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6話 城下町

 ケリクツト第一王子ゴードルとの邂逅の後、私はすぐにその場にアルクを召喚した。私が直接謁見の間に行ければよかったのだが、石化したクロや他の子ども達を置いていけないため、誰かを強制的に呼んだ方が早いと判断した。

 そしてアルクに頼み、もう一度謁見の間に向かってドンからネフカロン地区との連絡に使っている通信機を借りて来て貰うという二度手間を踏ませてしまった。


 ちなみにネフカロン地区には、『不滅の灯』が離散し、村を追われたタイミングで「今すぐにはマザーを呼べない」と説明済みだ。ところで、ドンはいつマザーをあの場所から避難させるつもりなのだろう。私達はケリクツトからすぐに出る事になるだろうから、その後に間違いはないのだが。


「――なるほど、分かりました。ありがとうございました」


 私は通信機の電源を落とす。マザー・ネフカロンと直接話す事が出来た。

 

 まず、クロの石化の状態はゴードル王子の言う様に、“魔王になる成長段階”の一つであると伝えられているとの事だった。そして、急にこの状態になってしまった原因としては、“母役である私からの魔力の供給量がある程度に達した”から、と予想されるらしい。

 そして、もっと多くの魔力を送る事が出来れば、魔王への成長スピードは上がっていく。出来るだけ効率よく魔力を与えていかないと、成長が遅くなってしまう、とマザーは最後に付け加えた。



「効率良く、っすか?」


 私は、会談を途中で抜けてしまったせいで戻り辛くなってしまったアルクに、今のマザーとの会話の内容をざっと話した。


「うん。私がたくさんご飯を食べたり、よく寝たりって生活習慣を整える事も大切だけど、それだけじゃ時間がかかるかもって。どこか魔力が補給できるような場所があればそこへ行くといいって」

「魔力を補給できる場所ってどこっすかね」

「マザーが言うには、ケリクツトのどこかに魔力の湧く泉があるって噂を聞いたとか……」

「なんすかそれ。気になるっす」


 噂は噂でしか無い……のだが、正直私としても、クロをなるべく早く魔王にする必要性を感じ始めていた。ケリクツトとカッサがいつ戦争を起こしてもおかしくない状態であるのならば、ドンの計画を遂行するためには完全に復活した魔王が必要不可欠だからだ。

 魔力の補給場……つまり、マジックスポットとも言える場所を見つけながら進む事が、私達の旅には重要になってくるのかもしれない。


「ヒィナさん、ミィラさん、は……そういう泉を知ってます?」


 私は、その場にいるこの国在住の民である二人にそう質問を投げかけた。

 二人は少し互いの顔を見つめた後、「レオダール様にお聞きになって下さい」と同時に口にした。この答え方だと、「ある」と言っているのも同然な気がしなくも無いが……。


「分かりました。そうしますね」





「……と、言うわけなの」


 会談を終えて戻って来た、ドン、ロンド、イオーラに事のあらましを説明する。会談の中、私達が『不滅の灯』を抜けると言う話もしてきたらしく、完全に他のメンバーとは別行動にされてしまったらしい。色んな機密もあるだろうから仕方ないだろう。

 ロンドは「クロちゃ~ん……」と、石化したクロに涙目だ。


「はーん……で、ゴードル王子とマザーの言っている事はほぼ同じだったわけだ」

「うん……」

「明日の朝にでもここを出るつもりだったんだが、少し難しそうだな。とりあえずクロが出てくるまではこの城に置いて貰うか」


 ドンはそう言いながら窓の外に目を向ける。そして「じゃぁ少し散歩にでも行くか」と言い出した。

 完全に飽きてしまって床に転がり始めていたオルレリがそれを聞いて、「おさんぽ!!」と飛び起きてドンの所へ走って来る。


「おう。ケリクツトならお前らがウロウロしてても何も言われないからな」

「ほんとっ! わーい、みんなでいこー!」


 オルレリがエルやカントにも早く立ち上がって準備をするように促し始める。すると、ウルヒムが私のスカートを引っ張った。


「どうしたの?」

「あの……オレ、マッテオさんと、お話しにいってもいい?」


 マッテオはウルヒムの剣の師匠をしている。もうすぐ離れ離れになってしまうため、話しておきたい事がたくさんあるだろう。


「じゃぁ私が連れてってあげるわよ」

「いいのイオーラ?」

「私も、ニーナさん達と話しておきたい事あるしね。アルクも行くでしょ」

「そうだな、行っておこうかな」


 すると、城内を探索したいと言うエルもウルヒムやイオーラに同行する事になった。まだよちよち歩きのキルンも一緒に面倒を見てくれるらしい。

 私はクロの傍で留守番をしていようと思っていたのだが、オルレリとカントが「ママもー!」と怒り始めたので、応接間での待機はロンドに頼むことになってしまった。


「私も会談で疲れたのでぇ……ここで休んでいた方がありがたいですぅ」

「本当? じゃぁお願いね」

「お任せくださいぃ~」





 鳶色の鳥人の片割れに王城の出入り口まで案内をしてもらって、私達は外に出た。初めて歩く街並みにオルレリとカントは大興奮で、手を繋いでいなければどこかへ飛び出していきそうだった。


「迷子になるといけないから、ママと手を繋いでいてね」

「はーい!」

「ぼくはリーダーとつなぐー」

「ん? いいぞ、ほら」


 カントと手を繋ぐドンの後ろを、オルレリと手を繋いで付いて行く。どこへ行こうかと迷う素振りが無いが、目指す場所でもあるのだろうか。


「どこへ行くの?」

「ああ、ちょっと知り合いに会いにな。魔力の湧く泉、だっけか。どうせ城の奴は教えくれないだろうし、昔の馴染みに聞こうかと」

「知り合いがここに住んでるんだ?」

「ああ。よく出入りしていた工房があるんだよ。潰れてなけりゃな」


 所狭しと店が並ぶ道を進んで行く。ドンが道中に売っていたお菓子をオルレリとカントに買い与える。城に留守番の子ども達の分もしっかり確保した。


「ありがとうリーダー」

「おいしいね」


 丸い焼き菓子を頬張る姿はとても愛くるしい。出来れば写真を撮って残しておきたいくらいだった。


「ママもあーん」

「いいの? カントの分少なくなっちゃうよ?」

「ママにたべてほしいの!」

「あ、ありがとう~……ん、本当だ。美味しいね」

「へへー」


 カントが私の口に、素朴な甘みのある焼き菓子を少し運んでくれる。私が食べると、カントは照れ臭そうに笑った。それを見たオルレリが「わたしのも!」と言ってまた食べさせてくれる。お菓子もそうだが、小さな優しさでお腹も胸もいっぱいだ。


「ありがとう二人とも。でもあとは自分で食べて? 折角買って貰ったんだから」

「うん!」


 むしゃむしゃと店先のベンチに腰掛けて必死にお菓子を食べている。そんな二人を見ながら、私はドンに「ありがとね、買ってあげてくれて」と言う。


「これくらいで喜ぶんだから安いもんだよな、子どもって」

「お菓子もそうだけど、町で買い物するのも初めてなんでしょ? そりゃ嬉しいよ」

「……こいつらにとっちゃ、この国に残ってた方が幸せなのかもな」


 この子達を、マリオ達が率いる反乱軍に預けるわけにはいかない。ドンがこの国を出て行くのなら、この子達も私と一緒に付いていく事になる。次の国、次の町がどんなところかは分からないが、このケリクツトの城下町の様に豊かな場所であれば良いと思う。


「ごちそうさまでした」

「おいしかったー」


 あっという間に食べ終わり、ベンチから立ち上がるオルレリとカント。服にぽろぽろと零れてしまったお菓子のくずを、ドンが手で払い落す。


「よし、あと少しで着くからな」



 お菓子屋の通りを真っ直ぐ進み、二回ほど角を曲がった先に彼の目的地はあった。

 レンガ造りの建物の看板には「工房・牙」と、少し恐ろしい名前が掲げられている。工房の名前としてはどうなのだろうか。


「店主が大雑把なんだよ」


 そういう問題なのか。

 窓から中を覗いてみると、陶芸品が数多く並べられている事が分かった。その奥を進むと作業スペースへと繋がっているらしい。


「ん……?」


 中を覗いていたドンは、不意に不思議そうな声を出した。何か問題でもあったのだろうか。窓を覗く私達の下で、オルレリとカントがぴょこぴょことジャンプをしている。


「わたしもみたいー!」

「ぼくもー」

「あーあー、ちょっと待て。今から中に入る」


 縋りつき始めた二人を引っぺがしていたドンの背後に、突如として大きな影が現れる。


「……おい、うちの店先で何をしてる」


 唸るようなドスの利いた声に、私と子ども達はビクビクっと体を震わせ硬直した。その相手は、獅子の頭を持つ獣人だった。口を開くと、ゴブリンの子ども達のものとは比べ物にならない立派な牙が見える。

 店を覗いていた事が気に食わなかったのだろうか、見上げなければいけない高さにある顔からは不機嫌そうな表情が窺える。


「あ、あの……っ」

「よぉ店長! 久しぶりだな!」


 舌が回らない私の横で、ドンは明るく声を掛け始めた。

 獅子頭は「ああ?」と口にしながらもドンの顔をまじまじと見つめる。段々と距離が近づいていくので、彼が食べられてしまうんじゃないかと私は冷や冷やした。

 そしてしばらくしてから、指をドンの方に向けて、


「お前、ドルータ商会のボンボンか! 久しぶりだなぁ!」


 と破顔した。





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