精神科にかかってみたら意外と楽しかった件
~月曜日~
キラキラクリニックの復職支援には、毎週新メンバーが入ってくる。
職場でのパワハラ、家庭内暴力、育児ノイローゼ……
抱える問題は人それぞれだが、共通していることは一つ。
みな元から病気だったわけではなく、社会で生きていく中でたまたま精神科に縁ができたということだ。
それにしてもこんなに多くの健常者がうつ病で休職を余儀なくされているなんて……。
ふと、めいこは現代社会の闇を見た気がした。
「本日初日の方がいるので、自己紹介をお願いします。」
「はい! 庭月野まりあです。よろしくお願いしまーす!」
おそらくそう状態真っ只中なんだろう。
胸元で揺れるネックレスに、ストーンをちりばめた指先、少々短めのスカート。
あんまり友達にはいないタイプ。
「ねーねーめいこちゃんていうのぉ?歳いくつ?」
「え?あ、5月で24にな「まじでー!? 私今25だからよろしくー!」
友達にはいないタイプだが、悪い人ではなさそうだ。(多分)
「んでさー私今そう状態なんだけどー」
見ればわかる。
「道免さんってかっこいいよねー♡」
「!?」
「あれ?もしかしてめいこちゃんそういう感じ?ごめんね~これが私のそう状態。」
another s〇yみたいなノリで何言ってんだ。
「べ、別に…!道免さんはかっこいいけどそんなんじゃ…!」
「めいこさんにそう言ってもらえるなんて嬉しいな。」
「「道免さん!?」」
「ガールズトークが可愛らしかったのでつい。ただその症状はかなり厄介ですね?」
「そーマジ大変なんだよねー。
私最初はうつで実家に帰ってたんだけどー、彼氏がお見舞いに来て親に挨拶してくれたのー。
でもうちの母親が発達障害っぽくてー、『病気のアンタを捨てられないから付き合ってるだけ』
『親の手前ああいうしかなくて可哀そう』とか言い始めてー
なんか体目当てなのかなとか、お情けで付き合ってんのかなとか思ったら
さらに病んだんだけどーある日TV見てたら男がみんなめっちゃかっこいいの!
休職中でカネないのにアイドルに超貢いで、親にばれてここ送り込まれたんだけど
これも双極性障害の一つで【性の逸脱】っつーらしいよ?」
なんかすごい話だ。
もしお母さんが発達障害じゃなかったら、この人は双極性障害ではなくうつ病で済んだかもしれないのに。
この恋多き女性な雰囲気は病気のせいだなんて。
「お!あのぽちゃい子もかわいーじゃん♡ ねーねー!」
「え!?あ…初めまして」
庭月野さんの次のターゲットが決まったようだ。
「めいこさん、大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで」
「よかった。かなりタイプが違うので心配になってしまいました。」
「あ、ありがとうございます///」
「それにしても……あの人の本当の性格はどんなだったんでしょうね。」
脳の機能障害で、人格が崩れていく。
銀山さんを口説く庭月野さんは、作られたキャラクターのようだった。
庭月野まりあさん
双極性障害Ⅱ型。
以前は社内でも1位2位を争う優秀なシステムエンジニアだったが、過労でうつを発症。
その後更なるストレスにより詳しい検査をしたところ双極性障害と診断される。
ダメだとわかっているが、楽しい気分が味わえるそう状態でいたいとも思っている。
ほしいものは可愛いブルーライトカット眼鏡。