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保育士の異世界事情は反乱の灯と共に  作者: レン.S
第4章 やるべき事
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5話 救出作戦③


 どれだけ時間が経っただろうか、未だに砦は静かなものだ。見張り台の上が無人……いや、全員が死人な事にそろそろ彼らも気づく筈。ただ待つだけでは、焦る気持ちばかり大きくなってしまっていけない。

 ソマラン側の砦の上で、私はついつい小石を指先でいじり始めた。


「……」

「そう焦るな、サクラコ」

「! く、クロ……!?」


 私の目の前に現れたのは、五歳程の姿の彼では無くネフカロン地区やその道中で見た、成長した魔王の姿だった。その低い声ですら耳にするのは数日ぶりだが、姿となるともう一か月ほど見ていなかった気がする。


「……ふむ、魔力については、もう心配する必要は無いらしい……」

「ちょっと……今まで、どこへ行ってたの?」

「どこにも行っていない。我は、ずっとこの小さき器の中……しかし、それももう終わりかもしれん」


 小さなクロの体がここに寝そべっていると言う事は、きっと彼の姿は思念体で、他の人から見えていない。私は怪しまれないよう、なるべく静かに彼へ問いかける。


「どういう事?」


 長い黒髪をさらりと後ろに流しながら、彼は眠るクロを指さした。


「”本体”の意識が覚醒している時間が長くなった事で、我が表に出る時間が少なくなったのだ。これから成長段階が上がるにつれ、我は表に出る事は無くなるだろう」

「そう、なの……。あのさ、一つ聞きたいんだけど…………貴方は、誰?」

「ほう?」


 彼は私の質問の意味を訪ねる様に、首を小さく傾げながら私を見据えた。


「クロ……じゃ、無いんだよね。私は最初、クロが成長していけば自動的に貴方になるんだと思ってた。でも……どうやら違う。クロは今、私や周りの人の影響を受けて、貴方とは全く違った人物に成長していってる……多分これからその違いは顕著になっていく。つまり……貴方は……?」

「……なるほど、そうだな。“本体”は、これまでの魔王に比べてかなり違った成長をしているらしい。良いか悪いかは分からんが。……我は、……そうだな。“素体”と言うべきものなのだろうか。鳥人の王子の言葉を借りれば、“魔王システム”における一番標準の姿なのかもしれぬ」

「でも、前に言ってたよね。私の影響を受けてるからか、憎しみをあまり感じないって……貴方が”魔王の素体”なら、それはおかしくない?」


 彼は腕を軽く組みながら、形の良い眉を寄せて「確かに」と呟いた。そして、何か非常に不快そうな表情に変わっていく。


「何かに干渉されている……のかもしれぬ」

「干渉……? どうやって?」

「それは分からん。もしもそうだと仮定したとしても、相手も不明だ。……サクラコ、本体は近々また成長する。そうすれば我が表に出られる機会はまた一段と減る。我の代わりに“魔王システム”……その謎を探ってくれ」

「! そんな、貴方が理解していない事をどうやって……」

「今は、本体の世話と観察だけで良い。そうだな、もしも解き明かす事が出来たなら……褒美はやる」


 自分の事を“素体”と称した彼は、私の目の前にしゃがみ込むと、人差し指を立てた。


「神との約束でな、その代の魔王と勇者が決着をつけた時に、勝った方は一つだけ願いを叶える事が出来る。“魔王システム”を解明した上で勇者を無事に倒せたなら、その権利をサクラコに譲ってやろう」

「え……っと」

「歴代の勇者は我の死を望んだが……それは叶わずに、封印と言う形に落ち着いていた。その為、無制限に何かを叶える事が出来るわけでは無いと思うのだが……」

「そ、それなら……私が、この世界に留まれる様にって願う事も……?」

「ほう。その程度の願いならば十分可能だろうな」


 それは、私にとってまさに願っても無い話だった。まだこの世界に残るか残らないかの答えは出てはいないが、どちらかを自分の意思で選択できるかもしれないと言うだけで心持ちは違ってくる。

 私は彼に対し、「わかった」と二つ返事で応えた。


「期待している……それでは、な」

「うん。そのうち、また」


 彼は煙の様に消えていなくなる。

 因果関係はあるのだろうか、本体であるクロはタイミングよく「うぅん」と目を閉じながら伸びをして、頭を軽く揺らしている。起きるのかとしばらく見ていたが、動きを止めてまた深く眠りにつき始めた。


「……“魔王システム”……ねぇ」


 ゴードル王子のつけた仮名称がこんな風に採用されるとは……王子が聞いたら喜びそうだ。そもそもクロが何故私のところにやってきたのだろうか。それも含めて解明していかなくてはならないのだろう。


 私が一人でうんうんと呟きながら考えていると、デズンが通信機を片手に私の傍までやってきた。


「……おい、連絡が入ったぞ」

「! ど、どうですか!?」

「無事終わったらしい。潜入メンバーをこっちに戻してくれだそうだ」

「よかった! 分かりました……!」

「……ただ、あの金髪は最後だ。あいつより先に俺らの仲間を先に呼べ……問題が無ければ全員を戻す許可をやる」

「……」


 彼らは未だにドンが信用出来ないらしい。……まぁ、それならそれでいいだろう。どうせ、“彼がいなければ姫を助ける事も出来ない”のだから。それを理解すれば大人しく召喚させてくれるはずだ。


 私は嫌味の一つも飛ばしてやりたい気持ちを抑えて、レパルダ、イオーラ、エーデン、アルクの順番でこちら側に呼び戻した。


「二人とも、怪我は無い?」

「平気」

「大丈夫っす」

「えっ、ほ、ほんと?」

「あー……これ、返り血なんで」


 アルクはあちらに送った時の服装と違う上にやけに血まみれだったので、私は一瞬彼が大怪我をしたのだと思って冷や汗をかいた。

 ドワーフ達にもなんら問題は無いらしいし、私は残ったドンを戻していいかとデズンに訴える。彼は大きく鼻を鳴らして応えたが、それを了承と受け取っていいだろう。


 ドンをこちら側に戻すと、私は少し眩暈を覚えた。体の疲れもあったが、五人の往復で召喚魔法を十回使用したからだろう。それでも距離が短いからか、まだ数回は使えそうな気がする。魔法を使い始めた頃に比べて、かなり魔力も増えて来たらしい。

 アルクと同様に、ドンも服装が変わっている。どうやらカッサ兵の軍服を身につけているらしい。


「お疲れ、ドンも怪我は……」

「いや、特にない。全員よくやった……無事に目標達成だ」

「待て……姫はいつ連れ戻すんじゃぁ?」


 デズンを筆頭に、ドワーフ達が鋭い眼光でこちらを威圧している。レパルダとエーデンは彼らに「話を聞け」と語りかけているが、元来熱くなると止まらない種族なのだろうか、聞く耳を持たないとはこの事だ。


「姫の姿が見えんようだが……」

「フン。捕らえられていた三人には、しっかり“召喚許可申請書”を書いて貰ってきた。俺達は今から車で王城の方へ戻り、その途中でサクラが姫さんを呼ぶ……それが俺達の作戦だ」

「どうして今すぐに呼べんのじゃ!」

「……少し時間をずらした方が後々の為だ。今すぐに姫さんを呼べば、あの死体の山は彼女達が作った事になっちまう。逆に、死体の発見と脱走のタイミングがずれていれば砦の中は混乱するだろう……上手くいけば、味方同士で揉めてくれるかもしれないしな。だから、あっちの砦がパニックになったのを確認次第連絡をくれ。そうしたら迅速に姫さんを呼ぶ」

「ここに待機しておるわけには……いかんか。この砦は"いつも通り”と、塀の外の見張り連中に思われていた方が、都合が良い……そういうわけじゃな」


 デズンはようやっと納得してくれたらしい。砦駐在の兵士達に事の次第を説明し、何人かのドワーフは王城へ戻る準備を始める。

 私達も車へ戻ろうかと話していると、茶色の髭の男とドワーフにしては細身の男がアルクとイオーラに向かって歩いて来た。


「じゃぁな、坊主、嬢ちゃん」

「は、はいっ」


 レパルダとアルクが握手を交わす。エーデンはイオーラに右手を差し出そうかと悩んだ様子だったが、彼女がツンと横を向いたので、諦めてアルクに向きを変えた。


「いいの? イオーラ」

「だって私、あんまり活躍してないもん……」

「見張り台でスムーズに動けたのはイオーラのおかげでしょ、自信持って」

「うー……いいの!」


 イオーラは私の背中に隠れて、首をぶんぶんと横に振っている。彼女が嫉妬をするほどに、アルクがよく動いたのだろうか。そう思うといじらしいのだが、私はレパルダとエーデンに「すみません……恥ずかしいみたいで」と一応謝罪をする。腹立たしいのか背中をぎゅっと摘ままれてしまった。

 未だに眠っているクロをおぶりながら、ドンもドワーフ二人に感謝の意を伝える。


「助かったよ、二人とも。また機会があれば共闘して欲しい」

「ああ、勿論。こっちも態度が悪くてすまんなぁ」

「姫が無事だと分かれば、デズン爺も協力するだろうよ……ではな」



 レパルダとエーデンと別れ、私達はすぐに砦から離れる。しばらく歩けば行きで使用した車が森の入口に停めたままになっており、全員それに乗り込んだ。


「三人捕まってたんだっけ?」

「ああ。姫と、兵士が二人」


 私の疑問にドンが答える。この車は確かに大きいが、あと三人も乗るのだろうか。「詰めればいけるだろ」とドンが返答してきたので、そんな窮屈な環境にお姫様を呼ぶのは忍びないと伝えると、ドン、アルク、イオーラはブッと一斉に噴き出した。何ならドワーフ達も仄かに笑っている。私と、眠っているクロのみが事態を理解していない。


「?」

「ま、呼んでみれば分かる。……通信機に連絡が来るはずだからな……そろそろの筈だ」


 車が闇の中を走り始める。車のライトは点いているが、月明かりだけでは心許ない。

 

 出発地点からほとんど離れないうちに、デズンの持つ通信機から『ガー……』と、機械音が流れ始めた。彼はそれを手に取ると口に当てて応答する。


「おう、……ふん、了解じゃ。……おい! 砦の方、いい塩梅でパニック状態だそうだぞ!」

「わ、わかりました……車停めて下さい」


 あちらの砦は、こちらの思惑通りに混乱してくれているらしい。捕らえられていた三人に書いてもらった“召喚許可申請書”を、ドンから受け取る。


「あと三人、いけそうか?」

「うん……距離も近いし、大丈夫」

「そうか。悪いな、頼んだ」


 もしかしたら魔力切れで頭痛などが起こる可能性もあるが、これさえ終わればあとは車で眠っていればいいだけだし、とにかく仕事を終わらせよう。優先順位は勿論……ソマラン王国の第一王女……タヅ姫、である。


 私が魔法で彼女を召喚するのを、ドワーフ達はそわそわと落ち着きなく待っている。

 タヅ姫の“召喚許可申請書”を影に放り込み、力を使う。疲労もあり降ろす場所に細心の注意を払って呼んだので、彼女はゆっくりと光を纏いながら私達の目の前に現れた。


 ドワーフらしい体型に、燃える様な赤く長い髪とヘーゼルの瞳。彼女はこちらを見るとすぐに状況を理解したらしい。ニマァ……と、"王女らしく無い”笑い方を披露した。


「ぷっ……あーっはっは! 本当にあんな紙切れ一枚でこうも容易く出られるとは思わなかったよ! 心配かけたねぇ、アンタ達!」


 彼女は豪快に笑い飛ばした後に、車のボンネットにどすんとあぐらをかいて、月を仰ぎ見た。二日ぶりの月光や夜風を満喫している様だ。


「タヅ姫様よくぞ無事で……」


 デズンやドワーフ達も彼女の様子に酷く安堵したらしい。力の抜けたような笑い声が車内を包む。私は残り二人も召喚しなければと考えつつも、タヅ姫からなかなか目を逸らせないでいた。


「――な? ちょっと座席を詰めたくらいじゃ動じねぇよ」


 耳打ちしてくるドンのそれは、彼女を褒めているつもりなのだろうかと私は疑問に思ったのだった。





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