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15.5話 敵襲:Another Side.1

 「敵襲」の補完エピソードになりますので、読み飛ばして頂いても大丈夫です。

 

 

「敵襲」Phase1:カッサ王国軍ラムダス小隊。





 短く切りそろえられた黒髪に切れ目が印象的な剣士が砦の通路を歩いて行く。

 彼の名前はケイン。カッサ王国軍の一兵士だ。

 数々の問題を起こし左遷された小隊長のラムダス・ラリーに付いて、人のあまり住んでいない辺境の土地までやって来たのだ。

 任務もあって無い様なもので、兵士達も日々ストレスを抱え込んでいる。一旗上げようにも、上げられる様な事件が起きた試しが無いのだ。

 まだ国境付近にでも左遷になってくれていれば、中立国ケリクツトとの睨み合いに参戦出来ると言うのに……と、ケインは一面の野原を見て下唇を噛んだ。



 そんな中、飛び込んで来たのは――。



「レジスタンス組織『不滅の灯』のアジトがこの地区に!?」

「はい。廃村を住処にしている様です」


 ラムダス率いる小隊が寝屋にしている砦にやってきたのは、剣を抱えた屈強な男二人組。

 ラムダスはその男達を信用し兵を出す事に決めたのだが、ケインはどうにも彼らが胡散臭くて堪らなかった。


 ラムダスは『不滅の灯』が朝には村を立つかもしれないと考え、夜に奇襲をかける事に決定した。兵たちに少しでも体を休めと命じた後、背後からケインに声を掛けられる。


「ラムダス殿、本当に彼らを信じるのですか」

「ケイン、その呼び方はやめろよ。俺とお前の仲じゃん」

「しかし…………ハァ。ラムダス、俺にはどうもあの二人の事は信用出来んぞ」

「そうだな。俺もだ」

「では、何故」


 するとラムダスは自身の明るい赤髪をくるくるといじり、ニカッと笑う。


「俺のせいでお前らにはこんなところでくすぶらせてるからな。今回『不滅の灯』のリーダーの首を取れば、王都へ……とは無理でも、もう少しまともな勤務地にして貰えるだろう。俺の独断だし強行ではあるが……」

「そう、か」

「……俺、また暴走してるか?」

「ああ。勿論」


 ショックを受けた顔をしたラムダスに、ケインはぷっと噴き出して笑った。


「でも、まぁ。慣れたよ」

「……ケイン。俺よりもお前の方が、ずっと指揮官に向いてる。俺は家柄で選ばれただけだろう……せめて、お前だけでも王都に帰せたらいいんだがな」

「気にするな。ラムダスの尻ぬぐいを、俺の他に一体誰がやるって言うんだよ」

「! そうだな、ハハ!」


 ラムダスはケインの肩に腕を回し、目を細めた。

 王都に帰る時は一緒だ――彼らはそれが口癖だった。






 深夜。



 五十人の兵士を連れたラムダスとケインが考えた配置はこうだ。


 正面入り口に剣士が十九人、弓兵が七人、騎兵……すなわち指揮官であるラムダスがいる。ラムダスは魔法使いのため、村の四方にいる味方への合図も担っている。


 村の西入り口には剣士が四人、騎兵が四騎。こちらの騎兵は全員剣士なので、西入り口にいるのは全員が剣士と言う事になる。こちらに騎兵を置いたのは、『不滅の灯』が逃げ出した時にすぐ追うためだ。


 村の南の森には、剣士が八人、魔法使いが一人。

 そして、村の北の森には剣士が六人、魔法使いが一人潜伏している。


 『不滅の灯』は離散寸前で、十数人しか戦える者はいないとの事で、その情報が正しければ勝利は間違いないだろうとラムダスは確信していた。


「指揮官自らが松明を持たなくとも……」

「いいんだケイン……さて、奴らはどう動く? こちらの兵に恐れを為して、別の入口から逃げると思うか?」

「そうだな……俺は、あの教会が怪しいと思う。この村で一番見晴らしの良いのはあそこだ。もしもいるのなら今頃大慌てで戦う準備をして、今に籠城を始めるかもしれないな」

「なるほどな。では、入口近くの民家を調べつつ、教会を目指そう」


 ラムダスは兵士に、塀を越え民家を調べるように指示を出した。

 しかし彼らが来る事は読まれていたのだろう、民家の屋根には罠が仕掛けてあったのだ。

 矢が降って来た。距離の離れた場所からの攻撃の様で、威力は大した事は無く、打って来た本数も少ない。しかし、普通の矢とは違ったのは、先端に小さな灯が見えていたと言う事だ。それらが民家の屋根へと到達すると、一気に大きな炎へと姿を変え、兵士達を飲み込もうと襲ってくる。


「退避―!!」


 ラムダスは一度村の外に兵士を戻す。

 

 ――――いた。やはり、いた。


 彼は高揚する感情を抑えられずに、高らかに笑った。

 近くにいたケインがそれを咎める様に睨む。


「ラムダス!」

「すまんすまん、……賭けに勝ったなと思ってな。間違いなくここが、奴らの住処だ」

「……あまり見くびっては」

「分かっている」


 ラムダスは空に向かって片手を突き出した。手の平から発せられたのは、光の弾。“敵がいる”事を他の部隊に知らせるための合図だ。


 正面入り口に配置する騎兵は一騎。しかもそれが指揮官であり、合図を打った魔法使い。――目立ちすぎる。ケインはそれが不安で仕方なかった。しかし、当の本人は「下がっていては他の兵士に示しがつかん」と聞く耳を持たなかった。


 だからこそケインは、ラムダスからあまり離れないように心がけた。

 こちらがが奇襲を仕掛けた側で、正面入り口付近は見晴らしも良い。普通に考えれば、ラムダスが突然命を奪われる危険などあるはずがないのだ。


 そう、普通に考えれば。


「!」

「なっ」


 突然の事だった。

 何か眩しさを感じて視線を上げた。すると、ラムダスの頭上に見知らぬ男が現れたのだ。褐色の肌に、夜でも目立つ金色の髪。彼はこちらを見てにやりと口角を上げた。

 

 そして。


「ラムダスっ!!」


 次にケインが目にしたのは、迸る鮮血。舞う、旧友の首。

 怪しく光る、翠の瞳。


「ラムダス隊長!」

「あいつ、どこからッ!?」


 動揺する兵士達。突然現れた敵に混乱する戦場。

 自分もそれに続けたらどんなによかっただろうか。しかし。




『せめて、お前だけでも王都に帰せたらいいんだがな』




「――ッ! 歩兵下がれぇ! 弓兵はヤツを囲めぇッ!!」


 友の言葉がケインの耳の奥に残っている。飽きる程聞いた「いつか王都へ」の言葉。もう彼から聞く事は出来ないのだ。

 

 ――お前の短気のせいで俺まで左遷されたんだ。死んでくれて清々するさ。


 そう思えたらどんなによかったか。もしくは、今ここで泣き崩れられたら。

 でもそれは、地面に落ちていく彼の首を目の前に、到底思えるわけも無く。



「チッ」


 褐色肌の男は禍々しい光を帯びた剣を構えて舌打ちをした。

 歩兵を引かせる時に一人また斬られてしまったが、早々に弓兵で取り囲んだかいがあり、ヤツの足を止める事に成功したのだ。


 ここで仕留めるか、連れ帰って尋問するか。

 ケインは逡巡した。そしてその隙に、取り囲んでいた男の姿が光に包まれ始める。


「! しま……ッ」

「じゃぁな」


 ケインは慌てて打つ様に指示を出そうとしたが、もう遅い。

 気が付くと男の姿は消え失せ、家を焼く炎が弾ける音のみがその場に残った。


「ぐ……ぅ。取り逃がしたか……」

「ケイン殿……ありがとうございます」

「本当に……ケイン殿の指示がなければ、我々はどうなっていたか……」


 いつもの癖で下唇を噛みしめるケインに、周りにいた兵士達が賛辞を贈る。彼は片手を上げてそれに応えた。しかしまだ、戦いが終わったわけではない。


「敵はどこから襲ってくるか分からん。落ち着いて対処せよ! ここからは俺が隊の指揮を執る!」


 ケインはラムダスの首を拾い、彼の目を閉じさせた。

 

「……きっと、あいつが『不滅の灯』のリーダーだろう。必ず、俺が首を落とす。だから……」





 ――――王都へ帰ろう。一緒に。












 15話から始まった、『不滅の灯』と王国軍小隊との戦闘ですが、桜子の目線以外だとどういう動きだったのかを少し書いていきたいと思います。

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