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バレンタインに渡す物はチョコと限らない? 【に】

「あれ? 先輩、他の皆さんは?」

「え? あ、あれ?居ない。何処行ったのかな?」


そんな会話をしていたら、私のスマホが鳴った。

ん?何々?

『佳奈達置いてカフェ来てる』

えーマジか。あ、また来た。

『私達は先に帰るね』

うそ!? 美優達ともっと遊びたかったのに!


「先輩、メール誰からでした?」

「美優から。カフェで休憩して、そのまま解散となって帰ったみたい」

「私達置いてけぼりくらっちゃいましたね」

「うん」

「何、暗くなってるのですか? 」

「え?いや、だって……」

「私は先輩と二人きりになれて嬉しいです」

「……私も一条ちゃんと二人きりになれて嬉しいよ。でも、咲達とも遊びたかった」

「先輩……」


じと〜とした目で一条ちゃんに見られた。

言いたい事は分かるよ!でも、皆とも遊びたいもん。だからチョコ買うのを口実に、皆を誘ったわけなんだ。それが買うだけ買って解散したなんて……最初から遊びたいと言えば良かったかも!


「先輩は、私と秋雨先輩達どっちが大切なのですか?」

「それは……どっちも大事」

「そこは普通、彼女である私じゃないのですか?」

「そうなんだけど、でも咲達も大事だから」


今ではクラス皆と仲良いけど、最初の頃は中々馴染めなかった。そんな私を友達だとずっと言ってくれてる咲と美優には感謝してもしきれない。だから、一条ちゃんも大切だけど、それと同じ位に咲達も大切なんだ。


「ふぅ……先輩らしいと言えばらしいですね。でも、今だけは私だけと言って欲しかったです」

「ごめんね」

「悪いと思っているなら、この後私に付き合ってくれますか?」

「それは勿論、一条ちゃんの行きたい所に付いて行くよ!」


一条ちゃんが行きたいと言うのであれば、何処へだって付いて行くよ。そんな事を言っても、一条ちゃんの表情は暗いままで、何を考えているのか分からない。それでも恋人繋ぎで手を繋いでくれているから、大丈夫だよね?



何処へ向かっているのか分からないまま、暫く歩いて連れて来られた先は、人の気配が全くしない雑居ビルが建ち並ぶ路地裏。私を壁側に立たせると、一条ちゃんは壁に左手を付けて私の前に立ち塞がっている。あれ?これって所謂壁ドンってヤツ?


「先輩……」

「何?」

「私以外の人を忘れさせてあげる」

「え?」


次の言葉を言う前に、唇を塞がれてしまった。

突然の事に驚いていると、口内に一条ちゃんの舌が入り込んできて、私の舌を絡め取られた。


「んぅん……んん……!」


息苦しくなって、一条ちゃんの背中に抗議しているけれど、離してくれない。それ所か更に激しさを増していく。

頭の中が真っ白になりボーとしてきた頃、ようやく離れてくれた。


「せんぱい……」


再び唇を塞がれ、舌を絡め取られる。

そんな事を何度も繰り返され、私は自分の力で立てなくなっていた。


「先輩……私以外の事は忘れてくれましたか?」

「…………」


息が整って無い状況で返事を望まれても、上手く答える事が出来ない。

私の無言を『まだ忘れてない』と思われたのか、また唇を塞がれてしまった。

そんな事を何度も繰り返していたら、私は意識を手放していたのだった。


あれから何れほどの時間が経ったのだろう、意識が戻った私は知らない車の──タクシーの中だった。隣には一条ちゃんが居て、私を心配そうに見ていた。


「気付いたのですね」

「うん。一条ちゃんがタクシー呼んでくれたの?」

「ごめんなさい、やり過ぎました」

「ううん。いいよ、私も一条ちゃんの立場だったら同じ事してたと思う。でも、次からは外でする時は気を付けないとね」

「先輩……」


私に抱き着く一条ちゃんの頭を優しく撫でながら、何も言わずに運転に集中してくれている、タクシーの運転手さんには感謝しか無かった。


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