっと協力してくれます。私が監督役に就いたのも、子ども達との信頼関係が築けていない私が班に入るのを避けた為です。……十四人と聞くと大変かもしれませんが、サポートは任せてください」

「……わかりました、やってみましょう」


 シスター達はなんとか飲み込んでくれた様だ。




 それからは怒涛の様な時間が過ぎた。


 子ども達に班分けを説明すると、大ブーイングが返って来た。ほとんどは「〇〇ちゃんと一緒がいい」「あっちのシスターの班が良かった」という主張だ。この班分けは仮のもので、またすぐに変えるかもしれないからと説明すると、ぶーぶー言いながらも従ってくれる様子だった。


 折角班に分けたのに一所に居ては意味が無い。彼女達には別室へ移動して貰う事にした。子ども達は初めは戸惑っていたものの、大人よりも順応は早い。私も各班を回っては、年長の子ども達に、


「幼い子の面倒を見てあげてね」


 と、声をかける。なんなら担当制にしてしまった方が良い気もするが、ここはシスター達の判断に任せよう。


 寝室に関してはベッドを今から移動する事は出来ないし、そんな大がかりな事をすればアンルニルもさすがに起きて来そうなのでそのままにする事にした。

 食事、活動の時間になんとなく分かれていれば良い。今のところは。





 班ごとに分かれている所を、年長の子ども達に赤ん坊たちの寝かしつけの手伝いをして貰いながら、小さい子から順に寝かしつけていく。生活リズムに関しては、アンルニルがしっかりと管理していたのか、普段眠る時間になると子ども達も目を擦っていたので楽だった。




「サクラさん、ちょっと……」


 子ども達が寝たので、私は諸々の片付けを請け負っていたのだが、そこへアモネが小声で近づいてきた。


「何かありましたか?」

「……シスター・アンルニルは……ご病気、でしょうか」

「いえ、過労だそうです。しばらく休めば大丈夫でしょう」

「そう……ですか……」


 アモネはその言葉に、何か複雑な感情を抱いているのだろうか、俯いて私の顔を見る事もしなくなってしまった。もじもじと手をこすり合わせたかと思うと、「やはり止めておきます……」と踵を返そうとしたので、私は慌てて彼女を止める。


「その、お悩みの事とか、私が至らない所とかあったら言って下さい! どうせ一週間でいなくなる身ですし、後腐れもありませんから」


 するとアモネは、周囲を確認し始めた。そして私を物置に誘うと、扉を閉めた。薄暗い物置の中で、彼女は小さな声を益々小さくして言葉を発する。


「……私、もう続けられません。シスター・アンルニルが戻ってくるのなら、辞めます」


 その言葉は、小さかったが私に確かなショックを届けて来た。

 ……どうしよう、汗が出て来た。


「ま、待って下さいシスター・アモネ……っ、ここで貴女に去られたら……いえ、その、転職が悪いとは言いませんが、もっとこう、段取りと言うか……」

「私なんかよりもサクラさんが入って下さったほうが、シスター・アンルニルもお喜びでしょう。……もう彼女の怒鳴り声を聞くのはこりごりなんです!」

「いえ、ですから私は一週間しかいないんですって……」


 アモネはもう決定した事だと言わんばかりに、私から目を逸らす。彼女がここを辞める辞めないは勝手だが、せめて何週間か前から周知して貰うのが筋では無いのだろうか……あまりに急すぎるし、しかも原因となるアンルニルがいない所で宣言するのはずるい。せめて彼女に伝えて欲しい……それが出来ないから、私に言っているのだろうが。


「関係ありません。私は、シスター・アンルニルがあの態度を改善されなければ、ここを去ります! そうやって今まで何人も辞めていかれたのです。他の教会にだって私の仕事はあるでしょうし、ここに拘る必要はありませんもの! シスター・アンルニルが自分から変わって下さるのなら話は別ですが!」

「……わ、わかりました……私から、彼女に頼んでみます。その……誰が言って来たとは、伝えずに」

「! 本当ですか? よろしくお願いします!」

「……」


 最初から私にそう言わせるつもりだったのではないかと勘繰ってしまう程のあからさまな喜び様に、これはまた面倒臭い事に巻き込まれたぞと、私は額を押さえた。





そろそろいつもの面々が恋しくなって参りました。


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