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呪われた聖剣の使い手  作者: ネムリムシ
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呪いの両手

この手は生まれ持っての呪いで塗り固められている。


僕の右手は、触れた物質を聖剣に変えてしまう力がある。

その力は、僕に『親殺し』のレッテルを貼った。


母は、僕が赤ん坊の頃に、私が偶然触れた箒に焼き切られて死んだ。


父はそんな僕を殺そうとした。だが、そんな父も聖剣と化した木の枝の前に蒸発した。

文字通り気体となって溶けてしまった。


これら全てが、私の物心の着く前に起きた出来事だ。

村人は僕を忌み嫌い、恐れた。

正確には、僕の両手を恐れた。


僕は両手を使う事をやめさせられ、犬のように地を這い蹲り、犬のように飯を食い、藁の中で眠った。

僕は、自分の生まれ育った家に住むことが出来なかった。

だが、僕はこれを良しとした。

理由は、僕自身がこの村の誰よりも自分の両手を嫌ったからだ。

触れたものならば何もかもが聖剣になり、全てを焼き滅ぼしてしまう両手など、誰も望むはずもない。

僕は何度もその手を切り落とそうとした。だが、なんとも嫌な事に、聖剣は使い手を着ることがなかった。

ならば足で切り落とせばどうか?

それも無理な話だった。足では中途半端にしか力が入らない。おかげで僕の両手はなんとも醜い傷跡と赤い痣まみれだ。

僕は両手を握り、縛り付け、もう何も掴むまいとまでした。

そうして、村の端で惨めな犬のような生活を続けていた。


あの日、あの瞬間までは、この生活がずっと続くのだと思い込んでいた。



あれは、そう、明け方に沢山の天使の梯子を見た晴れの日のことだ。


いつも通り起床し、いつも通り水の入ったバケツから直接水を飲み、口でパンを食っていた。


珍しく村に来客が来たようで、村の広場に人だかりが出来ていた。


手を広げないように注意しながら人混みを掻き分けて、その中心にいる人物を見ると、そこには美しい少女と白い服の騎士が立っていた。

どうやらこれから少女が何か演説するらしい。


「静まれい!!聖女レイナ様のご来臨である。頭が高いぞ貴様ら!!」


騎士がざわめく観衆を黙らせると、


「皆さん、この度は突然の来訪で騒がせてしまい申し訳ありません。

本日、私がこの村に参ったのは、ある神託が下ったからなのです。」


聖女と呼ばれた少女の言葉に、村人は再びざわめき出した。


「ええい静まれ!!静まれ!!」


騎士がまた黙らせる。


「この度、『この村に聖剣の使い手が現れる。』との神託が下りました。

そして、神はこう仰られました。

『その者が今世の魔王を討ち滅ぼし、世界に光を与える勇者となるだろう。』と。」


聖女の言葉に、多くの村人の脳裏には、ある光景が映っただろう。

僕が、初めてその両手で物を握った瞬間、そして、僕の母がその力で死んでしまった瞬間を。


「ですので、この村にその聖剣使いを探しに参りました。

聖剣使いにはその両腕に赤い痣があると神は仰られました。もしこの中に両腕に赤い痣をお持ちの方がいらっしゃるのであれば、名乗り出ていただきたく思います。」


静寂が村に訪れる。

そして、1人の青年が発言した。


「その聖剣使いなら、おそらく村の外れの馬小屋にいると思われますよ。そこで寝泊まりしております。」


僕はその人混みから逃げ出した。

なんとなく逃げねばならぬ気がした。

村の外の森の中に逃げ込み、眠ったふりをして夜を待ち続けた。


星が出て、月が登るまでずっと。


皆が寝静まっただろう頃合いに、僕は寝床の馬小屋へと戻ってきた。

まあそこからが予想外だった。

扉の前に誰かの人影があった。

それは昼間の聖女だった。


「貴方がこの小屋に住まう者ですね?」


少女の発言には微弱ながらも覇気めいたものを感じた。

僕は抗う気持ちも起きず、ただ「はい」と答えることしかできなかった。


「そうですか。では、早速ですが、貴方の両腕を見せてはいただせませんか?」


お願いするような言葉だが、それに紛れた覇気は拒否する権利を認めない。


僕は為すがままに、両袖を捲られ酷い傷跡を見つめられた。


「ああたしかに、ではあなた様が聖剣使いなのですね。」


少女は長年探していたお宝を見つけたというような笑みで私の顔を見ていた。


「……ようやく見つけました。申し遅れました。私はレイナ、レイナ=アルニエル。皆様からは聖女と呼ばれております。早速ですが、貴方様には私とともに王都へと出向いていただきます。」


いきなりだが、やはりこの覇気には逆らい難い。

僕は、ただ首を縦に振ることしかできなかった。


翌朝、僕は誰にも見送られる事なく、村を旅立った。


挨拶は、聖女だけがしていたので、誰が聖剣使いだったのかなど村の連中は気にも止めなかったようだ。


流れ行く村の景観に、やはり僕の居場所はここにはなかったのだと感じてしまったのは、なんとも悲しいものだった。


性懲りも無くまた始めるあたり、自分らしいというかなんというか。

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