賢者の逆襲
「突然ですがクイズです」
いつものボックス席に陣取ると、千里はそう宣言した。
「よし受けて立とう」
お金が無いので、毎回同じファミレスで同じメニューを頼み、ただ喋るだけのデートだ。来店10回目ともなると、店員だって注文する前にカルボナーラとドリアを持ってくる。
「第一問。今朝、私が殺しちゃったのは?」
そう言いながら長い黒髪を首の両側から背中に回す千里。
落ち着き払った様子に、聞き違えたと思い込む僕。
「……ごめんもっかい」
「今朝、私が殺しちゃったのは?」
思わず彼女の顔を七秒くらい見てしまう。
「あ、虫? 蚊とか蝿とか」
「ブー。正解はコウイチ」
「僕?」
「第二問」
「待って待って。僕生きてるけど?」
カルボナーラにフォークを絡ませながら僕の問いに答えてくれない。
「コウイチの職業は?」
「無職だよ。悪かったね」
自分だって学生の癖に。
「残念。正解は伝説の勇者です」
「それ嫌味? 無謀な企業ばっか受けて勇気あるってこと?」
「第三問」
「人の話聞いてる?」
「コウイチのレベルは?」
「知らないよ。じゃレベル5」
「ブブー。正解はレベル54」
「高っ! いや何が?」
「第四問。勇者とともに魔王を倒しに行く魔法使いは?」
「僕魔王倒すの?」
いい加減意味不明なので無視してドリアを食べることにしたところで、ぴしゃと何かが僕の顔についた。カルボナーラのクリームだ。
「正解はミカ。ね、勇者コウイチ君?」
無表情でカルボナーラにフォークを突き立てている彼女。
「ミカ?」
あ。
やべ。
それは。
今朝殺したってそういう意味か。やけに千里が早起きしてたと思ったが、ゲームやってたのか。
「千里。違うんだ。あのゲーム中学の時のだよ。ほら勇者に自分の名前とか仲間に好きな子の名前とか、つけたりするだろ?」
あのソフト捨てとくんだった。
「第五問。なんで勇者と魔法使いの二人パーティなの?」
「いや違うんだ」
「元カノ?」
「まさか。ただのクラスの子だよ。覚えてないよもう十年前近いし」
ふーんと僕の答えを値踏みする彼女。
「第六問。魔王は倒した?」
「いや。魔法使いと二人じゃ無理だった」
「へー」
彼女は一呼吸おくと、小さな声で言った。
「じゃ私と倒す?」
「ん?」
どういう意味、という言葉を飲み込む。
「う、うん。最初からやろうか。勇者コウイチと……」
「私は賢者がいい」
「賢者?」
「二人だけで」
「え?」
「賢者とならいけるでしょ」
そう言うと千里は美味しそうにカルボナーラを食べ終えたのだった。