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9話 保育方針を考える

 私がこちらの世界に来て二週間が経った。


 ロンドは孤児院の引き継ぎを終えて、『不滅の灯』の任務に戻った。

 ドンは日中忙しいらしく、なかなかこちらに顔を出さない……と言うか、完全に私に任せっきりだ。二、三度前触れも無く訪ねて来たと思ったら、子ども達の様子をしばらく見た後にまたどこかへと出かけてしまった。


「チビ達、元気そうだな、安心した」


 と、去り際に疲労の滲む顔で薄く笑っていたのが印象的で、私は文句の一つも言えなくなってしまった。




 アルクは真面目に手伝いをしてくれていてとても助かるし、イオーラは言葉のナイフが鋭すぎる事もあるが関係は良好と言える、ウルヒムは外に出ると元気いっぱいに走り回っていて、エルは私が教えた歌や手遊びを気に入ってくれているし、オルレリはたまに危険な事もするが素直で関わりやすい、カントはここ二日ほど私が木で作ったおもちゃでよく遊んでいて、キルンは早くも一人座りを覚えて機嫌良く過ごしてくれている。


 書き出してみれば、順調過ぎる程順調だ。


 ただ……。


「カント、ここに積んでごらん」

「うん……できたー!」

「上手! カントのお城が出来たね」


 積み木は太めの木の枝を適当にのこぎりで輪切りにし、やすりをかけて角の処理をしただけの物だ。先日散歩の際には入手出来なかったため、その次の日にアルクにお願いして取ってきてもらった。

 この子達にはまともに遊べるようなおもちゃが何も無かったため、こんな簡単な積み木でも十分面白いらしい。ただ……。

 ガシャーンと大きな音がする。続いてカントの甲高い泣き声も。


「オルレリがぼくのつみきたおしたーーー!!」

「カントがわたしのとったんだもん!!」

「オルレリのばかっ! ばかぁー!!」


 カントが次のお城を作ろうと手にした積み木は、オルレリが使っていた物だったらしい。ここまでは保育園でもよく見る光景だ。しかしこの子達の起こすトラブルでは気を付けなければならない事がいくつもある。

 腹を立てたオルレリが、カントに積み木を投げつけようとする、その時カントは口をくわっと開けてオルレリのその腕に噛みつこうとした。2本の鋭い牙が容赦なく襲い掛かる―――私は、カントの背後に回り額と胸を左右の手で押さえ、身動きが取れないようにした。

 そのまま一度、オルレリから離し、礼拝堂の隅に連れて行く。最初はそれでもオルレリに飛びかかりに行こうと藻掻いていたが、次第に体の力が抜けて落ち着いた。


「積み木を倒されるのが嫌だったね。カントはオルレリの積み木って知らなかったもんね」

「うん……」

「でも、『ガブ』はしないってお約束したよね? 『ガブ』したらオルレリはとっても痛いと思うよ」

なるべくおだやかな声を意識して話しかける。カントは静かに話を聞いてくれていた。


「もうしないよ……ママ」


 ちなみにこの1週間で「サクラママ」から「ママ」にゴブリンの子ども達から私への呼び方は変わっている。全てドンの仕業だ。本当に照れ臭いからやめてもらえないだろうか。


「嫌な事をされたら、どうするんだっけ?」

「おはなしする……」

「そうだね、『積み木倒さないで』って泣かずに言って、それでも困った時は私やアルク、イオーラに言うんだよ。さぁ、オルレリとごめんなさい出来る?」

「うん……」


 カントはオルレリの所へ小走りで近寄って行く。二人はあっさり仲直り。しかし、またすぐ喧嘩になるくせにまた横に並んで遊び始めた。私はウルヒムに二人の間に入って遊んでくれないかと頼み、彼は快く了承してくれる。


(今日何回目だ……?)


 私が孤児院勤めになって少し経ったため、彼らも新しい環境に慣れてきたのだろうか、素が出てきたらしい。噛み付きや引っ掻き等が格段に増えてきたような気がする。

 ほんのちょ~っと赤い程度の怪我に何時間もクレームを言ってくる保護者がいるわけでもないので、子ども同士の怪我についてはさほど気にしなくてもいいかなと思っていたのだが、ゴブリン達はニンゲンに比べて牙があり力も強い。爪は短く切っているので、引っ掻きはあまり気にならないが、牙はどうしようもない。

 この子達の大人になるまでの成長速度は、ニンゲンと比べて5倍程のスピードだそうなので、噛み付きの時期が過ぎるのも早いだろうとは思うが、こうも頻繁だと少し疲れてしまう。

 特に、カントは気持ちを言葉にする事が苦手なので、引っ掻きや噛み付きに繋がりやすいのだ。なるべく言葉の支援を盛り込んでいきたいと思う。


「……そうだ」


 ある閃きが浮かび、私は紙とペンを用意した。

 いくつか大きく字を書くと、子ども達の前に持って行き高らかに宣言する。






------------------------






「発表会?」


 先ほどはキルンの外気浴をするために出かけていてくれたイオーラと、おもちゃ資材を集めに行ってくれていたアルクが帰ってきたので、彼らにも説明をする。


「そ。『不滅の灯』の人達に集まってもらって、自己紹介し合ったり、孤児院からは歌を皆の前で歌ったりしようかなって」

「はぁ?そんなの出来るわけないじゃない」

「うっ」


 予想はしていたが、イオーラが呆れたと言わんばかりに反対する。見れば、アルクも微妙な表情をしていた。


「無理だと思う?」

「むーりー。だって、こないだの“じどーけんしょー”? だって、全然気にしてない奴多いわよ! 私とアルクだって無視される事あるのに!でしょ?アルク!」

「まぁな……」


 確かに。ニンゲンの私の事でさえ、挨拶一つ返してくれない人もいるくらいだ。そして無視とまではいかなくとも、ほとんどの人は私に対してよそよそしい。


 しかし、この二人が反対するのは想定内の事である。特にエルフの少女は私のやる事には逐一口を出さねば気が済まないのだから。そのために、先にゴブリンの子ども達に伝えたのだ。


「アル兄! いっしょに歌うよな!」

「イオ姉も……」


 ウルヒムがアルクに、エルがイオーラの腰にしがみつき、発表会への参加を嘆願する。もちろんその周りに他の子達も勢ぞろいで説得にかかっていた。


「二人もやるよね!」

「れんしゅうがんばる……!」


 オルレリと続いてカントも二人の腰に飛びついて行く。

 「おねがいおねがい」と頭をこすりつけたかと思えば、四人で手を繋ぎ輪になって囲う。そして輪になったままぐるぐる回り始め、その間も「おねがい」コールは鳴り止まない。何かの儀式にも見えてきた。


「わー! 分かったよ分かった! 出るよ!」

「アルク!? 本気!?」

「仕方ないだろ……こんなにやる気なんだから……」


 観念したようにアルクは両手を上げた。そのままイオーラから2歩ほど離れ、輪の中に吸収されていく。儀式を執り行う人数が五人に増えたようだ。

 人狼とゴブリンによるエルフ説得の儀は、イオーラが耳を押さえて真っ赤な顔で「~~~~~ッ! や、やるわよ!!」と叫ぶまで続いた。

 そして輪から解放された後、私の所に寄って来たかと思えば、


「……覚えてなさいよ」


 と呟いたのだった。

 怖い。









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