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誤解

 

 僕が、委員長を振った?


 どうして、そんな噂が流れているんだろうか。

 訳がわからない。

 心当たりといえば、やはりあの日直のときの手紙のことだけど。


 例えば、あの場面を誰か第三者が教室の外から見ていたとすれば……。

 確かに、僕が委員長に告白されているように見えたのかもしれない。


 でもあの手紙は剛士に向けたものだったんだから、それは大いなる誤解というものだ。

 困ったものである。


 僕は、後ろに逸れたボールに走り寄ると、そこからまたパス交換を再開する。


「それって、誰から聞いたの?」


 ボールと同時に、剛士に質問を投げ掛けた。


 適当な噂を流している人がいるなら、委員長のためにも誤解を解いた方がいいだろう。


「誰って、皆川からだけど」


 剛士からパスが返る。

 今度はミスはしなかった。


 皆川さん?

 あの人は、そこらの男子よりも、よほど男らしいと言われている女子だ。

 とても、そんな噂を流す人とは思えないけれど。


 どういうことだろう。


 僕は、自分で残念なくらい、へろへろしたパスを送る。


「皆川さんが?」

「そうそう、あいつ委員長と仲いいだろ。お前のことで、ずっと相談に乗ってたんだってさ」

「ん? それは、つまり、やはり、委員長が好きな相手は僕だということ、なのかな?」

「そりゃ、告白するからには好きなんだろ」

「僕を?」

「そう」

「委員長が?」

「そう。されたんだろ、告白?」


 うーん。

 どうやら、僕のほうに思い違いがあるのかもしれない。


 思い出して、整理してみよう。


 剛士が、皆川さんから聞いたという話を真実だとする。


 剛士も、皆川さんも、こういうことで嘘をつく人ではない。

 信じられる二人だ。

 だとすると、あの手紙は剛士にではなく、僕に宛てたものだったということになる。


 よく考えたら、ラブレターといえば剛士に行くものだという公然の法則みたいなものが僕の基本思考に刷り込まれていた。

 はなから僕にラブレターがくるという可能性は考えていなかったんだ。


 前世の僕ならともかく、鷹月孝一は地味ながらも、それなりに整った顔立ちをしているんだから、一人くらい好きになってくれる女子がいても不思議でもないかもしれない。

 一応、想定しておくべきだったのか。


 いやいや、そんな自信家じゃないし。


 でも、委員長は僕に、とは一言も言っていなかった。


 あの時は、二人しかいなかったんだから自然に考えたら、そりゃそうか。


 委員長が言っていたことを思い出してみよう。


 確か、手紙を出す直前に、剛士と僕がいつも一緒にいるというようなことを言っていたはずだ。

 僕はあの時には、剛士といつも一緒で仲がいいから、代わりに手紙を渡してほしいという意味で解釈していた。


 でも、違ったんだ。


 いつも剛士といるから、手紙を僕に渡すタイミングがなかったという意味だった。

 だから、二人だけになる、あの日の日直の放課後に渡そうとしたんだ。


 だいたい、委員長みたいな人はラブレターを他人に託したりせずに、本人に自分の手で渡そうとするんじゃないだろうか。


 なんだか、辻褄が合ってきたする。


 どうやら僕が間違っていたんだろう。

 気がつかないうちに、委員長から告白されて、それを断ってしまったことになっているみたいだ。


「うん、されてたみたいだ、告白」


 僕は、剛士にパスを送る。

 なんとか、もうへろへろのボールの弾道ではない。


「なんだそれ、今、気づいたみたいだな」

「今、気づいたんだよ」

「ははっ、意味わかんねぇ」


 剛士は、なぜだか嬉しそうだ。


「しかし、さあ、なんで女子はレンアイとか、そういうのが好きなのかなあ」


 などと、小学生の子供みたいなことを言う。

 あ、小学生の子供だったか。


 どうやら、まだ少し混乱しているみたいだ。


「でも、孝一は優しいから、女子に告られたら断れずに付き合うようになるって思ってたよ」

「えっ、あー。まあ、そうかも」

「でもさ、委員長も、お前を選ぶあたり、いいセンスしていると思うよな」


 剛士は昔から、僕のことを過大評価している傾向がある。


「そ、そうかな」

「だってさあ、たぶん、オレを追っかけてる子たちって、みんな可愛い服がほしいみたいなノリの続きなんだぜ。かっこいい彼氏がほしい、って」


 自分で、かっこいいって言っちゃってるよ、この人。

 事実なんだけど。


 でも、そんなふうに考えていたのは知らなかったな。


「悪い子達じゃないんだけどなあ」


 しみじみしてしまっている。

 モテるやつには、モテるなりに悩みがあるってことか。


 僕なんか、前世から通してみても、告白されたのなんてこれが初めてなのに。

 しかも、そうと知らないうちに、お断りしてしまっていた。


 そうは言っても、実際、まともに告白されていたら、どうしたらよかったのだろうか。

 全然わからない。


 心はともかく、体はまだ小学生だし、付き合うとか、何をどうするのかさっぱり皆目見当もつかない。

 この手のことについては、前世の知識もまるで役に立たない。

 むしろ現実で使えないアイデアが多くて、かえってマイナスなくらいだ。


 どうしたらいいか、わからないなりにも、委員長とのやりとりに誤解があったのは間違いないみたいだし、付き合うとかは置いておいて、一度、委員長に勘違いしたことを謝るなり、話をしたほうがいいんだろうか。


 なんとなく、こっちが謝ったら、委員長の方でも謝りはじめて、謝り合戦みたいな感じになりそうな気がしてならないけど……。




 翌日の朝。


 いつもどおり登校して玄関口で上履きに履き替えると、そこで僕を待っていた人物に会った。


 わざわざ先に登校して待ち構えていたみたいだ。


 腰に手を当てて仁王立ちする、長身の女子。

 皆川さんだ。


 彼女は、無表情に僕を見る。

 一生に一度のモテ期到来で、今度は皆川さんが僕に告白──という雰囲気ではない。


「鷹月、ちょっといいかな」


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