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7つの迷宮がある世界の『英雄』譚  作者: 空兄
1章 少年と少女達の出会い
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3話 紅の少女

 迷宮はこの世界に7つ存在しており、最深部には魔物の王『魔王』がいるとされている。

 迷宮で得られる魔石や素材は富を生み、7つの迷宮の傍らには7つの大国が存在する。



 その一つ、大国エーアスト王国にあるのは憤怒の迷宮。

 冒険者になったばかりの少年の冒険が始まろうとしていた。



「――よし。セシリーさんに言われた通り入口付近を探索しようっ!」


 感慨に耽っていた僕は気を引き締め直して、迷宮の入口から奥へと進んでいく。

 迷宮の中は洞窟のような造りになっているのだが、蛍のような淡い光を発する光苔やクリスタルがあるのでそれなりに明るい。


 しばらく迷宮を探索していると、緑色の肌に1m程の身長の子鬼のような魔物――ゴブリンを見つけた。


 1匹だけっぽいしちょうどいいかな?

 周囲を見渡してみるが他に魔物はいないようだ。


 僕は腰に差していた片手剣を右の手で抜きゴブリンへと走り出した。

 ゴブリンもこちらに気が付いたようで、手に持った棍棒を振り上げて迫ってきている。


 ゴブリンの棍棒を潜り抜け、背に回り込んで横薙ぎに剣を一振りした。

 剣を握る手に重みを感じながらも振り抜くとゴブリンは絶叫を上げたが、背に一筋の跡を残しただけで命を絶つには至っていない。


 これじゃ倒せないか。もう一度っ!

 すぐさま、踵を返して背中の肉を裂かれもがき苦しむゴブリンに剣を振り下ろす。

 先よりも深く踏み込んだかいもあり、ゴブリンの肩から腰にかけて剣が奔り両断することが出来た。


 ゴブリンはその身体を光の粒子と魔石に変えてこの世を去っていく。


「緊張した……。でも、僕でもなんとかなったっ!」


 初めての魔物との戦いに勝利はしたものの、緊張で多少疲れを感じたが、次第に僕でもやれるという感動が押し寄せてきて嬉しさが込み上げてきた。

 暫くの間、感動に浸っていたが、満足できたところでゴブリンの魔石を回収して探索を再開する。


 先程と同じように1体のみのゴブリンを見つけて、戦っていたんだけど慣れてきた。

 だから目の前にいる2体のゴブリンとも戦ってみようと思う。


 ゴブリンは僕に気が付いていないので、どうせなら奇襲をかけようと、僕は背後から気配を消して近寄っていく。

 ゴブリンが違和感を感じ振り向くが、同時に、僕の剣がその首を切り落とした。


 残ったゴブリンは仲間がやられたのを気に留める事もなく、僕目掛けて一切の動揺もないまま棍棒を振り下ろしていた。


 思っていたよりも軽い攻撃だな。まあ、ゴブリンだししょうがないか。

 僕は左手に装備している盾で、ゴブリンの棍棒を防ぎ、隙を見せたゴブリンの心臓を剣で貫いた。


 1体のゴブリンで慣れていたからかな? 結構余裕だった。

 そんな感想を抱きながらも魔石を回収したが、宿屋に行く前に迷宮に来てしまったせいで、これ以上荷物を増やしてしまうと動きに支障をきたしてしまいそうだった。


「魔石も結構手に入ったし今日はそろそろ帰ろうかな! ――んっ?」


 いい頃合いだから帰ろうとしていると女の子の雄叫びが聞こえてきた。

 な、なんだろ? 見に行ってみようかな……。


「――ああ! ――あああ!!」


 雄叫びが近くなってきたので足を早めて更に進む。

 雄叫びの発生源は――


 爛々と燃え盛る焔のように煌めく紅の髪に、ルビーのように美しい輝きを宿した瞳の小柄な美少女だった。

 少女は頭部から角を2本と腰から尻尾を生やしていた。竜人だ。


 驚くほど整っている凛々しい顔立ちと相まって、その姿は小柄ながらも気高さを感じさせるほど美しかった。


「うりゃあああ!! もう何体いるのよ! 良い加減しつこいわよっ!!」


 その少女は十数体のゴブリンの群れに囲まれており、中心で身の丈程の斧を手にし暴風の如き凄まじさで振り回している。


 魔物の横取りはマナー違反だとセシリーさんに教わっていたので、一旦、様子を見ることにした。

 ただ、少し押され気味なので、すぐに助けに入れるように準備はしっかりとしておく。


「やぁあああ!! とりゃあああ!! ってなんで減らないのよっ!!」


 雄叫びがうるさいからだろっ! と内心ツッコミを入れてしまう。


 先程から結構な数を倒しているのに、雄叫びを聞きつけたゴブリンがどんどん追加されていって数が減っていない。

 それでも少女の方もかなりタフなようで、ものすごい勢いで斧を振り回してなんとか対応できている。


 す、すごいなー……。あれ、僕じゃできないな。

 ただ、少女もさすがに疲れを見せ始めた。

 少しずつ動きが鈍くなっていき、暴風の如き凄まじさを誇っていた斧も勢いを弱め始めている。


 危ないっ!

 勢いを失っていく暴風を掻い潜ったゴブリンが、背後から少女に狙いを定めていた。


 僕はすぐさま駆け出して、少女に振り落とされようとしていた棍棒を盾で防ぎ、ゴブリンが何が起きたかを理解する前に両断した。


「へ? だ、誰なの?」


 少女は突然の乱入者により、頓狂な声を上げて驚いているようだった。

 さぼらせておくわけにもいかないので、少女に敵意はなく助けに入った事を伝えた。


「僕はアルフレッド。手伝うよっ!」


「それはありがたいわね。倒しても倒しても数が減らないのよ……」


 言いにくいんだけどな……。このままじゃきりが無いし伝えるしか無いよな?

 背中合わせでゴブリンを倒しながら、悪態をついている少女に、覚悟を決めて伝えることにした。


「……たぶんだけど。君の雄叫びを聞いて寄ってきてるんだと思うよ? 僕もそれで様子を見に来たし……」


「なっ!? 可憐な乙女に向かって失礼よっ!!」


「…………」


 確かに、少女は小柄で可愛い。

 けれども身の丈程の斧を暴風の如き凄まじさで振り回しながら雄叫びを上げていたんだ。


 それで可憐は無いだろー。


「何か言いなさいよっ!!」


 僕が余計なことを言わないように口を閉ざしていると、痺れを切らしたのか少女が怒り始めてしまった。

 そんな事している場合ではないと思うんだけど……。


「その話は後にしよう……。それよりも先にゴブリンを片付けよう!」


「…………悔しいけどそうするわ」


 少女は非常に不満そうにだが、なんとか同意して黙々と戦ってくれた。

 おかげでゴブリンの増援が来なくなり、10分程で僕達を取り囲んでいたゴブリンを全滅させた。。


「し、んどかっ、た……」


 僕は初めての魔物の群れとの戦いで疲労が限界に達し、その場で地べたに座り込んでしまった。


「情けないわねー!」


 少女は呆れた様子で僕に話しかけてきた。

 確かに僕よりも前から戦っていた少女は立ったままだ。自分でも情けないとは思うよ。

 それでも、助けたのにその言い方はないんじゃないかなー?


 僕が内心で悪態をつき、胡乱な目で少女を見ていた。


「ふふ、冗談よ。助かったわ。ありがとう。私はシエルよ」


 少女は悪戯が成功したのを喜ぶかのように微かに笑みを溢してからお礼を伝えてくれた。

 あらためてちゃんと見ると見惚れてしまいそうになる。


「シエル?」


 すでに見惚れていたらしく、それが名前であることすら理解できないほど頭が回っていなかった。


「名前よっ!」


 なんでそんなこともわからないの?

 とシエルは言いたげだが「君に見惚れていたからだよ」なんて言えるはずもない。


「ああ、先も教えたけど。僕はアルフレッド。よろしくね!」


 僕が右手をシエルに伸ばすと、シエルは僕の右手を取り握手をしてくれた。


「こちらこそよろしくね。アル!」


 シエルのひだまりのような笑顔に、思わずまた見惚れてしまいそうになった、

 それに握手をしている手は斧を軽々と振り回していたとは思えないほどに柔らかかった。


「どうしたのアル? あ、いきなり略称で呼んじゃ駄目だったかな? ごめんね……」


 またもや、僕はシエルを眺めてぼーっとしてしまい、黙り込んでしまっていたようだ。

 そのせいでシエルに不安を与えてしまっていたようだったので、焦って否定した。


「ああ、ごめん! そんなことはないよ。アルでいいよっ!」


「ならアルでいいわね。それと、魔石の分配はどうしよう……?」


 すぐに助けに入らずに様子を見ていたのはこれが理由だった。


「分配を先に決めて置かないと揉め事になりやすいから気を付けてね! 特に、横取りとかは絶対に駄目だよ!」


 とセシリーさんに言われていたのだが、今回は助けようと思っただけなのでシエルと揉めたくなかった。

 せっかく出来た美少女の知り合いだしね!


「勝手に手伝ったのは僕だ。シエルが持っていっていいよ」


「だめよっ!」


 シエルに間髪入れないで否定されてしまった。

 それからシエルは何か考え込んでいるようだった。


「――そうね。それじゃあ、半分にしましょうっ!」


「え、半分も? 僕が来る前に結構倒してたよね?」


 その総数は2人で倒した数よりも多いと思う。


「アルには助けてもらったから。だからそうしたいの。――それでも納得出来ないのなら、今度ディナーでもごちそうしてちょうだい?」


 シエルは正した表情で理由を述べてから、それを崩してまた可愛らしい笑顔で付け足してきた。

 こんなに可愛い美少女とディナーに行けるなんてむしろご褒美なんですが!!


「うん。じゃあそうさせてもらうよ!」


 だからというわけじゃないがシエルの提案に乗ることにした。

 シエルの感謝の気持ちを汲むことにしたからだ。

 やましい気持ちなど一切ありはしない。本当だよ……?


「それでいいのよ!」


 ドヤ顔で胸を張るシエルだが、その姿にすら可愛いさを感じながらも、シエルを観察してみる。


 僕の身長は172cmなんだけど、シエルは僕よりも10cm以上は小さくて、160cm無いくらいだった。

 それにかなり線が細いが、その身体のどこに、斧を軽々と振り回す力があるのだろうか?


 そんな疑問を巡らせていたが、全ての魔石を回収したので、一緒に帰ることにした。

 道中は2人で魔物を狩りながら、お互いのことを話し合った。

 シエルも僕と同じで、最近15歳になり冒険者になったらしい。


 明日も迷宮探索をしようと思っていたので、シエルを誘ってみたが、予定があるらしく断られてしまった。

 その代わり、別の機会に迷宮探索とディナーに行く約束をしてくれた。


 さすがにシエルも疲れていたらしく、換金を後日にして宿屋に帰るらしく、迷宮の入口でシエルと別れて、僕は冒険者ギルドへと向かった。

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