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2-12帰還


 最初の休憩地に着くと、神父と二人のシスターが挨拶に来た。


 三人はオレたちの当面の目標である学校と教会や孤児院の手伝いをしてくれるという。

 聞けば、二十代後半のシスターは無詠唱の回復魔術に興味があるらしく、勉強させてください、とやる気満々だった。


 一泊目の野営地は前回の休憩地だった場所だが、何も問題はなかった。


 野営地に問題はなかったがエレーナには多少問題があったとだけ言っておく。

 いくら音を遮断する魔術を掛けていたとしても、正直オレは冷や冷やしていた。


*****


 二泊目の野営地で夕食中にお腹を空かせたらしい魔ザルの大群に襲われる。


 見張り台からの報告で先手を取ったオレたちは柵に魔ザルが近付く前に迎え撃つ。


 魔ザルは大きな音を極端に恐れるとミルヴァから聞いたので、オレは全力の【破裂空気弾】を群れの真ん中にブッ放ち、エレーナは向かって来る数の減った魔ザルに【氷弾】を連射する。


 残りは数人の冒険者がクロスボウを放ち何匹か倒すに止まった。

 魔ザルの半数以上は逃げてしまったが、まあ上出来だろう。


*****


 翌朝クロスボウの矢の回収に向かった冒険者は六十匹以上の魔ザルの死体を確認したようだ。


 昼食を素早く済ませたオレとエレーナは、一緒に魔ウサギを狩りに出掛けたが結果は一匹のみだった。

 リベンジに最後の休憩で何とか魔ウサギを二匹狩れてオレとエレーナはホッと胸を撫で下ろす。


 予定より少し遅れて商業ギルドの倉庫に到着する。


 オレが所有する事になった馬車三台と馬三頭はしばらく大隊本部でお世話になる事になった。

 ミルヴァとヤーナはまだ王都便の荷下ろしが終わらず、あと一時間ほど掛かるという。

 オレとエレーナは近くにあるジャンの倉庫に行き、小麦の種と鉄を降ろしてから商業ギルドに戻る。


 商業ギルドの倉庫前では今回王都便の護衛任務に就いた冒険者全員がオレとエレーナを待っていた。

 口々に礼を言われ、オレとエレーナは何がどうなったのか理解できない。


「国王陛下から特別報酬が出た。王都便の報酬が金貨四枚から十枚に増えてた。ビッグボアの売却金も入れると、私だけで金貨二十七枚になった」

 ヤーナはよほど嬉しいのか珍しく早口だ。


「まだ国王からのもう一つの報酬があるだろう。最低でも同じくらいは貰えると思うぞ」

「それはない。だって一時間ただ周りを警戒していただけ」


「それが、S級魔術士は地下通路に突っ込もうとしていた。それだけじゃなく倉庫近くに武装神父が待機していた。手際の良さと人数に驚いて逃げたようだ。だから少しは期待して大丈夫」

 ヤーナは笑いながらガッツポーズをする。


「今日はヤーナと月極めで借りている部屋に戻るね。荷物もあるし、いきなりも悪いし、ヤーナと話もあるから」

「ミルヴァ、いいの?」

「……明日と明後日は私だからね」

「……分かった。それでいい」

 オレは何となくエレーナとミルヴァの会話の内容は分かったが、嬉しさのあまり敢えて黙っていた。


「そうだ、本当に明日でいいの?」

「うん。できるだけ早めにヤーナのお母さんに会って教師をしてくれるか確認したい」

「分かった。じゃあ、明日早めに教会に行く」

 ヤーナはミルヴァと一緒に手を振りながら帰った。


 ユリウスとトゥーニス親子の待つ冒険者ギルドに向かおうとすると、大慌てで王都便の責任者が走って来る。


「あれ? ミルヴァさんは?」

「もう帰りましたよ」

 オレが答えると、王都便の責任者は少し困った表情をしている。


「……そうですか。一角獣二匹なのですが、一匹が大金貨五十五枚でもう一匹が九十三枚なのです。どちらがどの一角獣を倒したのか分からないので、足して半分でよろしいですか?」

「私はそれでいいです。ミルヴァもそれでいいと言うと思いますが、明日一緒に来ますね」


「希少種とはいえ、一角獣がそこまでの値段になるものですか?」

「最初に競り落としたのは王家だったらしく、次は一気に跳ね上がってしまったのです。最終的には侯爵家が競り落としたようです。では、また明日」

 王都便の責任者は足早にギルド内に消えた。



 久しぶりのカミル神父の家は何だか懐かしく感じてしまう。


 馬車が止まった瞬間に慌ててレンゾまで現れて、オレたちを出迎えてくれた。

 カミル神父はまだ帰っていないらしく、オレが代わりにトゥーニス親子を皆に紹介する。

 そして、明日からもう一人女性が増えると話すと、エレーナから軽いジャブが入ったので、婚約者が増えると言い直した。


 カミル神父はトゥーニス親子を歓迎し上機嫌になっている。


「実は、今回の旅でミルヴァという婚約者が増えました……」

「いつから我が家に? 何も気にする事はありませんぞ。どちらも疎かにする事のないよう注意してくだされ」

 カミル神父はオレの話の途中で口を挟み満足そうだ。


 以前のように入浴後の話し合いをユリウスの到着を待って始める。


 先ずはトゥーニスとテオの希望を聞いてみると、トゥーニスは教会に見習い神父として働きたいと言い、テオはお父さんと一緒ならそれでいいようだ。

 当面はここに住み教会近くの空き物件を借りる事になった。


 王都から来た神父と二人のシスターの内一人はカミル神父の知り合いだった。


 サイラス神父とシスタージルダは夫婦なので、カミル神父は信者から紹介された小さい平屋に案内済みのようだ。

 もう一人のシスターカトリナはアルフレート司教の孫娘らしく、とりあえず今日は孤児院に泊まらせたという。


「そういえば、シスターカトリナは回復魔術を使えるみたいですよ。無詠唱の回復魔術に興味があると言いましたし」

「まさか……ああ……」

 カミル神父は急に青い顔をして落ち着かなくなった。


「……お前がハイディの事を忘れられないのは知っている。でも、もうすぐ十年だ。会わずに見合いを断ったというのに来てくれたのだ、諦めろ。いいな?」

 ユリウスは笑いを堪えながら言い放つ。


「ですが……シスターカトリナはハイディの妹ですし……歳は十も下ですぞ」

「羨ましい限りではないか! カミル、バリエンホルム家の男として子を残せ」

「……はい」

 カミル神父は諦めたかのように答えた。


 テオは疲れてしまったらしくトゥーニスに抱かれて部屋に戻る。


「カミル神父の家は居心地が良いのですが、妻を迎えますし、家を買おうと思っています。物件はエレーナとミルヴァに決めてもらうのですが、もちろんここに近い物件で馬と馬車も置けるほどの広さにしようと思っています」


 オレは馬三頭と馬車三台を手に入れた話をカミル神父に話した。

 小麦の種を大量に入荷した思惑を話すと、カミル神父は涙を流してしまう。


 現在孤児院が開墾した畑の近くを更に開墾するか、近くの畑を買うか借りるかを話して、学校の件も含めて今後は全員の伝手を使って情報収集をしようと決めた。

 ミルヴァの親友であるヤーナの母親の話をすると、カミル神父は号泣してしまう。


 シスターたちが交替で学問を教えてはいても専門的には教えられない。

 親がいないというハンデがあっても学問ができれば自ら道を開ける可能性は高くなる。

 この考えは婆ちゃんがオレに植え付けた考え方だったが、みんなには師匠の教えだと話した。


「エレーナくんには今後非常勤顧問になってもらおうと思う。ギルド本部の了解は取ってある。これから他の町に行く事もあるだろう。行った先のギルド支部の非公開情報を見られるのはメリットになるハズだ。手の空いている時はギルドの仕事を手伝ってくれると助かる。ただ、給与は下がってしまう。了承してもらえるだろうか?」

「支部長、ありがとうございます」


「それと、レインは明日からB級冒険者だ。明日にはカードを渡す。あと、王都での報酬だが、レインは三百、エレーナくんとミルヴァくんは百、ヤーナくんは五十。もちろん大金貨だ。国王はもっと出そうとしていたが、私が断った。受け取りは商業ギルドに登録してもらった方が都合いい。納得してもらえないだろうか?」

 オレとエレーナは顔を見合わせてから頷いた。


「そうだ、カミル神父。アルフレート司教がありがとうと言ってました。それと、治療もしておきました」

「一昨日届いた手紙には遅効性の毒を盛られたようだと書かれておりました。S級魔術士も諦めたと……進行を遅らせるのが精一杯だと」


「はい。たまたま気付いたので治療させてもらいました。アルフレート司教は一部の改革派の罪を全て被り、自ら命を絶つ覚悟だったようです。でも、約束しましたのでご安心ください」

 カミル神父は立ち上がって深々と頭を下げた。



 王宮で会った幽閉の森の情報屋の事を思い出していた。


 オレに何かさせたいのだという事は分かっている。

 五人までなら招待するとは言っていたが、正直に言えば一人で行った方が敵対した時に全力で戦える。

 だが、エレーナとミルヴァは許可してくれるとは思えない。


 どうしようかな。


 やはりエレーナとミルヴァにはちゃんと話してどうするか決めよう。

 一緒に行く事になると思うが、それまでにもう少し攻撃魔術のバリエーションを増やした方がいいだろう。

 もう少し遠距離攻撃できる魔術があればいいのだけれど。


「もう私では満足できませんか?」

 オレは慌てて横を向くと、エレーナは悔しそうに涙を浮かべていた。


「どうしたの?」

「ミルヴァの方がいいのですね……」

「そんな事はない。王都で変な人と会ったから、ちょっと考えていただけ。オレはエレーナに夢中だよ」

 少し強引にエレーナを抱き寄せると、エレーナは戸惑いながらも自分から身を寄せる。


「ミルヴァも一緒の時に話してくださいね」

「ありがとう。嫌な思いをさせてごめん」

 エレーナは首を横に振り、オレの右手を握って自分の服の中にゆっくりと入れる。


 お互い望むままにオレとエレーナは愛し合う。


 オレは穏やかな表情で眠るエレーナを抱き締めながら眠りに就いた。



これで二章は終わりです。

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