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トロッコ問題でキャラクターを作ろう

作者: 音無威人

 トロッコ問題というものがある。これは倫理学の思考実験の一つで、イギリスの哲学者フィリッパ・フット氏が考えたものだ。

 この問題を説明する前に登場人物を整理しておこう。

 重要な鍵を握る人物が、分岐器の脇に立っているAだ。線路上では五人の男たち、別路線ではBが作業を行っている。

 さてトロッコが暴走し、五人の男たちが轢き殺されそうになっているとしよう。Aが分岐器を切り替えれば、五人の男たちが助かるのは言うまでもない。ただし別路線にBがいることを忘れてはいけない。

 五人の男たちを助ければ、Bは間違いなく死ぬ。Bを生かせば、五人の男たちは死ぬ。

 トロッコ問題とは要約すれば、五人の男たちを助けるためにBを犠牲にするか否かということだ。


 このトロッコ問題の背景には道徳的ジレンマが存在する。五人の命を救うためなら一人の命を犠牲にしても良いと考えるか、それとも五人の命を助けるために一人の命を犠牲にしていいわけがないと考えるか。要は大多数を助けるために少数を犠牲にするかどうかということだ。


 この問題は非常によくできている。分岐器を切り替えずに五人の命を見捨ててもAに責任はない。なぜなら暴走トロッコによる事故で死んだだけに過ぎないからだ。

 しかし分岐器を切り替えた場合、話は変わる。分岐器を切り替えるということは、Bを犠牲にする覚悟を決めたことに他ならないからだ。

 つまりBの死はAが責任を負うことになる。この点がトロッコ問題の難しいところだ。

 誰を犠牲にして誰を救うか、これは人によって変わるだろう。人の数だけ答えがあるといっても過言ではない。

 一見すると選択肢は二つしかないように思えるが、その選択に至る理由は様々だ。




 これらを踏まえた上で、私は提案する。トロッコ問題をキャラ作りに応用することを。

 先ほども述べたように、選択に至る理由は様々である。五人を救うために一人を犠牲にする、あるいは五人を見捨てて一人を助けるかはその人の考え方次第だ。

 言い換えれば思想によって答えが決まるといっても過言ではない。ゆえにキャラ作りに応用することができる。


 実際にやってみよう。

 まず分岐器の脇に立っているAを熱血主人公、別路線にいるBを儚げなヒロイン、本線にいる五人の男たちを世界、トロッコを脅威に置き換えて考えてみる。

 この状況を分かりやく言い換えると、世界のためにヒロインを犠牲にするか、ヒロインのために世界を犠牲にするかということになる。

 主人公が何もしなければ世界が終わる。主人公が行動すれば、世界が助かる代わりにヒロインが死ぬ。

 さて熱血主人公ならどのような答えを選択するだろう。どちらを脅威の犠牲にするか選ばなければいけない。

 だが彼は熱血主人公だ。熱血主人公なら、誰かを犠牲にする選択肢は選ばない。そう誰かを犠牲にする選択肢は。

 しかしトロッコ問題においては、分岐器を切り替える以外の行動はできないことになっている。そのため線路に飛び込んで、自らが犠牲になるという選択は選べない。

 ではどうすべきか、とりあえずヒロインを犠牲にしてみよう。次にヒロインを犠牲にした理由を考える。ヒロインのために世界を犠牲にする覚悟がない、愛する人が自らの命と引き換えに世界を消滅させることを望んでいないなど。

 このように 必ずどちらかを犠牲にしなければならないからこそ、心理的葛藤を生み出すことができる。




 今回は分かりやすいように登場人物を主人公やヒロインに置き換えたが、全員を置き換える必要はない。

 設定を固めたいキャラをAに置き換えるだけで十分だ。より深めたいのであれば、Bをライバルや友達など関係のある人物に置き換え、様々なパターンで試してみるのも良いだろう。

 そうすれば、仲間に対しては優しいが、敵には冷たいといったギャップを生み出すことができる。いろいろな組み合わせで試すことで、深みのあるキャラを作り出せるはずだ。


 たとえばなろうのテンプレで有名な悪役令嬢もので考えてみよう。

 悪役令嬢ものについて簡単に説明すると、乙女ゲームの世界に転生した主人公が、ひょんなことから前世の記憶を思い出して自分が悪役令嬢だと気づき、バッドエンドを回避するため奮闘する物語である。

 この流れを前提として踏まえたうえで、Aは悪役令嬢、Bは正統なヒロイン、五人の男たちは王子や宰相といった攻略対象者に置き換える。

 悪役令嬢ものにおいてはヒロインが主人公を陥れようとする悪であることが多いため、その設定を採用して、キャラ作りを進めていくことにする。

 ここでは悪役令嬢の選択は分岐器を切り替え、攻略対象者を助けることに。その理由はイケメン好きだからとでもしよう。

 イケメン好きだからこそ攻略対象者を自分の物にしようとするヒロインが許せない。だから犠牲にすることにした。なかなかいい感じに設定が固まってきている。

 よりキャラクター性を深めるため、Bをヒロインから隠しキャラのイケメンに変えてみよう。

 Bがヒロインの場合は攻略対象者を助けたが……?

 イケメン好きというキャラクター性を考慮すると、隠しキャラのほうが良い男であるなら、分岐器は切り替えずに攻略対象者を犠牲にするだろう。

 考えたキャラ設定を一言で言えば、イケメンを手に入れるためなら平気でヒロインを犠牲にする性格。道徳的観念は欠片もない。自分の欲望に忠実な人物だと言える。

 他にパターンを考えるなら、たとえば自分の家を存続させるためには攻略対象者の力が必要で、仕方なくヒロインを犠牲にする道を選んだというのもいいだろう。ヒロインを犠牲にするという選択は同じだが、こちらのパターンのほうが心の葛藤を感じられるのではないかと思う。



 このようにトロッコ問題の設問を基準にすると、なぜそうしたかという理由を考えやすいという利点がある。人の命がかかっているため、狂気的なキャラを作りたいときにもオススメだ。

 


 ここまで長々と説明しては来たが、この通りにやる必要はない。

 一つの考え方を提示しただけで、自分の創作法に合ったやり方にアレンジしたほうがやりやすいはず。

 トロッコ問題をどうキャラ作りに応用するかはあなた次第だ。

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