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招致

 

 明美さんは、調子のいい鼻歌とともに仕事場に戻っていった。


 あの曲は、昔テレビ放送していた、女怪盗もののアニメの主題歌だ。

 ポニーテールのやつでも、神風のやつでもなくて、もっと古い三人姉妹のやつ。

 なんだかテンション高めだが、描いている漫画は、ほのぼの系四コマ漫画のはずなんだけど。


 剛士を呼んでも大丈夫になった。


 あ、でも、早優奈ちゃんの意向も聞いておいたほうがいいか。


「早優奈ちゃん、剛士って、近くに住んでる僕の友達なんだけど、呼んでもいいかな」

「うん、きょかするー。ひかりくんって、四年生では有名なひとだよね」

「知ってるんだ?」

「んーとね、前にお姉ちゃんが言ってたよ。四年生の女子のあいだでは『恋愛して恋人にするなら陽狩くん。結婚して夫にするなら鷹月くん』って言われてるんだって」

「へ、へえ……」


 知らなかった。本当に、そんなことを言われてるんだろうか。

 そして、これは素直に喜んだらいいことなんだろうか。


 なんだか、剛士に比べて、刺激か少なくて安定志向で、ずっといても疲れなさそうな程よい空気みたいな男って意味みたいにも受け取れる気がする。

 しかも、剛士とセットで言われてるんだけで、僕単独では絶対にそんな話題にされることはないんだ。

 そもそも、注目されることすらないんだ。地味だから。


 女子の誰がそんなことを言ってるんだろうか。

 僕は、森川さんのことを思い浮かべて、すぐさまその考えを打ち消した。

 あの人は、そういう話はしないと思う。


「早優奈、また余計なこと言って」

「えー。余計なことっていうのは、お姉ちゃんがその後で『私は恋愛も結婚も両方とも、孝一くんのほうがいいかな』って言ってたことを言っちゃうよーなことでしょー」

「だーかーらー、わかってるなら言わないのぉー!」


 架純ちゃんは、早優奈ちゃんを怒りはするけど、発言を否定しなかった。

 ということは本当にそう言ってたことになる。

 これはこれで、どう受け止めたらいいんだろうか。


 冷静に考えてみよう。


 架純ちゃんは、剛士みたいなタイプがあまり好みではないのかもしれない。

 たとえば他の女子だったら、剛士を家に呼ぼうなんて話題になっただけで、ときめきドキドキモードになってしまうんじゃないかと思う。

 だったら面倒臭かったな。

 そう考えると、架純ちゃんは剛士には特別な興味はないようだ。

 恋愛も、結婚も、あえて選ぶなら僕のほうってくらいの感覚なんだろう。


 たぶんそんな感じだね。


「わ、わたし、出前で注文する用のチラシをキッチンから持ってきとくねっ。孝一くんは、陽狩くんを呼んでおいて!」


 話題が話題だけに、やはり気恥ずかしいところがあったみたいで、架純ちゃんはキッチンに姿を消した。


 僕は、携帯で剛士に連絡をとることにした。


 数年間、母が病死してからは父子家庭だったこともあって、僕は小学生ながら携帯を持たせてもらっている。

 剛士も持っているのは、親友である僕が持っていることがあって、剛士の両親が気を回して渡してくれたのだという。

 剛士自身は特にねだったりしたことはないらしい。

 信頼されている証だと思うし、いい両親なんだと思う。


 電話を鳴らすと、剛士は予想以上に早く出た。


 やはり暇なんだろう。

 僕は、要件を話す。


『サッカーゲームか。いいな。で、コントローラだな、持っていっていいか聞いてみる』


 剛士は乗り気だ。

 電話のむこうで、剛士が家族と会話をしているのが聞こえる。


『いいってさ。二個とも、持っていったらいいんだな』

「うん、雨降ってるから濡らさないように気を付けてね」


 精密機器にとって、水属性の攻撃は最大の弱点だから。


『おう。コンビニのビニールがあった。これに入れてく』


 剛士は電話を切った。


 そして彼は、一分も経たないうちに我が家の玄関にいた。


 たぶん、すぐに来るからと言って、玄関に向かった僕と早優奈ちゃんより早かった。

 本気を出したときの剛士のスピードは侮れない。


「よお、来たぜ。なんか、孝一の家も久しぶりだなあ」


 手には、コンビニビニールに放り込まれた二つのコントローラが握られている。

 なんだか、釣ってきた魚を持ってきた人みたいに見えた。


「あっ、もう来たんだ」


 架純ちゃんが、何枚かのチラシを手に現れた。


「おっ、星野か。ほんとに居るんだなー」

「なによ」


 剛士の言い方に、架純ちゃんは反発を覚えたみたいだ。

 でも、ひょっとしたらツンデレ的な反応なのかもしれない。


「あ、同じ顔の妹もいる」

「なによー。同じじゃないしー。早優奈のほうが、にわりましでしょー」

「なにそれ、どういう計算でそうなるのよ」

「お姉ちゃん、わかってないなー。いつの時代も、男はみんな若い女のほうがこのみなんだよ」


 若いといっても、僕らはみんなまだ小学生なんだけどな。


「ははっ、面白い姉妹だな。良かったな、孝一。いい家族ができて」

「うん。二人ともいい子だし、良かったよ」


 普段は絶対に言わないようなことを、あえて口にしたのは、間接的に剛士に対する二人の評価を上げておきたかったからだ。


 二人は、今のを聞きましたか、早優奈さん。ええ、聞きましたよ、架純さん。という顔をしている。


 僕にとっても、こんなふうに自分の気持ちをはっきり言えてしまうのは、剛士の陽性のキャラクタに後押ししてもらってこそだから、彼という親友がいてくれて本当に良かったと思った。


 三人とも、僕の大事な人たちだから仲良くしてほしい。


 そうして僕らは、雨の日に四人で、サッカーゲームを遊んだんだ。


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