4話 1日目の終わり
冒険者ギルドまでやって来た僕はさっそく換金所に向かう。
ゴブリンの魔石で1つ1つは小粒で質も良くないけど、結構な量があるから多少は期待できるかな?
そんな期待にどきどきと胸を高鳴らせ、ちょうど空いた受付で換金をお願いすることにした。
「あら? 今日登録していた子よね~?」
換金所のお姉さんはほんわか系なエルフさんだ。
「アンナです。よろしくね~!」
「アルフレッドです! こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を済ませながらも受付の上にあるトレーに魔石を出していった。
「あらあら。ずいぶん頑張ったわねぇ~」
アンナさんは感心したように片手を頬に添えてそれを見ていた。
「ははは……色々ありまして……」
僕は今日の出来事を振り返って思わず顔が引き攣っていく。
「あまり無理しちゃだめだよ~!」
アンナさんはめっ! というように僕を注意しながらもトレーに出した魔石の計算してくれている。
僕がそれにお礼を言っている間に計算が終わったようで、魔石を受け取って大銅貨8枚をトレーに乗せてくれた。
「全部で8,000ガルドですよぉ。初日なのに凄いですねぇ。セシリーが気に入るわけです~」
え? セシリーさん?
あんな美人なお姉さんに気に入ってもらえるのは嬉しいけど、僕に言っちゃって良かったのかな?
「ア、ン、ナ……?」
突然、背後から怒りを滲ませた声が聞こえてきた。
視線を向けるとやはり言ってはいけない事だったらしい……。
額に青筋を浮かべたセシリーさんがいて、アンナさんを般若のような形相で睨みつけている。
「あらあら。そんなに照れなくてもいいのに~」
アンナさんはセシリーさんの怒りを物ともせず、にやりとしてからかっている。
「もぉー!! ……もういいわよ。アルフレッド君行きましょうっ! 宿に案内するわ」
セシリーさんはそんなアンナさんから逃げるように、僕を急かしながら歩き始めた。
耳が薄っすらと赤に染まっている。恥ずかしかったのだろう。
「ごゆっくり~!」
アンナさんは面白がって追い打ちをかけていった。
そこまで追い込まなくても……。というかごゆっくりってなにをだよっ!
「アンナのバカっ!」
セシリーさんは子供みたいな反撃をしていた。目尻には光るものが……。
普段のお姉さんっぽいセシリーさんもいいけど、こういうセシリーさんもありだな!
馬鹿なことを考えてる間に、いじけたセシリーさんはギルドを出ていってしまった。
僕もアンナさんから大銅貨を受け取り、お礼を言ってから急いでセシリーさんを追いかけた。
隣り合って歩く僕達の間には、気まずい雰囲気が流れてしまい、お互いに沈黙してしまう。
暫くすると、少し落ち着いたのだろう。セシリーさんの方から沈黙を破ってくれた。
「……それにしても……初日で8,000ガルドは凄いけど。……ちょっと無茶しすぎじゃないかな……?」
僕のことを心配して言ってくれているのはわかるが、今回は僕にも事情がある。
「初めは1、2体のゴブリンだけ相手にしていたんです。だけど、ゴブリンの群れに囲まれている女の子を見つけて助けに入ったんです……」
自分でも結構な無茶をした自覚はあったから、自然と苦笑いが溢れてしまう。
「そう。それで、その……平気だった、の……?」
セシリーさんは囲まれていた女の子――シエルの事を心配しているのだろう。不安そうにしている。
僕はその不安を少しでも拭えればと思い、ゆっくりと落ち着きを払って事の顛末を話した。
「無事ですよ。怪我もしていなかったです。むしろ、僕よりも元気でした」
「それならよかった。――あ、ここだよ!」
安心してくれたのだろう。
セシリーさんは不安そうな表情を和らげてくれた。
それから少し湿っぽくなってしまった空気を入れ換えるように、はしゃいだ感じで目的地である宿屋に着いた事を教えてくれた。
そこは2階建ての小じんまりとした宿屋だった。
「私がおすすめする宿屋――《頑固親父の満腹亭》だよっ!」
「…………」
とっても嫌な響きだ……。
もうちょっと店の名前を考えたほうが良いんじゃないかな? 正直入りたくない。
僕と同じ反応をする人が多いのだろうか?
すぐさま、黙り込んでしまった僕にセシリーさんがおすすめの理由を教えてくれる。
「ふふふ、名前はとにかく。ご飯も美味しいし、お値段もお手頃なの。店主のおじさんも寡黙だけどいい人だよ。それに、アルフレッド君なら気に入ってもらえると思うよっ!」
セシリーさんがおすすめするなら信じたい……。だが、不安しか無い。
後退りしている僕の事をセシリーさんは待ってくれず、《頑固親父の満腹亭》の中へと入っていってしまった。
残された僕も焦って追うように中へと入った。
受付にいた店主は……いかにも頑固親父といった感じの親父だ。
「――セシリーの嬢ちゃんか?」
「ヨーゼフさん、今日登録したばかりの子なんですけど。宿屋を探していたので連れてきましたっ!」
「そっちの坊主か?」
ヨーゼフさんの視線を受け、僕の背筋は自然と伸びていく。
だって怒られたら嫌だし……。緊張するじゃん?
「はいっ! アルフレッドと言います!」
「おう。俺はヨーゼフだ。セシリーの嬢ちゃん。あとは俺が説明する」
「はーい! それではヨーゼフさんよろしくお願いしますね。アルフレッド君もまたねー!」
セシリーさんは僕に手を振ってから、ポニーテールを左右に揺らしながら楽しそうに帰ってしまった。
まだ2人になるのは怖いんですけど……。
「坊主。うちは1泊2,000ガルドで食事は朝夜2回ついてる」
食事なしで2,000ガルドくらいが一般的だ。確かに、お手頃価格である。
「それとシャワーも5分までなら料金に含まれてる。もっと使いてえなら5分で300ガルドだ」
シャワーは別料金の場合が多いのでかなり高条件だ!
けど、まだヨーゼフさんが怖い。とりあえず1泊分にしておこう。
「とりあえず1泊分でお願いします。シャワーは5分で足ります!」
「おう。2,000ガルドだ」
ヨーゼフさんに大銅貨を2枚を渡した。
「204号室を使え。飯はどうすんだ?」
部屋の鍵を受け取りながら、自分の身体を確認してみるとかなり汚れている。
汚い状態でご飯を食べるのは嫌なので、ますはシャワーを浴びて身体の付着した汚れを落としたかった。
僕が先にシャワーを浴びてもいいか尋ねると、ヨーゼフさんは「構わねえぞ」と言ってくれた。
僕が泊まる部屋は一人部屋の小じんまりとした部屋だが、清潔に保たれており、窮屈と思うほど狭くもない。
部屋に満足しながらも荷物を置いて、すぐにシャワーを浴びる。
シャワーは魔石を材料に作られた魔道具で、備え付けの魔石に専用の装置を使って、別の魔石から魔力を流し込むことで使用できる。
魔道具は他にも、コンロや冷蔵庫といった物もあり、生活に深く根付いている。
魔石の需要は衰え知らずだろう。
シャワーを浴びてさっぱりとした僕は、さっそくご飯を頂こうと食堂に向かう。
今日のメニューはミートソーススパゲッティーにシチューでパンもついていた。
満腹亭という名前を表しているような量だ。早速食べてみようっ!
「お、おいしいー!!」
思わず声に出してしまうほど美味しい!!
名前を変えたらもっと繁盛するのではないだろうか? まあ僕が気にしても仕方がないことなので、今はこの美味しいご飯を食べる事に集中しよう。
僕はしっかりと味わいながらも、無我夢中でヨーゼフさんの料理を口に詰め込んでいった。
「坊主。味はどうだ?」
ヨーゼフさんが僕の所に来て、感想を聞いてきたので精一杯伝えようとした。
「もごもごもごもごっ!!」
口に物が詰まりすぎて言葉に出来なかった……。
「……ちゃんと飲み込んでから喋りやがれ。ほら、サービスだ」
ヨーゼフさんは眉根を寄せて呆れていたが、僕に分厚いステーキをくれた。
ステーキをもらって、僕は口に詰まっていた物を慌てて飲み込む。
「い、いいんですか?!」
「ああ、俺がやるって言ってんだ。貰っとけ」
見た目は頑固親父だ。
でもヨーゼフさんは優しい親父だな。
「あ、ありがとうございます! それと、さっきはちゃんと言葉にできなくてごめんなさい。とってもおいしいですっ!!」
「……おう」
ヨーゼフさんは照れくさそうに厨房に戻っていった。
追加されたステーキもとっても美味しかった!
食事を済ませた僕は、ヨーゼフさんにもう一度お礼を言ってから部屋に戻った。
今日はかなり疲れたから、ステータスだけ確認してすぐに寝ることにした。
アルフレッド・クラージュ
年齢 15歳
種族 人間
職業 冒険者
称号 無し
Lv1
【アビリティ】
筋力 F
耐久 F
敏捷 E
耐性 G
【スキル】
《剣術》
【魔法】
無し
「え? やった……。やったあああああ!!」
スキルに《剣術》が追加されていた。
僕は嬉しさが込み上げきて叫び声を上げてしまお
「うるせえぞ坊主!!」
ヨーゼフさんに怒鳴られてしまった……。
それでも念願のスキルが手に入った。
それに、耐久と敏捷まで上がっているっ!
また嬉しさが込み上げてきて、ステータスを見間違いじゃないよね? と何度も確認した。
1ガルド=約1円の予定です。