16.5話 敵襲:Another Side.2
「敵襲」Phase2:北の森にて
ニーナ、マッテオ、テヒングの三人は、『不滅の灯』が拠点にしている教会の裏、北の森へと出向いていた。ここに敵がいるらしい。……らしいと言うのは、彼らにはクロが魔王であり、魔王の言葉を桜子がドンに伝えている……この辺りの事情を知らされていないためだ。
三人は、リーダーであるドンの勘でここに送られてきたと思っている。ただ、正面入り口の敵が“合図”の様な物を出しているのだから、どこかに敵は隠れていると言うのは間違いないだろう。それがこの森であったとしても何も不思議はない……そう考えていた。
「敵、いますかね」
「テヒング、無駄口を叩かないの」
「……はい」
美人にぴしゃりと叱られて、テヒングは体を小さくさせた
細身の剣士であるマッテオは、二人の先にある木々の陰に体を隠しながら、月光を頼りに敵を捜索している。
そして、左手をすっと上げた。三人内の合図だ。“敵がいた”。
「!」
そして、指を使って人数を知らせてくる。“七人”、と。
「テヒング……不意打ちなら、できるわね?」
「勿論」
ニーナがぽそりと彼の耳元で囁く。それに照れたのだろう、くすんだ金髪の青年は頬を少し赤らめて頷いた。
二人はマッテオが待機していた位置まで体を屈めて歩を進める。
テヒングの瞳が七人の敵を捉える。
彼の能力は“幻覚”を見せる事。不意打ちであれば成功率はほぼ100%。しかし、同じ敵に何度もかけるとなると、段々と威力や成功の確率が減って行く。
幻覚の内容は、その時に抱いている“恐怖”。この場合ならば、この兵士達にとっての恐怖、脅威……それは、突然に何人もの敵に囲まれて攻撃される事、だろう。
「さぁ、パーティの始まりだ」
テヒングが両手を振り上げる。
赤い光がその場を包み込んだかと思うと、突然兵士達は剣を引き抜き何もない場所に向かって声を荒げ始めた。
「効果が切れる前に行こう」
「ええ」
マッテオとニーナが、半狂乱になる兵士達の前に駆けて行き一戦交えに行った。当然どちらが勝利するかは決まっているのだが。
これでここにいる敵は一掃できる……そう、テヒングが胸を撫でおろしていた時、突然火の玉が三つ、爆発音と共に空に発射された。
「しまった!」
幻覚防止の魔法具でも身につけていたのだろうか、それとも距離が遠すぎたのか、奥にいた魔法使いには幻覚が効かなかったらしい。
合図と思わしき火の玉を出した後は、こちらへと向き直り手をかざす。かなり強力な魔法使いだ、テヒングは一層身を屈めて体を隠した。彼に出来る事は今は何も無い。
マッテオとニーナは出鱈目に剣を振るう兵士の攻撃をあっさりと躱し、それぞれが一人ずつ兵士を切り捨てる。
これで、北の森に潜伏していた兵士は五人になった。……が、火の玉を何発も打ってくる魔法使いがいるとなればかなり状況的には不利だ。
「テヒング、次はいつ打てる!?」
「も、もうちょっとかかります……!」
「そうだよなぁ……」
マッテオはテヒングの言葉に一瞬頭を悩ませた。彼の魔法は何発も続けては打てない、多少チャージが必要なのだ。
こんな時、リーダーであるドンならどうするだろうか……。
「……テヒングが魔法を打つ準備ができるまで、防戦で持ちこたえよう。それで、もう一発……今度はあの魔法使いに向けて打って貰ったら、俺達は身を隠す。いいな」
「ちょっと、そんな弱気でどうするのよ!」
「焦るなニーナ。……さっきの火の弾は、“援軍の要請”だと思う。今に俺達は大勢の兵士に囲まれる……隠れて、奴らの動向を探る」
「……分かったわよ」
マッテオの作戦、そして読み通りに事は進んだ。
三人の剣士、そして魔法使いの攻撃を躱しながら時間を稼ぎ、テヒングはしっかりと魔法使いに照準を合わせて魔法を打つ。今後はしっかりと決まったらしく、魔法使いは何発も連打していた火の弾を止め、なにやら喚き始めた。
「ちょっと、今のうちにやれるんじゃないの?」
「……いや、やっぱりだめだ。馬が来る」
「か、隠れましょう……!」
「んもう!」
西入り口からの援軍が、北の森に残っていた兵士と合流した。まずは騎兵が四騎。しばらくして剣士が四人も合流するだろう。合わせて十三人の兵士は、ニーナ達を捜索し始める。
しかし……教会の屋根の上が怪しいと、気づくまでにそうは時間がかからなかった。
***
「敵襲」Phase3:正面入り口にて
北の森から“援軍要請”の合図が上がるのを見た、村正面入り口に待機していた本隊。ケインはすぐ様指示を出す。本体を二つに分け、片方は待機して逃げ出す者がいないかを見張る事、そしてもう片方は援軍として北の森に向かう事。
正面入り口にいた騎兵はラムダスだけであり、その馬はラムダスがやられた時にパニックを起こして走り去ってしまった。そのため、正面から送る半分の兵士――内訳としては十人の剣士と二人の弓兵の十二人――は、走って向かうしかなかった。
「先ほどの様に奇襲をかけられる可能性がある、なるべく前の者と離れんように!」
ケインはそう兵士達に叫んだ。
彼は運が良いのか、悪いのか。またしても自分の仲間が無残に散る様を見なければならない。
光の束だ。
瞬時にそう思った。しかし、思えただけだ。避ける事は出来ず。避けようと判断する事さえ叶わなかった。
超高密度の光の束が十二人の兵士達に向かって放たれた。ジュッという音が残す意味……それは、仲間がその光に丸焼けになった、という事。
「ぐあああぁぁッ」
固まって走っていた兵士達は、残らずその場に転がり悶え苦しんだ。
ロヘイネルが放った光線は、四人を葬り去り、残った八人を瞬く間に戦闘不能にした。そして生きている八人の中の数名は、体のいずれかの部位を失う結果となった。
そしてそれは、ケインも例外では無く。
「ぐ……ッ、く、くそ……」
つい数分前にそこにあったはずの左足……左膝のあたりから下が、無くなってしまっていた。一つだけ幸運だったのは、足は光線の強い熱で焼き切れたため、表面の傷も焼き爛れていて、すぐに大量出血して死亡する、と言う事態は免れた。
しばらく後、南の森に待機していた魔法使いが、何事かと様子を見に来て回復魔法をかけてくれるまで、彼らは熱に侵された自分の傷口と戦わなければならないのだ。
「ちく、しょう……ちく……ぐううぅ……」
ケインの下唇からは血が滲み始めた。
――――許さない。
――――『不滅の灯』、そして、褐色肌に金髪の男。
――――必ずお前を殺す。ラムダスの……仲間達の仇……。
そしてケインの意識は、遥か彼方へと遠ざかっていくのだった。




