第72話 新たなパワー
「おいおい、こいつは一体どういうことだ? ミュータント映画でも始まるのかよ」
苦笑する俺は、まじまじと両脚を観察する。
部分的には従来の義体だが、明らかにモンスターじみた部位が使われていた。
触ってみるも、やはり作り物ではない。
緑色のざらついた鱗の下には、しっかりと生物由来の筋肉が詰まっているようだ。
そういえば道中で倒したモンスターの中に、このような鱗を持つ個体がいた気がする。
新たな両脚に感心していると、ミアナが冷静に解説する。
「イーサンによる処置だ。義体手術の応用らしい。一か八かの賭けだったそうだが、成功したそうだ」
「そいつは最高だ。主人公の復活とパワーアップはセットだからな。気分が乗ってくるってものさ」
俺は袖をめくり上げて両腕を確認した。
案の定、機械とモンスターの混合物となっている。
こちらは鱗の他に岩に近い質感の甲殻も使用されていた。
「ふむ……」
指を開閉して動きをチェックしてみる。
特に不自由は感じられなかった。
不思議なほどに安定している。
裁縫くらいなら片手間にできそうだった。
イーサンが細心の注意を払って移植したのだろう。
俺はふとベッドのそばに置かれた目覚まし時計に注目した。
鱗混じりの片手で鷲掴みにして、軽く力を込める。
すると、時計は簡単に粉々になってしまった。
ひしゃげたベル部分が床に転がって音を鳴らす。
「ハハ、悪くないな。怪力ヒーローの誕生だ」
「神経単位で魔物の部位と接合している。義体部分の出力も合わさって、従来とは比較にならない膂力だそうだ」
「なるほどな。ドクターも粋な真似をしてくれるぜ」
イーサンは俺を助けるついでに強化改造を施してくれたらしい。
不足した義体を補うのがメインの目的だが、こうして思わぬ副次的な成果を生み出してくれたようだ。
俺が上機嫌に四肢の調子を確かめていると、ミアナが意外そうな顔で尋ねてくる。
「その身体に驚かないのか? イーサンもその点を懸念していたが」
「驚いたぜ、ちょっとだけだがな。精々、バースデーサプライズと同じくらいだ」
俺は過去に様々な義体を使ってきた。
今回のはビジュアルがエキセントリックだが、性能面は申し分なさそうだ。
故に何も問題はない。
そもそも極限状態で細かな文句なんて言っていられなかった。
「相変わらず、鋼の精神だな。その姿勢に感服させられる」
「あまり褒めるなよ、照れちまう」
俺は軽く笑って、ポケットに入った煙草をくわえるのであった。




