第3話 修理作業
正面からゾンビが襲ってきた。
俺に掴みかかろうとするので、振り払って頭を銃撃する。
血と脳漿が天井に四散した。
頭部の弾けたゾンビはゆっくりと倒れる。
今度は横から別のゾンビが迫ってきた。
蹴り飛ばしてから後頭部を踏み砕く。
念のために弾丸をぶち込んでおいた。
これでもう起き上がることはないだろう。
「さて……」
拳銃を下ろした俺は室内を見回す。
そこには大量の死体が転がっていた。
ドアの開いた部屋や廊下のゾンビが集結してきたので、皆殺しにしたのだ。
数が数なので、時間がかかってしまった。
「人間は星の数ほど殺ってきたが、ゾンビは初めてだ。今夜の日記は話題に困らないな」
軽口を叩く俺は、右前腕を持ち上げる。
皮膚がべろりと剥がれて、金属質のカバーが露出していた。
出血はしていない。
目を凝らすと、僅かに歯型のような物が付いている。
戦闘中、一度だけゾンビに噛み付かれたのだ。
幸いにも義肢の部分だったので、奴らの仲間入りを果たさずに済んだ。
狙ったことではなく、完全な幸運である。
昔からラッキーな自覚はあったが、それは今も健在らしい。
もっとも、ゾンビからすれば俺は良い餌ではないだろう。
血液や内臓には人工物が混ざっており、決して美味いものではない。
超高額の手術で外見のサイボーグ感は消しているが、人間の味までは再現できていないはずだ。
「ふむふむ」
銃を収めた俺は肩を回し、脚を上下させて、各関節を軽く曲げてストレッチをする。
戦っている時に気付いていたが、義肢の調子が悪い。
俺を監禁した男達が、拘束する際に弄りやがったのだ。
不器用な連中ばかりで義肢自体は外せなかったが、明日には切断用の機械を用意すると豪語していた。
その前に脱出のチャンスが巡ってきて良かったと思う。
部屋のドアを閉めた俺は、死体だらけの部屋を散策する。
ほどなくして工具箱を発見した。
ホームセンターで売っているような代物で、連中が俺の義肢を外すために持ち込んだのだ。
「外科手術を始めるかね」
椅子に腰かけた俺は、違和感のある箇所の皮膚をナイフで剥がし、その下の保護カバーを外した。
そして工具で内部機構の調整をしていく。
かなり頑丈で外しにくい設計だが、構造を知っているとスムーズに分解が可能だった。
口笛を吹きながら各所のメンテナンスを進めていく。
幸いにも故障している感じはなかった。
部品の交換も必要なさそうだ。
感覚の怪しい箇所だけ工具で微調整しておいた。
メンテナンスを終えた俺は立ち上がる。
今度は裁縫道具を探し始めた。
全身あちこちの皮膚がめくれているのだ。
このままだとゾンビと間違えられかねない。
まずはこれを縫合したかった。