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16話 敵襲③


 北の森では何が行われているのだろうか、ニーナ、マッテオ、テヒングの安否が気になって仕方が無かった。


「テヒングさんは魔法で幻覚を見せる事ができるんですぅ。森に敵がいる事は分かっているんですからぁ、大丈夫だと思いますよぉ」

「そっか……うん、そうだね。こっちに集中しよう」


 正面入り口付近の家々で燃え上がる炎は未だに衰えてはいない。むしろ、隣の家や畑に積まれたままの枯草に燃え移っていき、段々とその勢いを増しているくらいである。


「いいかお前ら。そろそろ正面入り口の敵さんが、炎を迂回して村に入ってくるだろう。まだ火責めにする用意はあるが、何せ小さい村だからな。燃やせるもんが無くなるのも時間の問題だ」

「じゃぁ……どうするの?」


 ドンが二人倒しはしたが、敵の数はまだまだこちらの三倍以上はいるのだ。圧倒的不利の状況は続いている。


「どこから攻撃されているかが判明するまでは、兵士がバラバラに動く事は無いだろう。正面の敵が踏み込んできたタイミングで、サクラがロヘイネルをどこかへ移動させ、ロヘイネルの魔法で攻撃。その後サクラがまた回収。当たりがよければ正面の敵は一掃できる」


 ドンがロヘイネルに視線を送ると、彼はこくりと頷いた。随分自信がある様だが、それほどまでに威力の高い攻撃なのだろうか。


「北の森の連中が首尾良く片づけて来ればすぐに合流できる。正面と北の敵を片づけた状態で全員が揃えば、目標で無かった“全滅”も狙える。そうすればゆっくりここを離れる事も可能だ……ただ、」

「ただ……?」


 ドンが口に手を当てて俯くのを、屋根の上にいる全員が固唾を飲んで見守る。


「もし正面の兵を半分も減らせなかった場合は、俺とアッドルフが敵を撹乱しに動く。まだまだ兵が残っていて骨が折れるが……な。そして、サクラにはそのタイミングで離脱して貰う他無くなる」

「そう、なの?」

「赤ん坊二人抱えたお前を守って逃げるのは難しいからな、こっちが敵の目を引き付けている間に逃げろ……まぁ、そっちのプランは使わない事に越したことは……」


 その時、私達の背後……つまり、教会の裏手にある北の森から、火の玉が三つ、爆発音と共に空に向かって飛んでいった。


「!」

「リーダー!」


 静かにドンの話を聞いていたマリオが声を荒げる。

 ここからでは北の森で何が行われているのか全く分からないが、三人は無事なのだろうか。首の後ろを冷たい汗が伝っていく。


「伝令役はまだ到達していないと思うが……くそ、マッテオ達、予想以上に手間取ってるのか」

「ど、どうしましょぉ……」

「多分今の火の玉は、まだ指揮官が生きていると思っている敵による合図だろうな……恐らく」


 ドンが何かを口にしようとした時、正面入り口に集まる敵に動きがあった。


「! サクラ、ロヘイネルを移動させる準備だ。場所は、俺が住んでいた家の屋根の上!」

「う、うんっ」

「ロヘイネル、いいな。移動したら……」


 ドンがロヘイネルに指示を出している間に準備を行う。ドンが住んでいた家……つまり、私がここへ来た一日目に泊まった家だ。――あの時に「週に一回くらいは他のメンバーと交代して、こっちで寝てもいい」……といった事を言われた様な気がするが、結局毎日バタバタとしていて、もう二度とあの部屋で寝泊まりする事は無かった。


「サクラ、準備は出来たか」

「ん、大丈夫………結局、カーテンは必要無かったなぁ」

「なんか言ったか?」

「う、ううん何でも!……よし、ロヘイネル行って!」

「はいっ」


 就寝前、全員に“召喚許可申請書”を書いておいて貰って本当に良かったと、今更ながらに思う。

 ロヘイネルの移動は成功だ。村の中で教会の次に大きい建物である、ドンの住んでいた家の屋根の上に降り立った様子がこちらからでも確認できる。


「やっぱり、さっきの合図は援軍の要請だったみたいだね」

「だな。正面から半分の兵が、北の森に移動するか……」

「ロヘイネル、当たるかな」

「……当てるさ。死ぬ気でな」


 正面入り口にいた兵が二分し、半分がそこで待機、半分がこちら側に走ってくるのが目に入る。新しく指揮をしている兵士もこちらに来る様だ。


 北へと回り込む部隊。


 その時、彼らに向けて――神の雷のごとく鋭く眩い光の束が放たれた。


 目まで焼けてしまうのではないかと思う程の熱量を持ったそれは、十数人の兵士を一気に薙ぎ払った。


「サクラ、ロヘイネルを急いで戻せ」

「わ、分かった」


 まだチカチカしている目でなんとか彼の姿を捉え、こちらに連れ戻す。


「ッ! あ、当たりました?」

「おう、狙い通りだ。……つーか予想以上か。全員吹き飛んだぞ、よくやったな」

「本当ですか? やった!」


 ロヘイネルは真っ赤な顔で笑った。この一発にかなりの魔力と体力を使ってしまうらしく、彼はそのまま屋根の上に座り込む。

 確かに、援軍として正面入り口から走っていた兵士達は、ほとんどが今の攻撃で焼け死んでしまったらしい。命は助かった数人の兵士も身動きが全く取れていない状態だ。


「安心するのはまだ早いぞ。西入り口にいた兵士達も北の森に向かってる……それに、南の森の兵士達は、今の派手な攻撃を見て村の中に入ってくるだろうからな」

「リーダーの家をそーさくしてたら、また燃やせばいいの~?」

「ああそうだな。頼む」

「あいさ~」


 カユはまたいつでも弓を引けるように準備を始める。

 丁度そのタイミングで、伝令と合流したであろう南の森の部隊の兵士達が、一斉に村の中央付近にあるドンの家へと向かっていった。


「まだまだ~……」


 じっくりと兵士達が家の中に吸い込まれて行くのを待つカユ。彼女の放つ炎の矢は、先ほどの家々と同じく無慈悲にあの家も焼くのだろう。


「サクラコ」


 またしても、クロの声だ。姿は見えないが聞こえてくる。


「北の森に集まっていた兵士達が、この教会から攻撃している事に気づいたらしいな」

「えっ」

「西入り口からの援軍と合流し、教会へとやってくる。数は……十三人」


 クロの言葉を、そのままドンに伝える。

 予想はしていたのだろう、彼はその報告に対し驚きを見せなかった。


「お前ら、敵がここにやってくる。戦えない奴は屋根の中央付近へ。他全員で迎え撃つ!」

「了解!」


 こちらには、剣士がドン、アッドルフ、カユの三人。魔法使いがロンド、マリオ、リンダ、ラン、ロヘイネル、リュナウド、私の七人。ただ魔法は用途が限られているため、戦闘に参加出来る人員は少ない。


「気張れよお前ら、もうすぐ日が昇る。逃げるなら暗いうちがいいからな」


 気づけば、ドンの家には大きな煙が立ちあがっていた。兵士達が捜索を始めたタイミングで、カユが火の矢を放ったのだろう。

 ――もう、あの家に戻る事は二度と無いのだ。


 そして、


「来たね……ニーナ達は、背後から狙ってくるのかな」


 森の方をずっと見ていたマリオが指を指した。

 十人前後……クロによれば十三人の兵士達が森から姿を現し、こちらを確認した。「いたぞ!!」と先頭の兵士が叫ぶ声が屋根の上まで聞こえてくる。


「さて……正念場だ」


 ドンを筆頭に、剣士たちが剣を抜いた。

 









村の地図については前話の物を参考にして頂ければと思います。

もし部隊の動きについて分かりにくい点がございましたら、書き込んだ地図を貼りますので、ご一報下さい。

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