何も思いつかない
「・・・はぁ」
いつ頃からか、朝目覚めて最初にすることがため息になっていた。
もともと低血圧気味ではあったけれど理由はそれだけではない。
夢を見ていた。
夢の内容はいつも忘れてしまっているけれど確かに夢の中で私は生きて、何かを感じていた。
その何かが今の私には無い特別なものに思えて仕方ない。
それだけに朝目覚めたとき空しい。
「っと、着替えなきゃ」
しかしその空しさも私には些細な感情の揺らぎだと割り切る。
なぜなら私は今、多感で、思春期で、絶賛思春期中の、花も恥じらう16歳の女子高生だからである。
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「行ってきまーす」
ローファーに履き替え靴を鳴らす。
姿見を見て変なところはないか確認する。まっすぐに切りそろえた黒い前髪。内巻き気味のボブカット。皺のない制服。うん、今日の私は完璧な女子高生だ。
「あんたお弁当忘れてってるよ!」
「んーありがと」
母親が包んでくれた弁当箱を受け取る。
何気ないその動作。
その瞬間、軽い頭痛がした。
「ーーっ」
「何?大丈夫?」
「ごめん・・・大丈夫」
私はすぐに立ち上がり弁当をリュックに入れた。
今のは何だったのだろう。なんだか前にも、ここじゃない別のどこかで同じようなことをしたようなデジャヴュを感じた気がした。
でもそんなことはすぐに気にならなくなった。
なぜなら玄関でお弁当を受け取ったことなんて以前にもあったことだし頭痛も昨夜スマホのゲームを夜遅くまでやっていたからかもしれないし。
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家から最寄りの駅に着く。
それなりの広さのこの駅は朝の通勤通学時間はやはりそれなりの混雑になる。
私は背が低く人混みが怖いのでいつも壁際にそそくさと移動し電車でもそそくさと車両の隅に陣取るスキルを手に入れていた。
そして今日も例によって壁際に移動しようとした矢先だった。
スーツを着たサラリーマン風の男性にぶつかられて私はみっともなくホームに転げてしまった。
「ごっごめん、大丈夫かい?」
手をさし伸ばすサラリーマン。私は気恥ずかしさとかもうこれ以上かかわらないでほしいとかいう思いで軽く言葉を交わして立ち去ろうとして口を開いた。
「はぁ?どこに目ぇつけてんだてめぇ?服が汚れただろうが」
・・・・・・・・・・・私は今なんて言った?
サラリーマン風の男の人も唖然として口を開いている。しかし言葉を発した私自身も驚いているんだからどんな状況だこれ。
「ごめんなさい私はこれで」
私は面倒な揉め事になる前に立ち去ろうとして、
「ごめんね、君が小さすぎて存在してるのかわからなかったからぶつかってしまったよ。これからは存在感というものを出しながら歩いてね」
怒りでサラリーマンに蹴りを入れていた。
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私はどうしてしまったのだろう。
あの後不思議な行動と言動に恐怖を覚えた私はその場を逃げてしまった。
覚えているのは私に暴言を吐いた直後のサラリーマンの男性の困惑していた顔だった。
あれはなんだったのか。あのサラリーマンに自然と口が暴言を吐いてしまうなんてことがあるのか。
今日の自分は気が緩んでるのかもしれない、気を引き締めて一日に臨もう。
などと考えていたら放課後になった。
部活をしていない私はさっさと帰路に就くべく駅に足を運んでいた。
私が通っている学園は中高大一貫の女子学園で夕方になると街は女学生で行き交うことになる。
「あのー」
歩道橋に差し掛かったところで声をかけられた。
振り返ると中等部のリボンをした髪の長い女の子がいた。
「どうかした?」
先輩に話しかけるのが恥ずかしいのか緊張した面持ちでもじもじしている。かわいい。
「あの・・・あの・・・!」
「なんだいなんだいお姉さんに何か用事かな?」
「もしかして・・・アレックス、だよね」
「・・・・・・・・・・・・・エリ・・・ナ・・・・?」
このとき私は、水樹梨々花としてこの世界に生まれ変わっていることに気付いたのであった。
自分に文才がないことに気付けた