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こびりついた泥

作者: ユージーン


 洗濯機が壊れた。

 コインランドリーは気が進まず、新品の高級機を買うお金を急に用意することもできない。

 結局、たまたま近所にあったリサイクル店から購入することにした。

 家まで届けてくれて、設置までしてくれ、なおかつ故障品を持ち帰ってくれる上、今の洗濯機と同じメーカーの製品で使い勝手も変わらない。そして価格も手頃。

 あまりにも条件が整いすぎて、まるで洗濯機が「買ってくれ」と訴えてきている気がした。


 ところがこれが失敗だった。

 1週間ほどした頃、シャツに泥が付いていた。

 幸い、洗い直したら綺麗に落ちてシミになるようなことはなかったものの、それ以来、週に1度ぐらいの頻度で同じことが起きる。洗濯物の中のひとつに泥が付く。


 リサイクル店の店主に説明すると、「たぶん洗濯槽の裏側のどこかに泥が入り込んで残ってるんでしょう」との事だった。それが時々、剥がれて洗濯物にこびりつくのだろうと。

 すぐに返金を申し出てくれた。もしも嫌でなければ別の洗濯機と入れ替えてもいいとの事で、同じことが起きると困るとは思ったが、やっぱり新品を買うよりもと交換してもらうことにした。


「たまにあるんですよ」と店主は困り顔半分、苦笑い半分で説明してくれた。

 なんでも、とある家族が亡くなって、親戚が残った家財の整理で持ち込んだらしいとの事だった。

「そりゃね、そういうのを買い入れるのはこっちも嬉しくはないんですけどね、けど悲しんでいる人に向かって、『縁起が悪いから引き取りたくない』なんて言えないでしょ。気の毒で。ウチも商売だから、買い取ったら売らないとやっていけませんしね」

 まあ確かに言ってることはわからないでもない。こちらには関係ない事情だとしても、安く買えるのには理由があるというのも否定しきれない部分がある。

 「けどね」と話が続いた。

「不思議なんだけど、こういうのってお客さんみたいに説明すると理解してくれる人か、ものすごく性格の悪い人にだけ買われるんですよ。で、そういう困ったお客さんだと、必ず悪い事が起きるみたいなんですよね。やっぱりあっちの人も、相手を選ぶんですかね」

 話を聞いてくれる人に訴える場合と、ひどい人の所にバチを当てるのではないかとの事だった。

「そういうのはね、大抵、店を閉めた後に変なことがあるんですよ。夜にぼんやり光ってたり、カタカタっと変な音がしたりね。さすがにそういうのは処分しちゃうんだけど、こいつは何もなかったから大丈夫だと思ってたんですけどね。本当に申し訳ないことをしました」

 帰り際に、少しグレードの低い洗濯機に交換になるからと差額を返金してくれた。




 後日、とある知り合いに居酒屋でこの話をすると「それはちょっと違うんじゃないか」と言われた。

 負の感情を持っている者同士は引き合う。こちらの世界でも、あちらの世界でも。そうした感情が重なり合って負の出来事が引き寄せられる。

「で、お前みたいなお人好しの所にはお人好しが集まるんだよ」

 やってきたビールを胃に流し込みながらしばらくして、ふと思いついた。

「その『お人好し』って、もしかして気が弱くて未練がましいって事?」

 そう尋ねると「そうでなきゃ壊れた洗濯機の話をわざわざ話したりしないだろ」と言われて、何も言い返せなかった。

「負の感情を持ってる人や『お人好し』以外の人はどうなの?」と尋ねたら、「そういう人は洗濯機に『憑い』たりしないから」との事だった。

 その晩はイマイチ酔えないまま家に帰った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] よくできた話だと思います、説明がしっかり入ってて、内容が分かりやすかったです。 [気になる点] ホラー感はあんまりないと思います。 [一言] 小説を投稿する際に、 名前欄を空欄にすると作者…
2018/12/23 21:40 退会済み
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