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6話 休息

 『不滅の灯』と『ネフカロン地区』が無事に同盟を結ぶ事となり、私とアルクは安心して足湯に浸かる事が出来た。


「あ~幸せ~……」

「本当ですねぇ」


 到着が昼過ぎだった事もあって、すでに日が陰ってきている。今日はネフカロン地区の民家に宿泊させて貰うらしい。そこにも温泉が湧いており、しっかりと浸かる事ができるそうなので今から楽しみだ。


「さっき飲んだドリンク、効いてきたすか?」

「うん!なんだかすっごく調子良いよ。これは本当にありがたいわ」


 クロにエネルギーを取られている私のために、マザーから栄養ドリンクを渡された。それこそミノタウロスの乳をベースに、色んなハーブが調合されているらしい。

 疲労回復、二日酔いや食欲低下の改善、そして、妊娠授乳期又は産前産後等の栄養補給に効くそうだ。マザーによると、私のこの体調不良は産前産後に訪れるものと非常に酷似しているらしい。出産の経験の無い私にはよく分からないのだが…。

 当の赤ん坊を私は籠から抱き上げる。


「……さっきの話。本当に……クロが、魔王……?」

「信じ難いっす。こんな赤ちゃんが……」

「あっ。水はあげなきゃいけないって言ってたよね。今のうちにちょっと飲ませておこうかな…」


 私がまだ口をつけていないカップを手に取り、スプーンでクロの口に水を運んでいると、アルクがハッとしたように身を乗り出してきた。


「……そういえば、風呂はどうするんすか」

「何の話?……ん、よしよし~上手に飲めたねぇ~」

「クロの風呂っすよ!」

「私と一緒に入るけど」

「魔王っすよ!赤ちゃんなのは見た目だけっすよね、それって問題無いっすか!?」

「アルク、声が大きいって。…あぁ、赤ちゃんだから温泉のお湯は肌に良く無いかもしれないって事か。確かにね、一歳前後ならともかくこんな小さい子にはあまり良く無いかも…普通のお湯って用意してもらえるかなぁ」

「ち、違います……」


 ガクッと肩を落とす少年は、いつもよりも幼く見える。

 そう言えば、アルクは孤児院ではいつも“長男”をやらなくてはならず、大人の様な振る舞いを求められている。私はいつもそれが気がかりだったのだ。


「いつもありがとうね、アルク」

「えっ」

「私さ、突然この世界に来て…召喚を依頼したドンはあんな感じで放任だし、今思えば結構辛かったと思う。でも、アルクは最初から親切にしてくれて、不安な時も心の支えになってくれた」

「そ、そんな……俺は、別に……」

「だから、アルクも何か辛い事があったら相談してね。私に出来る事なんてあんまり無いかもしれないけど……一応多少長くは生きてるわけだし、“恋”の相談とか、他の人に言い辛い悩みとか……。私、アルクの事、大事な“弟”みたいに思ってるから。解決は出来なくても、話を聞くくらいは……」

「うぐうっ……」


 私が誠意を込めてアルクに伝えると、彼は胸を押さえてその場に倒れてしまった。

 急病だろうか。私は慌てて彼の背中をさすった。


「アルク、大丈夫!?」

「……おい、何止め刺してんだ」


 ネフカロン地区の人達と話をしに行っていたドンが戻って来て、いつの間にか私の後ろに立っていた。

 呆れた様な口ぶりだが、機嫌の良さが隠せていない。同盟締結が本当に喜ばしいのだろう。


「上手くいったの?」

「ああ。しかも、良いもんも貰えたしな。おい、アルクも見てみろ」

「ううぅ……」

「良い物って?」


 ドンは手に抱えた箱の中身を私達に見せてくれる。それは、この世界では目にした事の無い…。


「機械?」

「おう。サクラの世界にはこういうのがたくさんあるんだろ? ……これはな、“通信機”って物だ。多種族連合国にいるドワーフ達が密かに開発したらしい」

「通信機! ……つまり、離れた場所からでも連絡が取れる……」

「なんすかそれ!すっげぇすね!」

「俺達はマザーを預かり死ぬ気で守る。これはその報酬の前払いみたいなもんだな。とりあえず三台ある。一台はネフカロン地区と連絡を取るための物、残り二台は俺達の自由にして良いってさ」


 私があっちの世界で持っていたスマートフォンに比べると、一回りも二回りも大きくて重い。しかしその形状はとても馴染みがある。これを開発するに当たってアドバイスをした人物がいるのかもしれない、そしてそれは私と同じく異世界から来た人なのかも。


「私以外にも、召喚妖精の力でどこからか呼ばれている人って他にもいるんだよね?」

「そうだな。ただ、召喚妖精と出会えるかは運次第。そして召喚を依頼するにも手間がかかる。この大陸で見ても、召喚に至れるのは五年、十年に一回あるか無いか……って所だ」

「えっ、そんな面倒な手間をこなして、なんで私……?もっと他に適性のある人いたんじゃ」

「……さぁてな?」


 絶対なんか隠してる。そんな気がした。こういう時の直感はやたら当たるのだ。


 ドンはいそいそと通信機を片付け、私達は「絶対壊すなよ」と念を押された。怖いからなるべく触らないでおこう。

 そろそろ宿泊場所へ移動するらしいので、私とアルクは足湯から上がり、手ぬぐいで軽く水分を取る。準備をしながら今後の予定についてドンが話し始めた。


「サクラ。夜までに、村の方からこっちに一人召喚して欲しいんだがいいか。長距離でもマザーを移動出来るかどうか一度試したいんだよ」

「あぁ……それ、私も不安だったんだよね」

「宿に着いたら試してみるか」

「だったら、『何かあったら私を』って言ってたしイオーラにしようか。アルクもいるし一緒なら楽しいよ」


 しかしその提案はドンによってすぐに却下されてしまった。


「もし長距離の召喚にトラブルがあって、イオーラがどこかに放り出されでもしたら困るからな。大人のメンバーから選ぼう……まぁ、マリオでいいか」


 出発前受け取った、“召喚許可申請書”を眺めながらドンはそう言った。判定基準を聞くと、「後々楽だから」との事だった。御しやすいと言う事だろうか。それには確かに賛同するが。


「それと、明日俺は同盟締結の中身について、マザーや他の連中と話があるんでな。一日かかるかもしれないんだが、お前らどうする?話し合いに参加してもいいが…」


 あまり乗り気では無かった。私では分からない事が多いだろうし、正直言って退屈そうだ。そんな私の気持ちが伝わったのだろう、「どっか行ってきてもいいぞ」とドンは苦笑いした。あまり広い集落では無いが、アルク達と見て回っていれば暇は潰せるだろう。


 宿に向かう道中、私は抱えている籠の中のクロをそっと覗き込んだ。眠ったままだったクロが、口をもごもごと動かして体を少し捩らせている。

 とうとう起きるのかと思いじっと眺めてみたが、その後すぐにまた同じポーズで深く眠ってしまった。

 目が覚める事が楽しみな反面、不安も大きい…私は、複雑な気持ちを抱きつつ、また宿に向かって歩を進めた。








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