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10話 発表会

 やる事は色々あるのだ。

 私は、キルンを抱きかかえて教会の周囲をうろうろと歩きながら発表会の事を考えていた。

ちなみに他の子ども達は居住スペースでお昼寝中だ。アルクやイオーラも寝かしつけの時に一緒に眠ってしまった。珍しい。


 まず、日程と場所については『不滅の灯』のスケジュールによるので、私に決定権は無い。ドンに相談したところ、ちょうど二週間後の夕方はどうかと言う事になったので、まず礼拝堂にて発表会を行い、その後外にて夕食会を行うというスケジュールになった。


 日時か決まったため、演目を決めなくてはならない。

娯楽の少ないこの村には、楽器と言えば教会にある壊れかけのオルガンくらいしか見当たらなかった。しかし歌は教えられるとしてもそれだけでは味気ないし、もう少し華が欲しい所だ。


 練習は、子どもの人数が少ないしアルクとイオーラの年長組もいてくれるため、スムーズに進むだろうとは思う。どこまでモチベーションを持ち続けられるかがポイントだ。特に、カントが心配である。


 そこで最後に衣装作り。出来れば揃いの服を用意して発表会に臨みたい。素敵な衣装であれば、「これを着て頑張るぞ」という気持ちにさせてくれるだろう。そして何より、見栄えが良い。子ども達の良い所をアピールできる数少ないチャンスなのだから、大事にしていきたい。


「これを……二週間でか……」

 

 つい、小さくため息をついてしまった。私が皆を誘ったのだ。しっかり成功に導くのが筋と言うものだろう。しかし、大勢の前で歌った事も、自分の気持ちを発表した事も無いこの子達が、どこまでやれるのかは心配なところではある。


「……ま、大丈夫。ねーキルン」

「んぶーぶぶぶー」

「ふふ、お話が上手。キルンも発表会出ようね」


 子ども達の発表会の中身についてはなんとでもなるだろう。とりあえず可愛い衣装を着て、なんとなく歌っていれば済む話なのだから。問題はそっちではない。本来の目的である、“『不滅の灯』メンバーとの交流”の方だ。

 リーダーであるドンの手前、表立って孤児院に害を加えようとする人はいないものの、村の中を散策する事が増えた子ども達に対し、良い顔はしてくれていない。

 どうしたものかと眉間に皺を寄せていた私だったが、先ほどから背後に感じ続けている視線にいい加減応える事にした。


「何か御用ですか、マリオさん」

「ひっ!き、気づいてたんだ……」

「まぁ…普通にバレバレでしたし……」


 マリオ・マクエル。『不滅の灯』のメンバーの一人だ。

 彼は建物の柱に体を隠した気でいたのだろうが、いくら男性にしては小柄な彼とは言え全く隠れられていなかった。足や、色素が薄めの金髪がチラチラと視界の端に映っていたのだ。

 彼はおどおどとした態度で私の前に現れる。が、なぜか一定の距離を保ったまま近づいて来ようとしない。

 待っているのも億劫なので、「ですから、何か私に用事でも?」ともう一度訪ねたものの、「ひいぃ!」とお化けでも見たかのような反応だった。私がそんなに怖いだろうか。


「あの……マリオさん……」

「いやっ違うんだ! 君に怯えているわけじゃないんだ……!」


 怯えてはいるのは本当らしい。

 マリオは震える指で私の腕の中の赤ん坊を指し、


「そ、その、僕は……ゴブリンが怖いんだ……」

 

 と、目も合わさずにそう口にした。

 なるほど。そういう人もいるわけだ。


 私は恨みや憎しみ、因縁の様なものからこの子達を拒否している人ばかりかと思っていたが、恐怖によりその種族を受け入れられない人もいると言う事なのだろう。


「この子が怖いのは分かりましたが、それと私への用事は別ですよね」

「そうだった。話があるんだけど……あの、その……」


 マリオはしきりにキルンの事を窺っている。今にもこの子がマリオに飛びかかって噛み付くのではないかと心配なのかもしれない。


「大丈夫ですよ。この子はまだ完全にハイハイをする事も出来ないただの赤ちゃんです。教会の中でしたら床で遊ばせられますし、お話もゆっくり聞けますがどうしますか?」


 私がそう言うと、彼の顔は少し青ざめる。恐らく中にたくさんのゴブリンの子ども達がいると思っているのだろう。

 思わず少し吹き出しながら、「他の子は別の部屋で寝てますから心配いらないですよー」と彼を教会に招いた。




 教会に入り、まずはキルンをカーペットが敷いてある所に降ろす。そしてマリオを礼拝堂内のベンチに案内し、話を聞く体勢を整えた。


「話って何ですか?」

「その……笑わないで聞いてくれるかな……」


 両手をもじもじと動かしながら、小さな声でそう聞いてくる。元々小柄なのもあって、年下の相談に乗っているような感覚に陥るが、彼は私より五つ程年上だったと思う。

 笑うかどうかは……正直、内容による。私はそう思いつつも「分かりました」と彼に伝える。約束した以上笑わないように気を付けねば。


「じゃぁ……あのさ、ニーナの事、知ってる?」

「ニーナさんって、ウェーブの髪の綺麗な人ですよね?」


 ニーナ・ノゥレル。『不滅の灯』のメンバーの一人でいつも細身の剣を携えている。

 何でもそつなくこなす器用な人だとドンから聞いた。普段は挨拶程度で、私はまともに話をした事も無い。目鼻立ちのハッキリした女性で栗色のウェーブの髪が愛くるしい。年は私より少し上と言ったところだ。


「そう……その、僕、彼女に……求婚したんだ」

「ええ!?」


 うっかり大きな声を出して驚いてしまった。手作り積み木を握って遊んでいたキルンが、びくっと小さな体を震えさせながらこちらを振り向く。泣きそうな表情の変化に、私は慌てて笑顔を作り、

「大丈夫よ~~~!」と両手を振って彼をあやした。


「うだっ! だだっ」

「……ふぅ……危なかった……」


 私の謎のダンスにキルンはニコニコと笑ってくれて、今度は近くに置いてあった布を手に取って観察し始める。とりあえず泣かれずに済んだようだ。


「ご、ごめんなさい……その、思ってもみなくって……」

「いや、いいんだ……そりゃぁ驚くよね…」

「お二人ってお付き合いされていたんですか……?」

「うん……まぁね。もう一年程前かなぁ。ダメ元で告白したんだけどまさかのオッケーで。『不滅の灯』の活動もいつ終わりがくるか分からないし、形だけでも一緒になれたらなぁって……その後どうするかはまたリーダーとも話さないといけないけどね」


 告白の当日の事でも思い返しているのだろうか、うっとりと宙を見つめる。恐らく彼の目の前にはニーナの美しい姿が描かれているのだろう。

 私には今の所まだ実感は無いが、この人達はいつ死んでもおかしくない活動をしているはずなのだ。命が絶える前に思い人と……と言う気持ちも生まれるものかもしれない。


「それで、求婚の返事はどうだったんですか?」


 まだ幻を見ていると思わしき彼に単刀直入に聞くと、岩でも頭の上に落ちてきたかのように項垂れた。


「……それがその……“ゴブリンも直視出来ないような人と結婚なんてごめんよ。せめて孤児院の子どもの世話くらい出来るようになったら受け入れてあげてもいいわ”って言われちゃって……」


 マリオは悲壮感に満ち溢れた声で泣き始める。


 なんだ、そんな事かと、私は呆れて大きなため息をついた。恐らくここにイオーラがいたら、マリオに悪態を吐きまくっていただろう。運のいい男だ。


「簡単な話じゃないですか。ほら、ここにいるキルンを抱っこしてニーナさんの前に出て行けばいいんですよ。今すぐ。さあ」

「出来ないから困っているんだろう! ……こっ、怖いんだ……どうしても無理だ! ほら、鳥肌が……。もう一人じゃぁどうしようもないんだよ……異世界から来て一日でゴブリンの世話をやってのけた君にならアドバイスが貰えると思って……頼むよ……」


 確かにマリオの両腕には見事な鳥肌が立っている。


「えぇ~…そんな事言われてもどうすればいいか…」


 私は顎に手を当てて考える。

 そして短大の保育学科の時の事を思い出した。虫や蛙が苦手な女子の多い短大。しかし保育園や幼稚園の子ども達と虫を捕まえる事だってあるだろうと、一人の講師がプロジェクターに大きく虫を映して私達に強制的に見せていた。「キャー!」という悲鳴が講義室に響き渡ったが、その時の講師のセリフは「よく知らないから怖いんだ。ちゃんと見て知っていけばそのうち慣れる」という簡潔なものだった。……正直人によるとは思うが、実際私はそれでかなり虫嫌いが軽減された。


「……わかりました、マリオさん」

「えっなにか良い案でも!?」

「私からドンには許可を取りますから、しばらく孤児院に勤務して下さい」

「えっ!」

「無理にあの子達と関わる事はしなくていいです。私からもあなたに触ったり遊んで貰ったりしないようにしっかりと言い含めますから。マリオさんは少し離れた所から見ていて下さい。あの子達がいつもどの様に生活しているのか、何を考えてどう動くのか。知っていけばその苦手意識も変わるかもしれません」

「そ、そんな……」


 マリオは泣きそうな表情で私を見上げる。

 少し荒療治かもしれないとは思いつつも、この提案は私にとっても好都合なので是非受けて欲しかった。子どもと関わってくれなくてもいい。掃除や発表会の準備など人手はいくらあっても困らないのだ。


「どうしても嫌でしたら断って頂いても構いませんが。ニーナさんと結婚したいんですよね、だったら少し頑張ってみませんか?そう、今度の夕食会くらいまでとか」

「夕食会って二週間後だよね…それまで仕事抜けてて大丈夫かな」

「毎日じゃなくたっていいんですよ、二日に一回とか。夜の間だけとかの短い時間でもいいわけですし」

「そ、それもそうか……それなら……」

「じゃぁ後程、ドンも交えて詳しい事はお話しましょう!」

「うん……」


 私の圧に負けたのか、彼は縦に首を振った。



 仮契約完了だ。私は笑みを浮かべそうになるのを必死で堪える。

 しかしどこかの誰かさんに似てきた様な気がして自分でも少し嫌気がさした。




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