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2話 船上は戦場


 甲板には十名前後の乗組員達が戸惑いながら様子を窺っている。戦闘能力は期待できないが、彼らも海の男達だ。この期に及んで叫んだり慌てふためいたりはしていない。しかし武器を捨てて身一つの彼らを、身の隠す事が出来ない甲板の上に放置するのはあまりに不憫である。


「魔法使い組で乗組員の避難を頼む。俺、アッドルフ、マッテオで船前方へ。ニーナ、アルク、イオーラは船室付近から後方にかけてで防戦しろ。無理はするな」

「了解」


 ドンの言葉通りに私達は移動していく。船室の木の板を協力して少し剥がすと、ロンドはそれを右手に持ち、左手には木製の大きな盾を出現させた。


「サクラさぁん、お願いできますかぁ」

「分かった。でも戻すのは……」


 ロンドを召喚魔法で移動する事は可能だ。しかし、乗組員達には“召喚許可証”を書いて貰っていない。こちらに戻る時は甲板を歩いて戻らなくてはならなくなる。


「大丈夫ですぅ。その為の盾ですからぁ」

「私が筋力強化を付けるわ。敵が攻撃して来ても、テヒングとランの魔法がある。大丈夫よ」

「ありがとうございますぅ、リンダさぁん」


 それを見ていた後方のイオーラが、「私が撃つから平気よ」と声を掛けてくれた。非常に頼もしい限りだ……が、私はイオーラを戦場に出すのは正直躊躇われた。勿論アルクも。


「……あのねぇ、ここで他の人がやられちゃったらどうすんのよ。…………もう、分かったわよ、その顔怖いからやめて。ちゃんと自分の身は守るって」


 私が無意識に圧力をかけてしまったらしい。イオーラは呆れ顔で「集中しなさいよ」とそっぽを向いた。

 確かに今は戦闘中だ。ロンドのサポートをしっかりしなくては。


「じゃぁ行くよ……」


 私はいつも通りの手順を踏んで、ロンドの体を船の前方右斜めへと移動させる。彼女はすぐ傍の乗組員の頭上に木の盾を掲げると、目立たない様にしゃがんで歩いてこちらに戻ってくる。戻り際にもう一人回収してくるつもりの様だ。


「動くなぁっ!」


 指揮官と思わしき白銀の翼の青年が叫び、鳥人達の指揮を執り始める。

 鳥人の半数程は何も持たずに構えているが、もう半数は手に弓や槍を手にこちらを威嚇している。


「彼らは商船の乗組員。この状況とは関係が無いから避難させているだけだ! 武器も海に捨てていただろう、彼らからはそっちに攻撃する事は無い!」

「そんな言い訳が通用すると思っているのか!」


 茶色の羽を持つ鳥人が二人、ロンドに向かって鉤爪で攻撃しようとする。ぐっと身を屈めるロンド。私はロンドだけでもこちらに回収しようかと思ったが、「大丈夫」とリンダが囁いたのでその手を止めた。


 二つの影がロンドの正面と背後をえぐろうとしたその時、一人の鳥人の片羽をマッテオが的確に裂き、もう一人の鳥人の足をイオーラの矢が貫く。二人の鳥人は呻き声を上げながら甲板の上に転がった。

 白銀の翼の青年は色白の顔を赤黒く染め上げながら怒りをあらわにする。


「貴様ら! 抵抗すればどうなるか分かっているのかッ!?」

「……勘違いするなよ。こっちは無力な乗組員を救助しようとしただけ……そっちが先に仕掛けて来たんだ」

「クソがァッ!」

「……やれやれ。どうやらとんだお坊ちゃんみたいだな」


 ドンもどうやら対話をする事は諦めたらしかった。腰の剣を抜いて相手に向き直る。


「少しだけ痛い目を見て貰うぞ。……何、命までは取りやしないさ」


 白銀の翼の青年をのすぐ近くを飛んでいた鳥人四人の槍隊が、船前方組……つまり、ドン、マッテオ、アッドルフを狙って、甲板のすぐ上まで舞い降りてくる。

 槍と剣ではリーチに差があるため、剣士にとっては不利な相手である。


「らぁっ!」

「!」


 槍使いの一人がドンの腹部を刺そうとする。彼はそれを既の所で避けると、槍の柄を自分の剣で弾いた。ドンに突っ込んで行った時の勢いが強すぎたのだろう、弾かれた際に自分の仲間へと衝突してしまった。

 それを見てホッと息を付いたのも束の間、別の槍使いが今度はアッドルフに攻撃を仕掛ける。分厚い鎧に阻まれはしたが、彼が反撃しようとした時には鳥人は間合いから飛び去ってしまっていた。

 そして、ドンとアッドルフが防戦しているその横――ロンドの加勢をしていたマッテオの背中を、他の仲間の陰に隠れていた槍使いが姿を見せて素早く狙ってくる。


「ヤァァッ!」

「くっ……ぐぅっ」


なんとか体を逸らして致命傷を回避したものの、マッテオは左肩付近に深い槍傷を負ってしまう。


「マッテオさん!」


 私はそれを見て急遽、魔法で彼を背後の船室まで移動させる。すぐにリュナウドがそばに駆け寄り回復魔法を使用したが、この傷ではすぐに戦闘に復帰するのは難しいだろう。


 その間にロンドが二人の乗組員を船室に誘導して戻ってきた。乗組員の何人かは自力で避難も終えている……船の前方左斜め付近に三人程動けず固まっている以外は、こちらがわざわざ回収しなくても問題は無さそうだ。


「次、俺も一緒に出ます」

「テヒングさんありがとうございますぅ……サクラさぁん、いいですかぁ?」


 次は襲われそうになったらテヒングの幻覚魔法で敵を散らす作戦らしい。私は頷くと、二人を船の前方へと飛ばした。

 鳥人達はまだ十人程空にいる。白銀の翼の青年の指示が入ると、手に何も持たない四人の鳥人達が船の前方、後方に半数ずつ分かれ始めた。そして、一斉に鋭い鉤爪で攻撃を始めた。


 前方はドンとアッドルフの二人が相手をしている。先ほどマッテオに羽を斬られた鳥人と、イオーラに足を撃たれた鳥人も加勢し始めたため、数的には二対四で不利に見えるのだが、テヒングが“幻覚魔法”を使ってくれたらしい。四人ともあらぬ方向に鉤爪を向けたり、爪で切り裂こうと藻掻いている。そんな彼らを大人しくさせる事は、前方の二人にとって造作も無い事だったらしく、思いの外すぐに鎮静化した。


 問題は後方だ。鉤爪を使ってくる鳥人は二人なのだが、弓使いが同じく二人、上空から狙いを定めているのが目に入った。

 彼らが狙うのは、たった一人遠距離武器を持つ少女……。


「イオーラ!」

「……サクラ、上げて!」

「! わかった……!」


 私はイオーラのサインの入った“召喚許可証”を二枚手に取る。そして一枚を使い、彼女を上空へと送った。

 的が突然消えて唖然とする弓使い達の背後少し高めの位置に、弓を引き絞った姿勢のままの少女が現れると、迷いもなく矢を射る。


「アッ」


 その矢は弓を持っていた鳥人の腕に難無く命中する。しかし、もう一人の弓使いが落下している少女を逃がすわけが無かった。


「この娘っ!」

「フン、だ」


 今度こそイオーラが餌食になる……そのタイミングで迅速にイオーラを、船のマストの見張り台の上に召喚し直す。

 またしても的を失った弓使いは、慌てた様子でキョロキョロと辺りを見回した。


「ばぁーか」


 イオーラの放った矢は、またしても鳥人の手に当たり弓は海に落ちて行った。手を抑えながらイオーラの方へ突撃しようとする鳥人だったが、彼女は焦る様子も無くもう一本の矢を射る。その矢は鳥人の羽の根本付近に当たった。


「早いっ」


 鳥人はバランスを崩して甲板の上に叩きつけられそうになるが、もう一枚の羽で風を起こし、なんとか甲板に着地する。だが、そこは私達が根城にしていた船室の目の前。血の流れる手を押さえ、悔しそうに顔を歪めさせた鳥人を乗組員達が総出で縛り上げる。


 船後方のニーナとアルクに襲い掛かっていた鳥人達の攻撃も、二人は反撃こそ叶わないもののうまく防いでいる様子だ。

 私も少なくともあと五回は魔法が使えるはず。他の仲間にも未だ力を使っていない者もいるし、援軍さえなければこの場はなんとかなりそうだ。


 ロンドやテヒング、そして見張り台にいたイオーラも船室側に戻ってくる。


 上空にはもはや三人の鳥人しか姿が見えなくなっていた。

 ドンは改めて白銀の翼の青年に語り掛ける。


「降りて来て、ちゃんと話を聞け。俺達は……」

「貴様らなんぞの話に耳を貸すか!」

「聞け!! この船にはカッサ王国第一王女が乗船している。彼女を保護したいと言い出したのはそちらの筈だ!」


 するとその言葉を聞いた青年は、体を震わせ、憎悪を剥き出しにした表情でこちらを見下ろした。青年にしては少し高めの声を枯らさんばかりの怒号が降ってくる。


「よくもぬけぬけと! 国境付近でカッサ王国兵がエミーリを捕らえたと、情報が入っておるのだ、たわけが!! こちらがそれを知らぬと思い、商船を装ってケリクツトへ上陸しようとしたのであろう!」

「――なんだと?」


 ドンは「ハァ」とため息を吐く。どういう事だろう。私は近くにいたマリオに目線を送る。


「……カッサ側の隠蔽、かな? あの鳥人が嘘を言っている様には見えないし」

「そっか、エミーリ王女の逃亡が噂になってたから、事実を塗り替えようとしてるんだ……」


 私は納得したが、鳥人達はまだ諦めていないらしい。三人だけでも捨て身でこちらに向かってこようとしている。

 全員が武器を構え直した、その時……私達の背後から響いたのは、可憐だがよく通る少女の声。


「……あらまぁ、それは撹乱の為の方便でしょうに。ヴァーラル、貴方のお兄様方もそうおっしゃったのではありませんの?」


 私達の背後――船室から姿を現したのは、エミーリ王女だった。

 ヴァーラルと呼ばれた白銀の翼の青年は、大きく目を見開いて彼女を凝視する。


「エミーリ!?」

「お久しぶり。……全く、様子を窺っていればそういうお話。これは貴方の独断って事ね? もう、後から叱られますわよ」

「お、お前はどうしてそこに!?」

「ですから、ドン様がおっしゃる通りですわ。わたくしはこの船でケリクツトに保護して貰う為に向かっている最中でしたの。……ほら、お迎えが来た様ですわよ? たっぷり絞られて下さいな」

「げっ」


 王女が視線をやった先には、こちらに向かってくるいくつかの影があった。それを確認すると、ヴァーラルは顔を青ざめさせ、体を硬直させた。

 それを見て王女はくすくすと笑い、船前方にいるドンは「人騒がせな……」と愚痴を零している。


 ……どうやら船上の戦闘は一旦終結したらしい。

 




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