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2-1王都へ


 タウル村から乗った大きな幌馬車には他の冒険者たちも乗り込んでいたため、ある者は殺意を込めて、ある者は羨ましそうに、ある者は嫉妬の眼差しでオレとエレーナを見ている。


 居心地の悪いオレと違ってエレーナは毅然とした態度で目が合った人に微笑んでいた。


「もう知っている者もいるだろうが、レインとエレーナくんは近々結婚する。先程は我々六人で体長二十メートル以上の首長竜を倒したが、私とエレーナくんやジュディくんたちはあくまでレインの支援をしただけだ。しかも、レインはその首長竜を丸ごと魔術コンテナに入れて平気な顔をしている。流石はエノス島の魔術士だ」


 ユリウスが笑いながら話すと、エレーナはモジモジして、幌馬車に同乗していた冒険者たちは絶句する。



 馬車ギルドの停留所で市内循環の荷馬車に乗り換えて冒険者ギルドの前で降りる。


 ユリウスは近くにいた冒険者にコンラッドへの伝言を頼んでから、冒険者ギルドに入らずに隣の商業ギルドに入った。

 そして、受付の職員に商業ギルドの支部長との面会を申し込む。


 帰り支度をしていた商業ギルドの支部長は少し不機嫌だった。

 ユリウスが意地の悪そうな笑みを浮かべながら首長竜の売却の話をすると、商業ギルドの支部長は腰を抜かすほど驚き、這いつくばるように支部長室から出て行く。


 程なくして戻った商業ギルドの支部長はユリウスが顔をしかめるほど笑みを絶やさない。

 オレたちは必要な部位の肉、外皮、前足の骨、牙のパーツのリストを渡し、買取り金額は全重量の計算が終わる火曜日以降となった。


 商業ギルドの倉庫で魔術コンテナから次々に首長竜のパーツを出して並べる。


 この倉庫自体が巨大な冷蔵庫兼解体場になっているらしく、入室を許された商人や解体職人はあまりの大きさに、しばし呆然としていた。

 ほとんど血の流れない切り口を見て数人の商人は嘆いている。


「王国内でここ半年ほど竜は獲れていないから、大金貨六千で仕入れても十分だ」

「何を仰いますか、二十トン以上はあるだろうから大金貨六千五百だろう」

「いやいや、火曜日の朝の王都便に間に合えば、私は大金貨七千五百でも買うぞ!」


 商人たちはこの場でオークションを始めたかのように大声で牽制し合っている。


 再び商業ギルドの支部長室で話し合い、オレたち三人は火曜日に王都へ向かう事となった。


 解体職人たちは今から二交替で部分解体、重量計算、オレたちの渡したリストにある解体をして、月曜日の朝までには全てを箱詰めするようだ。

 商業ギルドの要請で火曜日の朝までC級以上の冒険者十人を二交替で警護要員を派遣すると決まる。


 エレーナは警護要員の確保に急いで冒険者ギルドに戻ったが、すぐにクレメンテ大隊長と一緒に戻って来た。

 警護任務の人選はコンラッドに任せたようだ。


 火曜日出発の王都便には大隊長と十名の兵士が護衛任務に参加するという。

 クレメンテ大隊長は王国軍本部から呼び出しがあったらしく、商業ギルドの支部長は大喜びして何度もクレメンテ大隊長に礼を言う。



 冒険者ギルドではコンラッドと九人の冒険者がオレたちを待っていた。

 何故かその中にはA級冒険者のルドルフもいる。


「支部長、私も参加させていただきます。夜間は獣人族に敵う者はおりませんから。それと、首長竜の討伐、おめでとうございます」

「支部長、私も参加させていただきます。元A級ですが報酬も魅力なので、絶対に業務に支障は来たしません。全員B級以上の猛者ばかりです。これから夜間メインの二交替で警備に当たります」


 ルドルフだけでなくコンラッドまでも参加してくれるようだ。



 別館の前には見知らぬ馬車が停まっていた。

 ユリウスは馬車が停まった瞬間に自分でドアを開けて降りる。


「接触禁止だという通達を忘れたか! 帰えるんだ!」


「――いいえ、それは出来ません。もう私たちは首長竜討伐の関係者ではありませんか? 私たちには口裏を合わせる必要があるのです。今日中にお話の場を設けなければ、私たちは外出すらできません」


「……そうだな、分かった。君たちは私と一緒に屋敷に来るんだ。食事の後に全員で話し合おう」

「――ありがとうございます」

「聞いての通りだ。お風呂と食事の後に昨日の部屋で話し合おう」


 ユリウスは再び馬車に乗ると、ジュディの馬車を引き連れて屋敷へ向かった。


 今日もカミル神父はムッとしてオレを待っていた。

 屋敷に帰れよ……ユリウスの弟なのだろう。


「神父様、また何かあったのですか?」

「レイン様、どうして私に最初に相談してくれないのですか?」


 あ、そっちで怒っているのか。


「お金の目処が立ってから話をしないと、神父様に心配させてしまうと思ったのです」


「そうでしたか……レイン様、ありがとうございます。それと、我が家ではいつも使用人と一緒に食事をするのが習慣なのです。構いませんか?」

「それは素晴らしいですね! 師匠が神父様を信頼していた理由が分かりました」


 ここは神父の家だったのか……何故かカミル神父は泣きそうな表情で何度も頷いた。


 コック二人も一緒に計八人で同じ料理を食べる。


 食事中の雑談で首長竜を倒したとエレーナが口を滑らせると、使用人は絶句し、カミル神父は喉に何かを詰まらせたらしく悶絶していた。

 レンゾというコックに魔ウサギの解体を頼むと、二つ返事でOKしてくれる。



 何故か当然のようにエレーナはオレと一緒にお風呂に入る。

 ベルタはニヤリとしただけでお風呂のタオルを追加してくれた。


 ドアが閉まった瞬間にエレーナはオレに抱き付いて泣き出す。

 オレはエレーナの頭を撫でていると、それだけでパオーンとしてしまう。

 困ったモノだ。


 エレーナは泣き止むと、物凄い勢いでオレの服を剥ぎ取る。

 そして、自分の服をもどかしそうに脱いだ。

 お互いに身体を洗い合い湯船に浸かる。


「二日連続でお風呂に入れるなんて初めて……レインのお陰ね」

「エレーナさん、相談したい事があります」

 エレーナは何を勘違いしたのか、怯えた表情でゆっくりと頷く。


 午前中の出来事と首長竜の売却したお金の使い道を話す。


「今朝、私はレインに一生付いて行きます、と言ったハズですが……信じてもらえませんか?」

「信じていますよ。でも、贅沢したいとか、高価な物が欲しいとか、ないのかなと思って……」


「そうですね。王都に行くなら新しい服を一着と片手剣を買おうと思います。あ、新しい水袋も。そんな事より、子供たちに無料で学問を教えるなんて素晴らしいですね」

「え……それだけなの?」

「……あとは、王都でレインが喜んでくれるような……下着も欲しいです」


 エレーナは少し恥ずかしそうにしていたので、オレは嬉しくなり必要以上のスキンシップを取りました。


 お風呂でぐったりしてしまったエレーナを抱きかかえて慌てて湯船から出す。

 タオルでエレーナの身体を拭いている途中で意識を取り戻したエレーナは、顔を真っ赤にして凄く恥ずかしそうにモジモジしている。


 着替えてから魔術で温風を出して髪の毛を乾かし、エレーナの髪の毛も同じように乾かした。

 エレーナは腰に届きそうな髪を櫛で梳かしてから藍色の細いリボンで髪を一つに纏める。


「凄く似合っていると思う」

 エレーナは少し照れながら微笑んだ。



 昨日の部屋で待っていたのはカミル神父だけだった。

 カミル神父に今後のオレとエレーナの予定を簡単に話す。


「王都までは馬車で三日の距離ですから、お戻りは来週の木曜日以降になるでしょう。レイン様、王都は如何わしい貴族が多いですから気を付けてください。なるべく我が兄ユリウスの傍から離れぬように」

「分かりました」


 やはり兄弟だったのね……でも、全然性格が似てないな。


「ご内密にしていただきたいのですが……現在このリンデール市に貴族は三つですが、以前は四つでした。ヴィーラント家は前当主が違法な人身売買組織と繋がりを持っていたため、ドラン様の逆鱗に触れて悪事を暴かれた末に十年間の爵位剥奪となりました。そのヴィーラント家の次期当主であるカールハインツは地下牢獄に収監となったのです。半年後には爵位復帰となるのに……残り二貴族はユリウスを恐れているのです。次期当主であるユリウスが自分たちに牙を向けるのではないか、と。明日十時に当屋敷にて残り二貴族の次期当主とユリウスが話し合いをするそうです。レイン様、何かが起こった時に兄ユリウスを助けていただけないでしょうか?」


 カミル神父は兄の事が心配らしく、不安そうな表情だった。


「心配無用ですよ。神父様、この後の話し合いで支部長にその話を振ってくださいね」

「畏まりました」

 カミル神父は深々と頭を下げてから微笑んだ。


 魔ウサギを使った料理の話をしていると、ユリウスとジュディたちが現れた。


 口裏合わせの話し合いはすぐに終わる。

 まるでユリウスがジュディたち先に話していたかのように。


「支部長は私たちに竜殺しを名乗っても構わないと仰いましたが、それは私たちにとって虫のいい話です。こちらはどの程度ご用意すれば宜しいでしょうか?」


「用意? 何でしょう? 世間知らずのオレには意味が分かりませんが、お金の話であればお断りします」


「そういう訳には行きません! 末席とはいえ、私も貴族なのですよ」

「でしたら、名前だけで結構ですから私たちの計画に賛同していただけませんか?」


 オレは子供たちの昼間の居場所を兼ねて、学問を基本的に無料で教える教会主導で学校を建てたいと話した。


「もちろん構いませんが、学問を無料で何て……」

 ジュディは了承しながらも驚いて言葉を詰まらせた。


「私は蚊帳の外ですか?」


「いえいえ、午前中に助けた女の子やシスターたちと話して思い付いた計画ですから。この場で支部長にも話をしようと思っていました。ただ、資金面で不安だったので商業ギルドを出るまではお話できなかったのです」


「では、首長竜の売却で資金の目途が立ったという事ですね。明日当家の屋敷でリンデールにいる三貴族の次期当主が集まって話し合いをします。レインは私と同席してその話をしてください。時間は十時からなので九時過ぎには準備をしてもらいたい」

 ユリウスは嬉しそうに微笑みながら話した。


*****


 昨晩は凄かった。

 もうオレは娼館に行く事はないと思えるほど、エレーナは凄かった。


 昨晩から二度目の回復魔術を掛けたエレーナは再び嬉しそうに笑い、朝から元気なモノを左手で擦っている。

 初めてとは思えないほどエレーナは呑み込みが早い。

 エレーナに知識を教えたという近所のお姉さんに、オレはいつか何らかのプレゼントをしなければと真剣に思う。


 遅めの朝食を済ませると、屋敷のメイドがオレを呼びに来た。


 エレーナは自分で仕留めた解体後の魔ウサギと毛皮二枚を孤児院にベルタと一緒に届けるという。

 オレの仕留めた魔ウサギは今晩の食材になる予定だ。


 屋敷のメイドに連れられた先は大きな鏡のある広い部屋だった。

 椅子に座らされると、ハサミを持ったオジさんに髪の毛を素早くカットする。

 カットが終わると、二十代と思われる爆乳のメイドさんに髪の毛をセットしてもらう。


 首や肩に当たる柔らかい感触にオレはパオーンとしそうになったが、エレーナの泣き顔と怒り狂った顔を思い出して耐えた。

 頑張って耐えた。



 モンテスパン家とセンティーノ家の次期当主はユリウスとほぼ同年代だった。

 驚いた事にジュディは当然のようにユリウスの隣に座っている。


 お互いに軽く腹の探り合いをした後、ユリウスはヴィーラント家の次期当主であるカールハインツが地下牢獄に収監された理由を詳細に説明する。

 首長竜を倒した経緯を話すと、モンテスパン家とセンティーノ家の次期当主は椅子の上で飛び上がるほど驚いた。


 教会主導の学校を建設する予定である事とその趣旨を説明する。

 モンテスパン家とセンティーノ家の次期当主はお互いに顔を見合わせてから頷いた。


「学校を建設する事には大賛成ですし、我々も協力させていただきたい。ですが、教会主導となると王都の教会本部からの横槍が入ると思います。ユリウス様はどのようにお考えですか?」

 モンテスパン家の次期当主は真剣な表情でユリウスに問い掛けた。


「最悪の場合、弟のカミル神父が新しい宗派を立ち上げます。いい機会ですので王政にも横槍を入れる教会本部の守銭奴たちに裁きを与えます。三ヶ月前にエノス島から国王陛下宛てに一通の書簡が届いたそうです。王都教会本部内の悪事の詳細と関係した者たちの名前が記されていた、と国王陛下から直々に伺いました。そして、リンデールにて機会を待て、と勅命を受けました。ここに国王陛下からの書簡を預かっています。教会本部に敵対したくなければこのまま帰って欲しい」


 モンテスパン家とセンティーノ家の次期当主は大きく頷いたまま席を立たなかった。


 決断の早い三人の次期当主は最悪の事態に備えての話を始める。

 バリエンホルム家、モンテスパン家、センティーノ家から一名ずつ火曜日出発の王都便に乗り込み、王都での情報収集に当たるようだ。

 ジュディは実家のエルドレッド公爵家への根回しと協力を取り付けると約束する。


 何だか大事に巻き込まれた気がする。

 婆ちゃん、何かオレにやらせたいのならハッキリと言ってくれよ。

 教会本部内の悪事を暴いた人って誰だろう。



 オレは考えながらカミル神父の家に向かって歩いていると、屋敷の横にある小屋の辺りで誰かが魔術の練習をしていた。


 近付いてみると、小屋ではなく壁が三面だけでギルドにある弓術の練習場に似ている。


「――そうです、そのまま詠唱を続けて」

 聞き覚えのある女性の声が聞こえる。


 チラッと覗いた先には水の弾を打ち出したジュディさんの仲間二人がいた。

 オレは練習場のドアを開けて入って行くと、ジュディさんの仲間二人に警戒されてしまう。


「さっきの水を打ち出す魔術を自分にも教えてもらえませんか?」

「……いいけど、簡単じゃないわよ」

「はい。ただ、見本で打ち出す時に手に触れてもいいですか?」


 ドン引きされたがきちんと理由を話すと、二人はしぶしぶ了解する。


 一度で覚えるオレに喜んだ二人は水弾だけでなく、土弾と火弾も教えてくれた。

 破裂空気弾で学習したオレはほとんど魔力を込めずに成功させる。

 破裂空気弾のように圧縮したらどうなるのだろうと思ったが、被害が出てからでは不味いので自粛した。



 部屋に戻った時に水弾、土弾、火弾を教えてもらったと話した瞬間のエレーナの顔をオレは一生忘れないだろう。

 マジで漏らしそうになった。


 殴られる覚悟をしたオレだったが、エレーナはオレをベッドに押し倒し嗚咽を漏らして泣き出す。

 エレーナには上級の魔術を教えて欲しいと話すと、やっと泣き止んでくれた。


「教えられるのは……氷弾と硬化だけだよ」

「こうか……何の魔術?」


「物そのものを硬くする。それと、物と物の位置の固定。例えば、城壁は硬化魔術を掛けているの。でも、城壁の場合は何名かの魔術士が範囲を決めて交替で硬化を掛けているみたい。それと、これは私のオリジナルなのだけれど、服を少しだけ硬化させるの。私の胸は少し大きいでしょう、走ると揺れてイヤらしい目で見られるから、あまり揺れないようにブラウスを少しだけ硬化しているの」


 オレは触ってみて初めて気付いた。


 興味本位でブラウスをずっと触っていると、エレーナは勘違いしたらしい。

 ブラウスの【硬化】をいきなり解いてしまう。


 お互い無意識にエレーナの胸の先端とオレの下半身に硬化魔術が掛かったようだ。

 何度か唇を重ねていると、一時を知らせる鐘が聞こえてしまった。



 モヤっとした気持ちのまま市内循環の幌馬車に乗り込む。


 最初に服屋に行き、エレーナの服を二着、エレーナの見立てでオレの服を二着購入する。


 次に雑貨や旅支度の商品を扱う露店で薪、豚毛の歯ブラシ、二種類の水草の籠、木製食器、スプーンやフォーク、石鹸、尻拭き用の紙、二種類の魔核ランタン、容量一リットルほどの蓋付木箱三つ、大きい鞄、大きめのテント、防水効果のある厚いシート二枚、大小三種類の桶、水袋を五つと大きめの水袋も三つを購入した。


 何か購入した後は人気の少ない場所で【魔術コンテナ】に放り込んでいたので、ほとんど手ぶらで買い物ができた。


 武器屋でエレーナ用にスモールソード、クロスボウと矢を五十本も購入し値引きしてもらう。

 三軒の防具屋でエレーナの防具を見たが重過ぎて動けないと却下された。



「――ねえねえ、女性用の防具を探してるなら、私たちの工房に来てよ」


 驚いて振り向くと、二人の小人族の女性が自信満々の表情で立っていた。


「どんな感じの防具がいいの?」

 エレーナは首を傾げて何やら考えている。


「もしかして、ジロドー姉妹さんですか?」

「ジロドゥーよ」

「間違えてすみません。行きたいです」


 エレーナは嬉しそうにジロドゥー姉妹の後に付いて行く。



 ジロドゥー姉妹の工房は裏通りの一軒家の中にあった。


 家の中は色々な服やローブ、ドレス、防具が所狭しと飾られている。

 扉のない奥の作業部屋には獣人族の男性と人族の女性二人が革や布を縫い合わせていた。


 元々は女性服専門だったらしいが、数年前から女性冒険者の要望でローブや防具を作り始めたという。

 ギルド職員のエレーナが知っているのだから評判はいいのだろう。


 エレーナとオレの要望を聞きながらジロドゥー姉妹は次々とエレーナに防具を試着させる。

 オレは布のローブを触ると、薄い布が何重にもなっているのに表面が硬く感じる。

 何となくオレのバトルローブと触り心地が似ていた。


「――お兄さんのローブは小人族秘伝の織物に少し似てますね。どちらで買ったのですか?」

「師匠からの貰い物だから分からない」

 背の少し高い方のジロドゥー姉妹はオレの答えに残念そうな表情を浮かべた。


「少し見せてもらえませんか?」

「いいけど、切り刻まないでね」

「もちろん!」

 背の少し高い方のジロドゥー姉妹は大喜びでオレのローブを丹念に見始める。


 エレーナは黒のバトルローブと暗い赤の防具を着ていた。

 胸からお腹を保護する布の防具は驚くほど固くて軽い、とエレーナはニコニコしている。


「お兄さんは……エノスの人?」

「そうだよ」

「……やっぱりね」

 背の少し高い方のジロドゥー姉妹はローブをオレに返しながら、呆れたような顔をしていた。


 エレーナの着たローブや防具は試作を兼ねた特製らしく、十着ほど完成したら王都で売る予定のようだ。


 エノス製の織物に小人族秘伝の特殊加工のバトルローブは、オレのローブと同じように動き易さを損なわずに全身を覆うために折り目や切れ目などがある。

 自分の給料のほぼ四年分の値段を聞いたエレーナは気を失いそうになったが、大金貨二十一枚のところを大金貨二十枚にオマケしてもらう。


 エレーナはジロドゥー姉妹や他の職人さんが赤面するほど、何度もオレにキスをした。


読んでくれた方々、ありがとうございます。

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