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1-8訓練が……デカブツ討伐


 城門近くの馬車ギルドでタウル村行きの小さい幌馬車に乗り込む。


 タウル村は第一防壁の両端の大陸側に作られた二つの開拓村の一つで、反対側はルム村と呼ばれている。

 この時間から防壁に向かう人は少なく、乗客はオレたちを含めて五人だけだ。


 時間がもったいないという事もあり、幌馬車の中でサンドイッチだけの昼食を済ませる。


 一人だけ魔獣の外皮でできた胸当てを付けたエレーナは少し暑いらしく、薄着のオレとユリウスを恨めしそうに見る。

 オレが魔術鞄から水袋とコップを出すと、エレーナはニコニコしていたがコップに注いだのが水だと分かると、微妙にガッカリしていた。


「何これ……リンゴの味がする。美味しい!」

 リンゴ水を一口飲んだエレーナは驚いていたが、次の瞬間一気に飲み干しておかわりを要求した。


 ゆっくりとした馬車に揺られて一時間ほどでタウル村に到着する。


 冒険者ギルドの看板のある防壁ドアは頑丈そうな鉄製だった。


「開けてもいいか!」

 ドアの五メートルほど真上にある見張り台の兵士たちにユリウスが声を掛けた。


「支部長じゃないですか! 見える所に魔獣はいませんが、昼前に北の森近くで何かあったようです。さっき若い冒険者たちが逃げ帰って来ました。気を付けて!」

「ちょっとした魔術の練習なので夕方には帰ります。ついでに北の森を偵察します」


 クロスボウや弓を持った見張り台の兵士たちは手を振って答えた。



 アップダウンのある街道を三人で話しながら歩く。


 二キロほど歩いた頃、街道から海側の五十メートルほど離れた草むらに何かが動く気配に気付いた。


「大きい魔ウサギがいるね。大き過ぎるから持ち帰れないけど。狩ってみる?」

 先頭を歩いていたユリウスは足を止めて指差す。


「私にやらせてもらえませんか? ちょっと魔ウサギには苦い記憶があるので、破裂空気弾で仕留めます」

 エレーナは少し怖い笑みを浮かべる。


 オレはエレーナと一緒に大きい魔ウサギに近付くと、奥にもう一匹いた。

 去年狩った魔ウサギよりデカい。

 手前の奴は大きい猪と変わらないサイズだ。


 オレはユリウスに師匠から教わった手信号でもう一匹いる事を伝える。


 最初に見付けた魔ウサギをエレーナが、もう一匹をオレが仕留める事になった。

 エレーナのサポートをユリウスに任せ、オレは【魔術コンテナ】から爺ちゃんからもらった片手剣とクロスボウを取り出す。


 片手剣を背中に装備して魔ウサギの側面三十メートルほどの位置でクロスボウを構えた。

 エレーナの放った魔力の発散を感じた瞬間、オレはクロスボウの引き金を引く。


 オレの放った鉄の矢は魔ウサギの頭に深々と刺さって絶命し、エレーナの破裂空気弾を喰らった魔ウサギはピクピクと足を痙攣させている。

 すると、エレーナは腰の短剣を抜いてダッシュし、両手で魔ウサギの首辺りを突き刺す。


 血だらけの短剣を持ったまま嬉しそうに笑うエレーナは怖く、カッコイイ。


「魔ウサギの肉は美味しいから高く売れるけど、仕方ないね」

「じゃあ、持ち帰りましょう」

 オレは素早く鉄の矢を抜いた瞬間そのまま魔ウサギを【魔術コンテナ】に放り込み、エレーナの倒した魔ウサギも【魔術コンテナ】に放り込んだ。


「レイン、魔術コンテナにそんなに入れて大丈夫か?」

 ユリウスは心配そうな表情をする。


「大丈夫ですよ。以前、二日以上も五メートルほどの丸太を八十本以上入れたままでも平気でしたよ」

 ユリウスは苦笑いをしただけで何も言わなかった。



 ユリウスとエレーナに実演してもらいながら破裂空気弾の練習をする。


 オレは五回の失敗で下手に詠唱しようとするのがダメなのではないかと気付き、小さい木の杖を持つエレーナの右手首に触れてもう一度実演してもらう。

 どのような魔力がどう流れるのか、ハッキリ分かりました。


 オレは頭の中で素早く空気を圧縮、更に圧縮、もっと圧縮、ついでに圧縮して標的にしていた二十メートルほど先の丘の崩れた面に【破裂空気弾】をブッ放す。


 何この衝撃波! 人に直撃させたら軽く逝っちゃうレベルの威力なんですけど。


 土埃まみれになって尻餅を突いたユリウスとエレーナが無言の抗議をしている。

 丘の崩れた面はなくなり五メートル以上の円形状に大穴ができていた。

 ユリウスは風魔術の応用でオレとエレーナの土埃も一緒に吹き飛ばしてくれる。


「レイン、魔獣以外に破裂空気弾は絶対に使うな。絶対だぞ!」


「一度全力で撃ってみたいのですが、何処かいい場所はありますか?」

「……来週は海に向かって練習しよう。ドランがお前に攻撃魔術を教えなかった理由が分かった気がする」

「そうですね……」


 ユリウスの意見に同意したエレーナはまだショックから立ち直れないようだ。



 ユリウスを先頭に三キロほど離れた北の森と呼ばれる広い森に向かって歩く。


『――おーい!』


 百メートルほど離れた進行方向から五人組が現れた。


 必死に走って来る五人の姿にオレたちは三人で顔を見合わせる。

 女性三人と男性二人のパーティーで女性は片手剣に大型の背負い鞄、クロスボウに短剣、ローブに短剣を装備し、男性は大型の長剣に魔ウサギを背負い、大盾と片手剣に大型の背負い鞄を装備していた。


 クロスボウに短剣を装備した二十代の女性がリーダーらしく、息を整えると挨拶する。


「あ、あれ? 何で支部長が……あ、エノスの……どうして受付の人もいるの?」

「来週この二人に調査の依頼をするので、その練習だ」


「そうですか……それより、支部長、北の森の奥で何かあったみたいです。魔獣が奥の方からどんどん湧いてくるんですよ。それと、森の奥でかなり大きい魔術を使った魔術士がいるのです」


 二十代の女性リーダーは束にした様々な魔獣の尻尾や様々な大きさの魔核を見せる。


「大猟だね。どんな魔術だったか分かるかい?」

「私は基本ヒーラーなので分かりませんが、空から細い竜巻が落ちるような魔術でした。しかも、さっき向こうからは物凄い土煙が見えました」


 ローブに短剣を装備した十代後半の女性はオレたちが来た方角を指差した。


「ああ、土煙はレインの魔術だから……君たちが森の奥で見た魔術は冷撃かも知れない。すると、B級以上で風と水の得意な魔術士がまだ森の奥にいる訳だな。エレーナくん、心当たりはあるかね?」


「B級以上で風と水の得意な魔術士だと……四人しかいないと思います。二人は昼前にギルドで見ましたから……確かルドルフさんのパーティーはルム村近くに行っているし、いつも赤いローブを着ているジュディさんだと思います。でも……ジュディさんのパーティーは女性三人だけですよ。森の奥には行きませんよね?」


「あ、ジュディのパーティー……三人とも方向音痴なんですよ……」


 二十代の女性リーダーは頭を抱えた。



 北の森の手前で五人組のパーティーに待機してもらい、オレたち三人は森の奥へと進む。


 オレとユリウスはエレーナを五人組のパーティーと一緒に待機させるつもりだった。

 必死に抵抗するエレーナは、そんな事では明後日からの開拓村近くの森に出没する魔獣の調査などきちんとできるハズもない、と言って怒り出した。

 オレとユリウスは仕方なくエレーナを連れて森に入った訳だ。


『誰かいるか?』


 ユリウスは【拡声】という風魔術で森の奥に向けて叫ぶ。


「――シューーーーーーーーーーッ」

「な、何、今の?」

 エレーナはオレの近くに寄り、怯えながら辺りをキョロキョロと見ている。


「これはかなりマズイな……竜だ。あんな長く鳴くのだから、かなりの大きさだろう。竜の種類によっては私の雷撃でも倒しきれない」


「そんな……」


「レイン、剣に魔力を込めた斬撃はできるな? お前が囮になって奴の足を止めろ。奴の頭に雷撃を放つから、奴を斬れ。エレーナさんは背後を警戒してくれ」


「はい!」

 エレーナは少し震えながらユリウスの指示に従う。


「――首長竜二十メートル以上……」

 風魔術の拡声を使ったらしい声は女性だった。


「――シューーーーーーーーーーッ」

「……ジュディさんのようですね。首長竜であればスピードは遅いハズだ」

 ユリウスは少し動揺しているようだ。


「とりあえず、どんな状況か偵察してきますからここを動かないでください。じゃあ、行って来ます」


 オレは胸ポケットから婆ちゃんからもらった方位磁針で角度を確認してから、女性の声が聞こえた方向を目指して前傾姿勢で走り出す。


「――無理はしないように」

「――レイン!」

 エレーナの怒鳴り声は良く聞こえたが、助けを待っている人がいるから……ごめんなさい。



 五百メートルほど走った辺りで首長竜というデカブツを見付けました。


 左側にある低い岩山の斜面に頭を擦り付けているデカブツは、首も尾っぽも異様に太くて長い。

 二十メートル以上なのは確かだけど……ちょっとデカ過ぎだろう。


 何かで見た事があるような気はするが、思い出せない。

 とりあえず、デカブツを誰もいない場所に誘い込みオレの魔術の練習台になってもらう。


「何人?」

「――三人よ!」

「奴を引き付けるから動かないように!」

「――分かっ……」

「――シューーーーーーーーーーッ」


 空気を読んでくれないデカブツはこちらを見向きもしない。


「強いの放つから隠れて!」

「――いいわよ!」

 あんなデカブツに喰われそうになっているのに、随分と余裕のある声だな。


 デカブツの腹に向けて先程より魔力を込めた【破裂空気弾】をブッ放す。


 五十メートルほど離れていたからか、腹を狙ったハズなのに腹の真下で破裂して泥や何やらが盛大に飛び散った。


「ギューーーーーーーーーーッ」


 あ! 鳴き声が変わった。


 近寄ってもう一発と思っていたら、オレはデカブツに気付かれてしまう。

 形振り構わずと言った感じで若木をなぎ倒しながら、軽い地響きと共に突っ込んで来るデカブツに、今度は更に魔力を込めた【破裂空気弾】をブッ放す。


「ギューーーーーーーーーーッ」

 今度は狙った胸元に直撃したのはいいが当たる角度が悪かったらしく、泥や何やらが盛大に飛び散る。


 再びデカブツは凄い勢いで突っ込んで来るので、喰われないように素早く逃げ回り有利に戦えそうな場所を探す。

 見つけました! ほんの少し大木が密集している場所。


 素早く狭い場所に潜り込んで振り返ると、デカブツは既に頭を高く上げ口を大きく開けて突っ込んで来た。

 オレは反射的に身体から五センチの【障壁】を張りながら横に飛ぶ。

 デカブツは大木に口先を凄い勢いでぶつけて、地響きのような振動と共に倒れた。



 デカブツはしばし気絶中のようだ。


 竜ってバカなのかな? もう少し知能があってもいいような……。


 何だかデカブツの頭が激突した大木が不自然に曲がっている気がする。


 オレは防御魔術を解いて片手剣を抜き、師匠に教わった【魔力斬撃】でブッ斬る。


 頭のすぐ後ろで首と胴体が切断されたデカブツは物凄い勢いで血を吹き出した。

 幸い反射的に身体から五センチの障壁を張ったため難を逃れる。


 短剣を逆手に持って物凄い勢いで走って来たエレーナはオレを見るなり、その場にへたり込んだ。

 エレーナに遅れてやって来たユリウスは半笑いをしながら上がった息を整える。

 右手から短剣を取り鞘に納めてからエレーナを抱き起すと、エレーナはブツブツと文句を言い始めた。


 デカブツから吹き出し続ける血を見たユリウスは、慌てて自分の持っていた水袋の水を少し飲みほとんどを捨てる。

 聞けば、鮮度のいい竜の血は最上級グレードのポーション生成に欠かせないらしく、王都のポーション造り専門の魔術士に売るとコップ一杯で大金貨三十枚になるようだ。


 デカブツの手足、長い首、尾っぽを【魔力斬撃】でブッ斬る。

 旅用に用意していた桶に血を集め、エレーナの水袋と空の十リットルほどの水袋をデカブツの血で満たす。


 盗難防止のためにデカブツの血で満たしたユリウスとエレーナの水袋もオレが預かった。

 ユリウスはデカブツの前足の断面を見て嬉しそうに微笑んでいる。


「この骨で魔術杖を作れば精度や威力がかなり上がると思う。リンデールには有名な職人がいるから杖を作らないか? このサイズなら大杖だって十本は作れる」

「小杖と中杖が欲しい!」


 エレーナはどこか遠くを見るような表情をしていた。



 ブツ切りにした首長竜を【魔術コンテナ】に入れても何の問題もなかった。


 ユリウスがジュディたちを連れて来ると、エレーナは澄まし顔でオレの左手を握る。

 ジュディはしばらくジト目でオレとエレーナを見てから礼を言い、悔しそうに顔を歪めてパーティーメンバーの二人に慰められていた。


 足早に歩くジュディの両サイドをパーティーメンバーの二人が周囲を警戒している。

 まるで我がままお嬢様と武装侍女たちのようだ。



中途半端に区切ってしまいそうですが、これで一章は終わりです。

少し加筆修正しました。

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