表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/44

2-3出発前日


 商業ギルドの前では先日倉庫で買取り金額の話をしていた三人の商人がオレたちを待っていた。

 支部長室で商業ギルド支部長とユリウス立会いの下、三人の商人から告げられた買取り金額の合計には正直ビビった。


 先日倉庫で耳にした金額を遥に超える大金貨九千六百二十枚。


 総重量二十二トンを超え、最高の肉質だという。


 王都では大商人専用のオークションに出品するらしく、リンデールにはその資格を持った大商人は目の前の三人だけだった。

 リスクの分散も兼ねてブツ切りした部位単位で三人の商人が買い取ったようだ。


 商業ギルド専用のカードと預かり金額の合計を書かれた紙を見せられる。

 何故か大金貨九千七百枚に増え、大金貨八十枚は輸送料だという。


 毎日午前九時から午後五時の間であれば手数料なしで預金も引き出しもできるようだ。

 リンデールに限らず商業ギルドの会員に送金もできる、とユリウスが教えてくれた。

 オレは以前商業ギルドに渡したオレたちがもらう首長竜のリストの一部変更を職員にお願いする。



 お昼はユリウスの知り合いのお店でご馳走になりながら明日の予定を聞く。


 明日は六時半集合で七時半出発、幌馬車九台、荷馬車五台、王国軍幌馬車二台、騎兵八騎、兵士七名、商人八名、御者十四名、冒険者護衛十六名、乗客十二名、その他六名、計馬車十六台で総勢七十一名だ。

 その他六名がオレ、エレーナ、ユリウス、ジュディたち。


 あれ? いつの間にか王国軍の人数は増えてない?



 冒険者ギルドの会議室では護衛任務を受けた冒険者たちが、支部長であるユリウスを待っていた。


 二人一組のペアで八組が優先事項や合図だけでなく、盗賊や魔獣の交戦規定を真面目に聞いている。

 大物や群れが出現した場合はオレたち六人の魔術で撃退する予定だ。


 基本一日八時間の移動で休憩は午前に三十分、昼一時間、午後に三十分。

 予定では三日目の木曜日の午後三時過ぎに王都の商業エリアに到着するそうだ。


「質問いいですか?」

 気の強そうな二十代の女性冒険者が手を挙げた。


「どうぞ」

「私のペアも含めてほぼ全員が王都便は初めてです。王都便に選ばれたのは嬉しいですが、足手まといになるのではないかと心配です」


「その点は心配しなくていい。王都便は月に二回必ず往復しているが、商業ギルドでは時期によって毎週王都便を出すという計画もある。一人でも多くの冒険者に王都便に慣れてもらいためにも人材の育成は冒険者ギルドの急務だ。今回は王国軍も同行するが、気を抜かず、お互い助け合いながら職務に励んでもらいたい。他には何かあれば遠慮なく質問しなさい」


「変な質問ですが……王都での自由時間に気を付ける事はありますか?」

 小人族の十代の女性が恥ずかしそうに質問すると、何人かが笑い出した。


「皆、笑わずによく聞いて欲しい。王都はリンデールの十五倍以上の人が住む大きな街だ。スリや盗賊だけでなく、違法な人身売買の犯罪組織がある。君たちのように若く綺麗な女性は格好の餌食になると思われる。自由時間の際は絶対に私服で外出しない。一目で戦闘系の冒険者と分かる格好で武器は見える位置に携帯し、必ずペアで行動するように。後は、商業エリアから出ないようにして、間違っても教会近辺には近付かない。全財産を奪われて無理矢理見習いシスターや見習い神父にされる人が多いと聞く。身の危険を感じたら街中であっても音玉と握りなさい。この後、音玉は各自二個支給されるので、必ず受け取るように。いいね!」

 ユリウスは護衛任務を受けた冒険者たちに言い聞かせるように話した。


「音玉って何?」

「音玉も知らないの……大きさは小さい卵サイズで、握ると甲高い大きな音を発生させる使い捨て道具よ。街中で鳴らしたら大迷惑になると思う。だって、防壁の外では二キロ先まで聞こえるという話よ」

 エレーナは呆れながらもオレの耳元で説明してくれた。



 王都便の護衛任務を受けた冒険者たちは選ばれた時点から仕事が始まる。

 比較的安全で高給なため安定志向の冒険者には人気が高く、以前は選ばれなかったペアが選ばれたペアを逆恨みして殺傷事件もあったらしい。


 王都では交替で一日自由時間があるようだが、今回選ばれた八組のペアはこの説明会が終わったら、持ち物検査と冒険者ギルドから武器や装備を貸与されて練習場で一時間ほど練習する。

 その後、商業ギルドに直行して馬車の警備に当たり、月曜日の午後から来週の木曜日の夜まで警備に当たり一人金貨四枚だという。


 連続で王都便の護衛任務はダメらしく、その辺はギルドが上手く管理しているようだ。


 応募は基本どちらか片方がC級以上の同性のペアで申し込み、夫婦での申し込みは結婚半年以上と女性を配慮した規則がある。

 今回の八組の内訳は王国軍も同行する事から女性ペアを多くしたらしく、女性四組、男性二組、夫婦二組になっている。


 冒険者ギルドは女性冒険者をとても大切にする。


 特に新人女性冒険者は男性冒険者に騙される、慰み者にされる危険性が高い。

 新人女性冒険者はギルドから女性のいる数パーティーを紹介され、お試し期間が必ず設けられる。


 そして、最低でも週に一度はギルドの女性職員と面談を行うという規則がある。

 更に、望まない妊娠を防ぐために半年近く効果のある避妊魔術を無料で受けられるサービスすらあるらしい。


 女性冒険者をレイプしたクズは去勢され犯罪奴隷になるようだ。

 女性冒険者の虚偽報告もあるため徹底的に調査される。


 以前、盗賊に集団でレイプされた新人女性冒険者は散々脅されて自殺してしまい、家族からの報告で発覚したが、盗賊は逃げてしまった事件があった。

 だが、冒険者ギルドが盗賊全員に高額の賞金を懸けた事で半年後には全員殺害されるか、去勢され犯罪奴隷になった、と初心者講習で聞いた。


 リンデールの冒険者ギルドに登録する六割の冒険者は魔獣と戦わない。


 贅沢は出来ないが魔獣と戦わなくても生活はできる。

 まあ、贅沢はできないが。


 建築作業、農作業、庭の芝刈り、迷い動物の捜索、老人介護だけでなく、話し相手という依頼すらあるのだ。

 一日で複数の依頼をこなす冒険者も多いと聞く。

 彼ら彼女らは『城内冒険者』と呼ばれ、本業を持つ人が暇な時に依頼を受けたりする事もあるようだ。


 以前エレーナから聞いた冒険者ギルド内にいる盗賊の対策だが、ギルドは盗賊を捕まえた冒険者や情報を提供した冒険者にも高額の賞金を出している。

 それに、支部長か副支部長が許可すれば、城内冒険者は囮捜査すらやるようだ。


 護衛任務を受けた八組が会議室から出ると、王国軍のクレメンテ大隊長と王都便の商業ギルドの責任者が入って来た。


 王都便の隊列の順番と配置を話し合う。

 当然のように王国軍幌馬車が前後の警備に就き、二番目と三番目は重量の重い荷馬車となり、続いて幌馬車十二台となる。


 騎兵は二騎ずつ前後に配置に残り四騎は等間隔にジグザク配置。

 オレたちは四番、九番、十四番の幌馬車に乗り込む。


 食事や寝床に関してオレたち六人の意向を聞かれた。


 御者と護衛任務の冒険者は無料で乗客は有料のようだ。

 オレたちは無料だが期待はしないでもらいたい、と王都便の責任者に言われてしまう。


 ユリウスは王国軍に頼んだらしく、ジュディたちは両方を王都便の責任者に頼む。

 オレとエレーナが両方断ると、ジュディは羨ましそうに見ていた。


「支部長、オレたちの交戦規定はどんな感じですか?」

「二人には四番目の幌馬車に乗り込み、交戦規定はクレメンテ大隊長の判断に従ってくれ。緊急時は各自の判断に任せる」

「分かりました」


「では、解散にしましょう。レインとエレーナくんは残ってくれ」

 ユリウスは商業ギルドの倉庫の方を指差した。



 三人で商業ギルドの倉庫でオレの渡したリストの品を取りに行く。


 首長竜の肉二十キロの小箱を九つに十キロの小箱を二つ、外皮縦横二メートル五枚、前足の骨一本、牙十本を受け取って【魔術コンテナ】に入れる。

 首長竜は既に百個近い平積みされた一立方メートル大の新しい木箱に入れられていた。


 差出人をユリウスにして首長竜の肉十キロの小さい木箱二つをモンテスパン子爵家とセンティーノ子爵家、二十キロの木箱一つをユリウスの屋敷に商業ギルドで発送依頼する。

 ユリウスは申し訳なさそうな表情だったが、お互い様という事で納得してもらう。


 商業ギルドの受付でエレーナのギルドカードを作る。

 出来たばかりのエレーナの口座にオレの口座から大金貨五百枚を送金する。


 エレーナは心配になったのか、オレの左手をずっと離さない。

 ギルドを出て歩きながら訳を話してやっと納得してくれた。


 だって、オレは不死身じゃないから。

 もしもの時にエレーナが路頭に迷うなんて、死んでも死にきれない。



 商店街を歩いてベルタの実家の八百屋に向かう。

 玉ネギ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツなどを購入ながらベルタの母親の体調を確認すると、すっかり体調は良くなったようだ。


 近くの金物屋で大きめの蓋付鍋を二個購入する。

 エレーナと話しながら歩いていると、先週の金曜日の昼に食べたサンドイッチの屋台が目に入った。


 黒パンの大きなサンドイッチ三種類を二個ずつ買ってからカミル神父の家に戻る。



 調理場を借りて、エレーナは買ったばかりの蓋付鍋で野菜たっぷりのポトフを作る。


 その間にオレはバッファローの入った木箱から肉の塊を出し、一口サイズに三キロほど切って木箱に戻す。

 今日買った卵と山羊の乳でスクランブルエッグを作って蓋付木箱に入れる。


 オレは首長竜の肉を五キロほど切り分けてレンゾに渡すと、受け取るレンゾの手は少し震えていた。

 エレーナの作り終わったポトフを【魔術コンテナ】に入れる。


 部屋で昨日買った旅の道具を広げ、エレーナと一緒に不足の有無を確認する。


「細々した物があるから、入れる袋を作るね」

 エレーナは自分のバッグからシーツのような白い布を取り出した。


「その布に血のようなシミがあるよ」

「あ……私たちの初めての証だから、ベルタにもらったの。どうしても何か記念になる物を持っていたいのよ……」


 エレーナは顔を真っ赤にして俯いた。


「他の布を出そうか?」

「……大丈夫。シミのない所を使うから」


 エレーナはハサミを使ってシミの部分だけを切り抜いて鞄に入れた。



 カミル神父の家の裏で何度か新しく買ったテントを張る練習をする。


 新しいテントに慣れないせいか、三度も繰り返してテントを畳んだ時にある事に気付いた。

 エレーナに硬化魔術を教わっていない事に。

 そして、硬化魔術を使えばもっと簡単なのではないか、と。


 大小さまざまな袋に入った旅の道具は昨日買った大きい鞄に綺麗に収まった。

 大きな物や寝具類はそのままで構わないので、エレーナが整頓してくれたお陰で魔術コンテナの中はとてもスッキリする。


「そういえば、硬化魔術を教えてくれない? テントを張る時に便利そうだから」

「そうね。じゃあ、この布の切れ端で練習しましょう」


 エレーナは紐代わりに細長く切ったシーツの切れ端を手に取る。

 硬化させる物が小さ過ぎたらしく最初は上手く行かない。

 オレは繊細な魔力調整が苦手なようだ。


 エレーナのように服の胸元だけに硬化魔術を掛ける事は無理そう。

 試しにエレーナの服に【硬化】を掛けたら、服全体に硬化魔術が掛かってしまいエレーナは身動きが取れなくなった。


「……これはこれで凄く便利だと思う。例えば、盗賊を捕まえた時に服に硬化魔術を掛けちゃえば逃げられないでしょう。クロスボウの鉄の矢に硬化魔術を掛ければ、曲がる事もなくなるよ。それより早く解いて、本当に動けない」


「ごめん。もう五時の鐘が鳴ったけど、エレーナ用に買ったクロスボウの試し撃ちをしてみる?」

「忘れてた……早速試し撃ちしましょう」


 エレーナは素早く防具を身に着け始めた。


 練習場でエレーナの気が済むまで試し撃ちに付き合う。

 クロスボウの鉄の矢に掛けた【硬化】の効果は素晴らしく、三本の矢を繰り返し撃っても曲がった様子は見られない。

 新しく買った矢だけでなく以前から持っていたクロスボウの矢も全て【硬化】魔術を掛けた。


「氷弾もまだだったよね? 水弾の応用だから私が教えるまでもないけど……」

「魔力調整が苦手だから、エレーナにちゃんと教えて欲しい」

「任せて!」


 エレーナは嬉しそうに微笑んだ。



 カミル神父の家に戻ると、いつの間にかジュディたちリビングのソファーに座っていた。


「三人は実家に持って行く首長竜の肉はどのくらいがいい?」

「売っていただけるの?」


 ジュディは何故かオレの顔色を窺う。


「何で? お金は要らないよ。何キロくらいあればいい?」

「で、できれば私たち三人で二十キロほどお願いしたい」


「二十キロじゃ足りないだろう……さっき五キロほど切った残りで良ければ、その十五キロも一緒に王都で渡せばいい?」

「三十五キロ……」


 ジュディだけでなく、ジュディの仲間二人も絶句している。


「王都から戻ってからの話だけど、支部長の知り合いの工房で首長竜の前足の骨で魔術杖を作る予定なんだ。ジュディさんたちはどういうタイプの杖がいい?」


「ち、小さい杖でも大金貨五十枚ですよ! 私たちには無理です」

「タダですから、貰っておいた方がいいですよ。ちなみに私は中杖と小杖を頼むつもりですが、皆さんも同じでいいですか?」


 エレーナの言う事にジュディたちはただ頷くだけだった。



 首長竜の肉のシチューは絶品でステーキより美味しく感じる。

 カミル神父はステーキの方が好みらしく、真っ先にステーキを平らげてしまった。

 オレはほとんど手の付けていないステーキを半分ほど切り分けて神父に渡す。


「レイン様! ありがとうございます! 竜の肉が高い理由が分かりました。しかし……こんなにも美味しいとは……」


 カミル神父はオレが切り分けたステーキを一口一口噛み締めながら食べる。

 珍しくシーンとした食事だったが、エレーナの表情は満足そうだ。



 お風呂に浸かりながらエレーナは背中をオレの胸に預けた。


「笑わないでね……何となく幸せ過ぎて怖い。いい事のあった後には悪い事があるんじゃないか、と考え込んでしまうの。髪を切った後にレインがいなくなった、と思って凄く怖かった」


「ごめん、時間が掛かると思ったから……言っておけば良かった」

「そういえば、竜の牙を少しもらえないかな? ……魔除けのお守りにしたいの」

「エレーナが安心してくれるなら全部でもいいよ」


 オレとエレーナは少しエロい事をしてからお風呂から上がった。



 部屋で竜の牙を出して牙の生え際部分を短剣に魔力を込めて【魔力斬撃】で斬る。

 エレーナはシーツで作った小さな布袋に竜の牙の欠片を入れ、その布袋に細い革紐を通して自分の首にネックレスのように結んだ。


 エレーナはベッドの上に置いた自分の大きな鞄に着替えの服を入れながら、腰を屈めて考え込んでいる。

 オレは薄いワンピースの後ろ姿に理性を失いそうになりながらイタズラを始める。

 エレーナは何度か軽い抵抗はしたものの、背徳感溢れる変わった行為に興奮してしまったようだ。


 エレーナから『癖になりそう』のお言葉をいただきました。


 明日から二晩は行為ができない事はエレーナも分かっているらしく、エレーナはオレに尽くす行為や他にも色々してくれる。

 お返しに、オレは少し魔力を放出しながら果てました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ