第85話 迷宮の底力
脳味噌に角をぶち込まれたドラゴンは沈黙する。
不気味なほどの硬直を経て、ゆっくりと後ろへ倒れ始めた。
(やっとくたばったか)
俺はドラゴンの鼻面を蹴って跳躍した。
紙一重でヘリポートに手をかけることに成功する。
指に付着した血やら何やらで滑りそうになるも、なんとか堪えられた。
下を見ると、力を失ったドラゴンが落下するところだった。
アースタワーの壁に衝突しながら、徐々に小さくなっていく。
頭部を徹底的に破壊されたドラゴンは、あと数秒で地上に激突するだろう。
いくらタフでも、さすがにもう復活できないはずだ。
これで死なないのならお手上げである。
さっさと逃げるか、大人しく餌になるしかない。
落ちていくドラゴンを眺めていると、ふと目が合った気がした。
潰れた両目の眼力が強まるのが感じられた。
刹那、ドラゴンが断末魔のような咆哮を上げた。
正真正銘、残る力を振り絞って放たれたものである。
あまりの声量でアースタワー全体のガラスが一斉に割れた。
ガラス片の雨が降り注いでくる。
「ったく、痛ぇな……」
俺は片腕で頭を庇いながらよじ登る。
背中や脚にガラス片が突き刺さるが、気にする余裕はなかった。
頭上を見上げると、負傷よりも遥かに最悪な事態が起きようとしていたからだ。
各フロアのモンスター共が、割れた窓から雪崩れるように降ってくる。
連中は屋外プールやヘリポートに次々と落下する。
何割かは衝撃で即死するも、頑丈な肉体で落下に耐えたり、飛行能力で緩やかに着地する個体も多かった。
前方はあっという間にモンスターで埋め尽くされる。
「ハハハ、最高にクレイジーだな」
俺はガラス片を引き抜きながら笑う。
落ちてきたモンスターのラインナップを見れば、見覚えのある顔がちらほらといた。
一緒にヘリポートを目指していた生存者達だ。
彼らはゾンビに変貌していたり、炎に包まれていたり、植物に寄生されていたり、イーサンのようなイソギンチャク頭になっていた。
ここに辿り着くまでの間に、モンスターの手にかかって息絶えたようだ。
その悲惨な末路には同情せざるを得ない。
無論、俺達に襲いかかる気なら容赦はしないが。
「どうやら意地でも逃がしたくないらしい。ちょいと抗議してやろうじゃないか」
呆然とするミアナとイーサンを叱咤しつつ、異形の両手を動かして骨を鳴らす。
フィナーレに相応しいVIP待遇だ。
せっかくもてなしてくれるのだから、存分に楽しまないといけないだろう。




